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なんだこれ

 無。

 そこには、何も無かった。

 そこに地は無く、空も無い。

 空気も無ければ、当たり前だが風も無い。

 光も無いので目に映る物は何も無い。

 時間の流れもそこには無く、完全な無だった。

 だがそんな場所に、それぞれ手に持った剣を構えて立つ、五人の少年少女たちが居る。

 彼らは高位次元からやってくる侵略者達と人知れず戦ってきた、勇者達だ。

 そして今彼らは、最後の敵、いや、真の敵と相対していた。


「一体どうすればこんな奴を倒せるって言うんだよ……」


 震わせる空気が無い世界でも、言葉の代わりに届く意思。

 意思には絶望が滲んでいた。



『どうした? まだ終わらぬだろう? お前達にはまだ出来る事がある筈だ』



 絶望的な表情を浮かべる少年少女達の頭の中に、若干のつまらなさを含んだ声が響く。



『最初の威勢はどうした? 早く私を消し去ってくれ』



 声の主は、頂点へと辿り着いたモノだった。

 全知全能に最も近い位置に存在する、モノ。

 


『私はただ、成長したかっただけなのだ。弱く、愚かで、惨めで、無様な自分を変えたくて、成長を求めた。私は成長する為にありとあらゆる物を手に入れ、ありとあらゆる物を捨てた。最初に私は寿命を捨てて、次に生命を捨てた。成長を続ける為にはそれらが邪魔だったのだ。そして自らの限界を決めてしまう肉体という器を捨てた時、私の成長、いや進化は急速に進んだ。時間の概念を捨てた頃、理解こそが自らの進化への近道だと気付いた』



 声から後悔の念を感じる。



『そして理解する毎に私は気付いた。世には端があるのだと。宇宙の果て、時間の果て。言葉としては想像出来ても、それが本当にあるのだとは思いもしなかった永遠には全て、端があるのだ。そして……』



 少年少女達の抱く絶望、それと比較にならない程深い絶望がこもった声が、彼らの全身を貫く。



『私は全てを理解してしまった。その瞬間から、私の地獄が始まった』



 絶望は少年少女を恐怖させる。

 だが耳を塞いでも声は遮れない。



『命を捨てた時点で死ねないのは覚悟していた。だがまさか、存在を消す事も出来ないとは思わなかった。知っているか? ある一定を越える力を持つと、その者は自殺する事すら出来なくなるのだ。手に入れた強大な力、万能な力には出来ぬ事が生じる。矛盾は起きずに盾が勝つ。人に向ける為の槍は自分自身を貫けなくなる。世の中はそう出来ているのだ』



 お前達には理解出来ぬだろうな、と寂しげな声。



『世界を自由に書き換えられる筈なのに、自分自身を上手く書き換える事が出来ない』



 独白に近かった声が、少年少女達に向けられる。



『だから、頼む。私を消滅させてくれ。上位次元の存在になればなるほど、私との差を理解して私を消そうとしてくれない。お前達だけなのだ、私に敵意を抱いてくれる者達は』



 声には姿が無い。

 存在も感じない。

 だが、そこに確かに居るのだという事が『理解』出来る。



『出来ないのならば……』



 ゾワッと声の気配が変わる。



『生かしておく意味も無い。すぐにでも消えてもらう事になるが?』



 戦意を失う彼ら。

 上位次元だとか何だとかは関係無い。

 この力の差、存在の差を感じられない訳が無かった。


「……わかりました」


 少女が一人、前に出る。


「あなたを私が、消し去りましょう」

咲耶(さくや)!」


 それを少年が止めようとする。


「何言ってるんだ、止めろ!」

「ありがとうございます、奏多(かなた)さん」


 少女の体から、ぽうっと薄い光が放たれ始める。



『どうするつもりだ?』



「あなたの今言った過程をこの場で一気に進めて、私もあなたの座にまで辿り着きます」



『ほう? 出来るのか?』



「出来ます。ここには五本全ての神剣と、私の体内に魔剣が二本入っていますから。この力を全て使ってあなたに追いつきます。そして、私の存在とあなたの存在で、対消滅させます」

「何言ってるんだ! 止めろ! 駄目だ! ……咲耶!」

「大丈夫ですよ、奏多さん。これが成功すれば私の存在そのものが過去未来関係無く完全に消滅するでしょうから、悲しむ必要なんて無いんです。私達は最初から出会っていなかった事になり、彼の存在も消滅するので、今までの戦いも全て無かった事になります。あなたは元の、戦いに巻き込まれる前の、平和な生活に戻れるんです」

「ふざけるなよ! 今までの事が無かった事にって、お前、それ!」


 じわりと目尻に浮かんだ涙を隠す様に、咲耶が奏多に背を向ける。


「す、すみません、約束を守れなくて」

「咲耶!」


 咲耶が泣き笑いの表情で振り向く。


「竜鳴軒の特製甘味噌担担麺、私も食べてみたかったです」

「咲耶ぁぁああああああ!」







『なるほど、方法は面白いがそれでは私に届かんな』







「一体どうすればこんな奴を倒せるって言うんだよ……」


 絶望をその表情に浮かべながら、少年少女達が震える手に剣を構える。



『もうこれだけか? これでおしまいか? 他に手は無いのか?』



 その声に疑問を感じる。

 まだ何もしていないのに、これでおしまいとはどういう事だろうかと。



『一人ずつ残して仲間を皆殺しにした時は、そこの少年と先程の少女が中々に良い結果を見せた。だが私には到底及ばない。全員の力を合わせた技とやらが一番良かった。良かったというだけで、私を消せるかどうかとは別の話だが』



 声が諦めの声を出す。



『わかっていた事だった……。だが私は信じたかったのだ。奇跡という物を。決まった結果を覆す、神秘の力という物を』



 そして、声が平坦になる。



『もう、よい。ここがお前達の成長の限界だ』



 死の気配を感じて少年少女達がざわつく。



『安心しろ、私の遊戯に付き合ってもらった礼だ。苦しませはしない。それに、お前達はここで死んだ方が幸せだ。お前達は力を付け過ぎてしまった。もう元の生活へは戻れ――』







「あのー、すんませーん。ここ、『ラーメン食べ歩き部』でいいんですよねー? ちょっと聞きたい事あるんすけどー」







『な、何だお前達は!? 何者だ!』


「てかラーメン関係無くねこれ? 何この謎ラスボス戦空間」

「あれですよ先輩。表向きはラーメン部、裏では地球を守る正義の味方ってやつですよ、きっと」

「発明品の事はともかく探偵部の調査結果にもここ含まれてたから、ラーメン部が何でだよと思ったんだけど、こういう事か」


『おい、貴様聞け!』


「そうだな。とりあえず聞く事聞いておくか。すいません、第二発明部の事なんですけど」


『この……私を無視するな!』


「うるさいなーあんた、ちょっと黙ってろよ」


 面倒くさそうな顔の日景が一度腕を広げ、中腰になると手を胸の前あたりでクロスさせる。



「イケメニウム光線!」



 ガーッ、という初代っぽい特撮系効果音と共に、美しき光の帯が無の空間に伸びていく。


『ぐわぁぁああああ!』


「「「「「えーーーーーー!」」」」」


 存在が無い筈のそれが悲鳴を上げた。

 口をあんぐりと開けて驚く少年少女達。


『私、が……美しく、な、る……――?』


 空間内にパァァアアアア! と思わず見惚れてしまう程の美しい光が広がり、そこに居た筈の、頂点に辿り着いたモノの存在が、消えた。


「な、えぇ!?」


 奏多がキョロキョロと辺りを見回す。


「消えてます……完全に」


 咲耶も驚いた表情をしている。

 それは確かに消えていた。

 皆の記憶と、歴史と、一瞬の輝きの中に美しさだけを残して。


「あなたは……一体」


 咲耶の言葉に、日景がポーズをとる。


「ふっ、名乗るほどの者じゃない。通りすがりの……イケメンさ」

「アウトー! 何なんですか今の! て言うか通りすがってないですし! 普通に用事があって出向いてきたんですし! で、それよりも! 何ですか今の!? 光線出ましたよ光線!」

「イケメニウム光線だ」

「それ! そういうの! 紬はいくらギャグノリだからって限度を越えてやり過ぎるの、大っ嫌いなんです! 世界観とかおかしくなりますし!」

「イケメニウム光線はイケメンの体内で生成される物質、イケメニウムを――」

「ほらそういうの! そういうのですよ! 調子に乗って! ギャグだからって調子に乗って!」


 ギャーギャーと怒る紬と冷静な顔の日景。


「あ、そうそう、それでなんすけど」

「よそ見しないで下さい! 聞いてますか先輩!?」

「はいはい、聞いてる聞いてる。それでさっきの話の続きなんですけど……」







      *







「本日の収穫はー!」

「ゼロでした-!」

「「お疲れ様でしたー!」」


 紬と頭を下げ合う。

 まぁそういう訳だ。

 色々回ってみたけど、メイ先輩の発明品は特に記憶と関係無い物ばかりで、ついでに今日回った部活に小日向の記憶を消したところは無かった。

 メイ先輩が言っていた通り、あの人が貸し出した発明品に危険な物は少なかった。

 野球やテニスの時に使う玉拾いロボットとか、落語部や漫才部が使うオーディエンスの笑い声発生機とか。

 ……少ないだけだけどな。

 あるにはあったぞ、危なそうなの。

 本来の用途的には危険な物では無いけれど、使い方によってはってやつ。

 幸いそういう使い方をする様な奴らには渡されていなかったから良かったものの。

 今日調べてどういう発明品かわかった物は、簡単なレポートにまとめてメイ先輩に提出した。

 危なそうなのは要注意とチェックを付けて。


「そんじゃ、続きは明日って事で」

「いいんですか? まだ部活によっては帰ってないところもあるでしょうし、もう少し回れますよ?」

「いいんだよ。初日から根詰め過ぎてもあれだしな。お前の言っていた通り、焦っても仕方ない。気長にやろう」

「……紬に気を遣ってくれてますね?」

「そんなんじゃないよ」


 慣れない事をして疲れた表情を浮かべる紬の頭を撫でる。

 嬉しさと不服さの混じった目で俺を見上げる紬に笑みを返すと、恥ずかしそうに目線を逸らす。

 

「さて、帰るか」

「……その気遣いへのお返しで、そこそこの願い事は明日以降に回します」


 ぷいっと顔をそむける可愛い後輩。

 別行動の三人にも連絡はしてある。

 あっちはあっちで適当に切り上げて、俺達より先に帰ったらしい。

 この後一人でもう少し回ろうかとも思ったが、それは皆への裏切りだろう。

 我慢だ。

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