まるでエロ漫画のアイテムみたいだ
「で? 結局何作ったんすか?」
あの微妙に普通な味のゼリーを完食して、一息ついたところで聞いてみる。
「へいお待ち」
すかさず何かを手渡された。
スタンバイしてたみたいだ。く
「……ストップウォッチ?」
「そう、ストップウォッチ」
「これが発明品?」
「うん、発明品」
わざわざこんな物作ったのか?
いや、一から作れるのは確かに凄いけど。
にしたって暇な人だな。
「あのね? 勿論これはただのスト――」
カチ
何となくスイッチを押してみた。
「…………あれ?」
急に無音になった。
校舎の外や廊下から聞こえていた生徒達の声が、全て消えた。
「え、何これ。怖い話? ちょっとメイ先輩」
どういう事か聞こうとすると、目の前にいるメイ先輩が口を開いた状態で動かなくなっている。
「え、何これ。マジで? メイ先輩?」
メイ先輩の前で手を振るが反応しない。
これはもしかして、あれか?
ドラちゃんの秘密道具的なあれか?
「時間が止まった、的な?」
ってまさかー。
「そりゃ!」
指をシュッと突き出してメイ先輩の目にギリギリ触れるか触れないかの所で止める。
演技ならこれで思わず目を閉じてしまう筈だ。
「…………」
反応しない。
「嘘。…………うそぉ」
次にふぅっと目に息を吹きかけてみる。
「…………」
ピクリとも動かない。
しばらく待ってみたが、やっぱり動かない。
仮に時間が止まった振りが演技だったとしても、目は我慢出来ない筈だ。
瞬きしてしまう筈だ。
つまり……。
「マジもんだこれ」
やべぇ。
「まるでエロ漫画のアイテムみたいだ」
テンション上がるわー。
「じゃ、まずはおっぱい揉んどかないとな」
時間が止まったらやらなきゃいけない事の一つだ。
「では失礼」
胸に手を伸ばし、遠慮なしに乳を揉ませてもらう。
「これは、中々……」
小日向のあのサイズ程じゃないが、これはこれでいい物を持っている。
そりゃ発明部もイチコロんなるわ。
「にしても都合いいなーこれ」
モミモミモミモミして気付いたけど。
時間止まってる筈なのに揉んだ胸が形を変えたままにならず、ちゃんと押し返してきて元の形に戻る。
リアルに時間が止まっていたらこんな風にはならない。
ご都合時間停止だな。
「どーれどれどれ、次にスカートの中はー?」
パンツを覗くのも、時間が止まった時にやらなきゃいけない事の一つだ。
「こんなもんを俺に持たせた上、こんなエロい体したメイ先輩が悪いと思いまーす」
これは仕方ない。
俺が何をしても仕方がない。
「ほうほう……おやおや、これはこれは、また随分とお派手な物を……」
「やると思ったー」
「へぇ!?」
驚き過ぎて声が裏返った。
聞こえる筈の無い声が聞こえたからだ。
「絶対セクハラしてくると思ったー」
「あれ!? メイ先輩!? 時間止まってたんじゃ!?」
「自衛対策位しとくよね。変態馬沢にそんな物持たせるんだから」
「変態馬沢って失敬な」
「乳揉んでパンツ覗いておいてそれ言うか」
「何でバレてんの!?」
「時間止まってる時にされた事の感触は全部残ってるのよ。解除された時にまとめてドン」
「そうな…………おぉ、なるほど!」
「…………な、何よ」
言われて改めて見てみると、冷静な様でメイ先輩が胸元押さえて顔赤らめて、モジモジしてた。
あのモミモミの感触が一度に来たからか。
結構ガッツリ揉みしだいてたからな。
一見遊んでそうな外見の女の子にこういう顔されると、何かこうグッと来る物がある。
「いいな、うん」
「おい、話聞けっ」
恥ずかしさを誤魔化す為か、ちょっと強い言い方をされながら指をさされる。
「ういーっす」
そして、このストップウォッチについての詳しい説明を聞く事になった。
このストップウォッチは、自分以外の時間の流れを操作する事が出来る、素敵アイテムらしい。
停止、早送り、スロー、の三つの能力がある。
停止は時間の流れを止め、早送りは時間の流れを早くし、スローは時間の流れを遅くする。
まぁそのまんまだ。
ストップウォッチに表示されている時間は、自分が本来の時間の流れからどれだけズレているかを示している。
停止をすると停止していた分の時間がそのまま加算されていき、スローをすると自分が早く動いている分の時間がゆっくりと加算されていく。
そうやってズレた時間は、早送りをして自分の時間の流れを遅くする事で取り戻す事が出来る。
調子に乗って時間を止めすぎて、自分だけ歳をとっていくのを防ぐ為の機能だ。
「ちょっと待って下さい。これ明らかに技術がオーパーツ過ぎるでしょ。あんたホントに何者ですか?」
「え、天才?」
「否定できねぇ~」
効果を一通り説明すると、ドヤッた顔で腰に手を当てる。
「さて、これを君にあげよう、海馬沢」
「マジっすか!?」
「マジ。その為に呼んだんだしね。というかもう海馬沢用にしちゃった時点で他の人は使えないし」
「俺用?」
「そう、海馬沢用」
持ち主は固定なのか。
でもそりゃそうか。
誰でも使える様だとあの時間の表示が意味無くなるもんな。
「じゃ、早速使ってきます!」
「うっれしそうな顔して~。あんま悪い事に使っちゃ駄目よ? あと、使ったら後でレポート提出してね。どういう風に使ったかとか、使ってみた感じどうだったとか」
「了解っす!」
レポート位何枚でも書くさ。
いつもはろくでもないもんしか作らないメイ先輩だけど、たまにはいい物を作るじゃないか。
「では、行ってきます!」
「はーい、行ってらっしゃい」
まず行く所は……。
*
お昼の中庭は人気スポットだ。
学園の敷地面積が広いだけあってここも広く、お金をかけてしっかりと整備してある。
そこでは生徒達が思い思いの時間を過ごしている。
昼食をとる者、早めに食事を終わらせて遊ぶ者、昼寝をする者。
そして、そんな場所に彼女達は居た。
小日向達だ。
ベンチに座り、膝の上にお弁当を広げている。
「小日向」
「んー? なーにー?」
食べる事が大好きな小日向は、幸せそうな腑抜けた顔をしていた。
「それでいつあの変態と別れるの?」
「え!?」
雅が真剣な顔で問う。
小日向の表情も変わる。
「え、えぇ~……? いつって言うか、別れる予定は無いかなぁ~……」
「どうして?」
「え? ど、どうしてって……」
困った笑みを浮かべながら、助けを求める様にそこに居るもう二人の方を見る。
「「それでいつあの変態と別れるの?」」
「こっちも!?」
小日向が言った瞬間、渚と清香が笑う。
「笑い話じゃないんだけど。真面目な話だから」
「「「………………」」」
マジ顔の雅に、三人が沈黙する。
「…………ふん、冗談よ」
そうは言うが、雅の言葉に冗談の気配は無い。
「はい、小日向」
気を取り直して、と言った感じに渚が自分のお弁当に入っていたアスパラのベーコン巻を小日向の口元に寄せる。
「アーン」
渚はアスパラが嫌いだった。
「あむ」
その事を小日向も知っている。
なのでいつもの事と、差し出された物をパクッと食べる。
カツ
「……ん?」
小日向が不思議そうな顔をする。
「あれ」
口の中の空虚感に違和感を覚えたのだ。
「どうしたの?」
「アスパラベーコンが……消えたの」
パクッと口を閉じた瞬間、箸の感触しか無かった。
「何言ってるんだか。自分で飲み込んだだけでしょ。全く馬鹿な子ね」
「あははは、小日向は体型ともかく頭の中は食い意地張ったデブだからねー。飲み込んじゃった事に気付かなかったんだ」
「いや、本当に消えたんだってば! 口の中で! ……え? てか渚と清香酷過ぎない?」
「私は信じるわ、小日向の事。小日向が言うんだから間違いない。アスパラベーコンは消えたのよ。小日向の口の中で突然消えたの」
「信じてくれるのはありがたいんだけど、雅のそれはなんか違う気がする」
自分でも何言ってるのかわからなくなってきたのでその話は止め、お弁当に入っているブロッコリーをパクリと食べる。
カツ
「ん!?」
やっぱり箸の感触だけだった。
「ほら!」
「ほらって言われても……」
「口の中なんて見えないしねぇ~」
「私は信じるわ小日向の事。ブロッコリーは消えたのよ」
「いや、消えたんだって! 本当に! 口の中でブロッコリーが……はい?」
話している途中で肩を叩かれて、後ろを振り向く。
「あれ?」
だがそこには誰も居ない。
「え、ちょっと待って。何これ、何かおかし――ぃんん!?」
ビクンと大きく体を震わせ、小日向がのけぞる。
「こ、小日向?」
突然の奇行に驚くと共に、心配そうな顔になった渚が声をかける。
「な、何か変……」
「大丈夫? 保健室行く?」
清香も不安そうな顔で聞く。
「ち、違うの……そういうんじゃなくて、なんか変な――のぉ!」
「小日向!」
雅が慌てた様に手を伸ばす。
「む、胸! 胸! 胸元!」
「……ぇ?」
見るといつの間にか小日向の胸元がはだけて、下着が露出していた。
しかもその下着は少しズレて、肌も何か液体に濡れてテラテラと光っている。
「な、何……これ……」
小日向がはぁはぁと息荒く赤色に染まった顔で、自分の体を見る。
「ナメクジ?」
その液体が付いた胸を指で撫でた渚が、冷静に言う。
少しヌルヌルしているらしい。
「……唾液だよ、それ……」
小日向がボソッと言った。
「唾液……唾液なの……舐められたの、私!」
少し涙目になりながら叫ぶと、胸元を隠しながら立ち上がる。
「いるんでしょ、日景!」
「なんだいハニー」
呼ばれて即座に現れる、変態。
「日景でしょこれ! 何したの!?」
「言いがかりだ。俺が何したって言うんだ」
「こんなおかしな事出来るの日景位でしょ!」
「失敬な。冤罪だ」
「だって私、なんか揉まれて舐められたんだよ!?」
「ははは、酷い事する奴がいたもんだな」
「それで日景が怒らないって事はもう犯人日景しかいないでしょ!」
「ほう? なるほど、いい推理だ」
首を竦めてわざとらしいポーズ。
「如何にも。それをやったのは、」
「 お い 」
「!?」
だがそこで、突如強烈な殺気。
「揉まれて舐められたって、何?」
雅だった。
後ろから日景の肩を掴みながら、怒りと憎しみに満ちた目で睨みつける。
「……お前、小日向に何をした?」
「や、あの、お、落ち着いて下さい、ね? 雅さん」
「答えなさい」
ギリギリと肩の骨を握り潰す勢いで、掴む力が強くなっていく。
「こ、これはマズいな……では、退散!」
カチ
「え?」
ガクッと雅が大勢を崩す。
「あれ?」
そして周りに居る少女達もキョロキョロと辺りを見回す。
「日景が……消えた?」
「でもこれ、いつもの事だよねー」
「……うん」
確かにそうだった。




