うちの部活には変なのが多い
教室に入ると小日向が無表情のまま真っ白になっていた。
「え、何これ。どうしたんだ?」
話しかけるが無反応。
「小日向、おい小日向」
肩を揺すってもピクリともしない。
「………………」
モミモミモミモミ
チュッ
「うわぁああ!」
「やっと反応した」
「いきなり何するのよ!」
「乳揉みながらちゅーしたのよ」
「何で!?」
「だって小日向が俺の事無視するから」
「だからって普通教室でこんな事する!?」
「俺だぞ?」
「……するよね」
とまぁいつも通りのやり取りをした後、何であんな風になっていたのかを聞く。
「雑誌のせいか」
「自分の身内がそういう目で見られてるのってさ、見ててあんまり気持ちのいいものじゃないよね……」
教室のあちこちで男子達があの雑誌を見て騒いでいた。
「あのね、ありがたいとは思うんだよ? 雑誌わざわざ買ってもらえて。人気あるって事なんだからさ。……でもやっぱそれはそれとして、気持ちとしては複雑なんだよ……」
「んん~……」
言いたい事はわかる。
難しい話だ。
頭では分かっているんだけど、というやつなんだろう。
ここは雑誌が売れてファンが増えている事を喜ぶべきところなのかもしれないが。
水着姿の自分の姉がクラスメイト達からエロい目で見られているのを喜べっていうのも厳しい物があるよな。
「とーりあえず、さ」
周りを見渡しながら言う。
「人前で読むなって話だよな。見えない所で読まれる分には全然問題無い訳だし」
「う、うん」
「てか人の身内がどうとか抜きにして、そもそも女子が沢山居る教室で雑誌の水着グラビアページ開いて喜んでるのが終わってるだろ」
ちゃんと家に置いてきた俺を見習え。
この紳士な俺を。
『………………』
俺達の会話が聞こえたのか、コソコソと男子達が雑誌を仕舞い始める。
今までずっと白い目だった他の女子達の視線にも気付いたみたいだ。
「そろそろ白ゴリ来るな」
あいつに絡まれるのも面倒だから自分の席に戻る。
「日景」
「ん?」
小日向がキスに発情したのかモジモジとし始める。
「どうした?」
「うん……」
俺と今すぐしたいって言うなら授業をサボるのもやぶさかではない。
「ありがと、ね」
「ん?」
「さっきの」
「あぁ」
危ねぇ、余計な事言わないでよかった。
「そんなんじゃないよ。ただ俺が思った事を言っただけだから」
「ふふ、うん」
小日向が嬉しそうな照れ笑いを浮かべる。
馬鹿め、チョロい女よ。
勘違いで惚れ直してやがる。
この様子だと、今夜はちょっと素敵な事になりそうだ。
その後、何かあったり無かったりしてる内に昼になった。
「昼どうすっかなぁ」
弁当なんて無いし何も買ってきてないから、学食に食べに行くか売店に買いに行くしか無いんだけど。
「圭ちゃんお昼どうすんの?」
「うぇ!? ひ、日景! いきなり股間掴むなよ!」
「掴みやすいでっぱりがあったからつい」
圭吾が嫌そうな顔をする。
「俺ら朝コンビニで買ってきたから学食行かないよ」
「えーマジでー。そしたら昼俺一人じゃーん」
「嫁は?」
「お供を連れてどっか行った。天気いいから外で弁当食うんだと」
「へ~、確かに今日天気いいもんね」
だったら日景もお昼購買で買ってきなよ、俺らと一緒に食おう、と圭吾が誘ってくれる。
「そうだなー……じゃあ俺」
「か~いばざ~わく~ん」
「!?」
背筋にゾクゾクッとした物が走る甘ったるい声が俺を呼ぶ。
「ね~ぇ、海馬沢くぅ~ん」
声だけでいやらしい。
見ると教室から半身を出して、いかにも悪い事に誘ってますって顔で手招きをする、ツインテールのエロ白ギャルっぽい容姿の人が居る。
「メイ先輩……」
「んふふ」
うっれしそうな顔してんなー。
……でも行きたくないなー。
どうせ面倒な事に巻き込まれるだけだし
「かいばざわー」
呼び方から君が消えた。
「海馬沢ー」
声の色気濃度がどんどん下がる。
「はよ来いやー」
面倒くさくなったんだろう。
少し胸元を広げてスカートを少しめくる。
「わんわん!」
すぐさま近くに向かう。
「わんわんわん! へっへっへ……」
そして間近で見る。
むっちゃ見る。
「よしよし、よく来た海馬沢ー。いいこいいこ」
頭を撫でてくれる。
そして太もも胸元露骨にガン見しても怒らない。
メイ先輩ホント好き。
「さて行くかー」
前振り無しで即それか。
「待って下さい。俺、昼飯まだなんすけど」
「私が何か食べさせてあげるよ」
「そもそも何の為に呼ばれたのかもまだ聞いてないんですけど」
「必要ないでしょ」
「いや、必要ですよ」
「面倒くさいなー」
むにゅ、と腕に素敵な感触。
腕を組まれた。
胸をわざとらしく押し付けながら。
「ほら、行くわよ」
「はい!」
即答して元気よく歩き出す。
「彼女居るのに相変わらず最低ねーあんた」
そう楽しそうに笑いながら部室棟に俺の事を連行する。
何気にガッシリ組まれた腕はそうそう外れない。
部室棟は昔使っていた旧校舎をそのまま利用しているので、部活動で使うだけにしてはかなり広い。
うちの学校は、部活動がかなりフリーダムだ。
犯罪行為や不純異性交遊に繋がる様なよっぽど怪しい物でもなければ、ほぼどんな物でも申請が通る。
勿論設立に必要な部員数など最低限の基準はあるし、部室を手に入れたり部費を手に入れるとなるとまた別な話になるが、部として成立させるだけならハードルがとても低い。
そのせいで色んな部活が無駄にぽこぽこと出来まくっている。
既にある部だとしても頭に第二第三と付けて名前を変えればそれだけで申請がまた通るので、似た様な部活も多い。
ちなみにこのメイ先輩。
高等部二年の初見メイ先輩は、発明部だ。
第二の方の。
元は第一の方に居たのだが、部員で人体実験を繰り返していたのが原因で追い出され、第二発明部を設立する事になった。
その色香で惑わせ次々と犠牲者を増やしていたのだから、当然と言えば当然だ。
もしそのまま続けていれば、今頃第一発明部の男子部員は全滅していた。
「で? 今回は何ろくでもない物作ったんすか?」
「え~? も~な~に~聞きたいの~?」
「聞きたーい」
「仕方ないわね~」
正直本音はマジクソどうでもいい。
「えーとね~」
イチャイチャしながら旧校舎、部室棟へ。
部室棟へは正門からじゃなく渡り廊下から入る。
中は木造なのだが手入れがされているのでボロくは無い。
中に入ると、廊下をアナコンダが這っていた。
「…………え? アナコンダ!? いやおかしいでしょうよ! 何で学校にアナコンダ居るんすか!?」
アナコンダはしっかりと調教されているらしく、俺を見ると頭をぺこりと下げて礼儀正しく去っていった。
「おかしくない!? 今のおかしくない!?」
「いつもの事よ。多分飼育部じゃない?」
「いつもの事なの!? 飼育部何飼育してんだよ!」
「前は羽の生えた体がライオンで頭がワシの動物が歩いてたし、それに比べたら普通よ」
「グリフォン!? え!? 何それ!? 何部それ!? 何部が飼ってるのそれ!?」
「さぁ」
相変わらず意味わかんねぇなここは。
部室の名前を見ても妙なのばっかだし。
「本当に意味わかんねぇ。大体ところてん部って何だよ、落とし穴部って何だよ、アリの巣研究部って何……アリの巣? アリの巣研究部は少しだけ見学してみたいかな」
「たまに面白そうなのあるんだよね」
ちなみにまともな部活の部室はほとんどが新校舎の方にあるので、ここに妙な部室ばかり集まっているのはある意味当然の話だ。
「さ、着いたわよ」
部室に入ると金属と薬品の臭いが混ざった刺激臭がツンと鼻の奥を突く。
「くさっ、換気しましょうや」
「してるわよ。しても臭いの元が部屋にあるから意味無いの」
まぁそこまでキツい臭いじゃないけど。
少ししたら慣れる程度だ。
「で?」
「あ、発明品? えっとねぇ~」
「違いますよ。昼飯ですよ」
「あぁお昼ご飯? そうね、先にそっちにしようか」
「口移しで」
「うん、口移しでね」
「え!?」
断らないのかよ!
「も、勿論あれですよ? 咀嚼後の物をディープキスしながら流し込むプレイでですからね?」
「うん、いいよ」
「マジでぇ……?」
メイ先輩つえぇ。
「てかさ、海馬沢。あんたいっつもそんな事彼女にお願いしてるの?」
「勿論」
「してくれるの?」
「嫌嫌言いながら最終的には」
「ふーん。お似合いの二人だね」
これは褒められていない。
「はい、じゃあこれがお弁当ね。どうぞ召し上がれ」
「……これ何すか?」
「お弁当」
「ケミカル色のゼリーしか入ってないんすけど」
「そういう発明品なのよ」
クソ、騙された。
「これはご飯の味がするゼリー。ただのゼリーにしょっぱい味付けしただけだと美味しくないから、ちょっと工夫してあるの。さ、食べなさい」
「食べなさいって……じゃあ今日の発明品はこれって事ですか?」
「いや、これはただのお弁当。発明品は別」
「……………」
ただゼリー弁当食べるだけで済むなら楽だと思ったんだが、そんなうまい話は無かったか。
お弁当なだけに。
お弁当箱の中を見ると、何色かのゼリーが並んで入ってる。
「じゃあいただきますね」
「どぞー」
渡されたスプーンを持ちながら何を食べるか考える。
「じゃあまずこの安全そうな黄色いのを……お?」
卵焼き味だ。
そして食べてみて驚いた。
思ったより不味くない。
美味いもんではないけど。
食べるなら普通に卵焼き食った方がいいけど。
それでも、他に食べる物が無い時なら全然食べる。
それ位には食べられる味だった。
「ふんふん……茶色はハンバーグで白いのはご飯か。鮭味は思ったより生臭くないのはいいんですけど、やっぱゼリーで魚の味は違和感ありますね。肉だって違和感はありますけど、ハンバーグはソースの味がする分まだマシです。あと、ゼリーのおかずでゼリーのご飯は進まないです。これなら味少し薄くしておかず味だけの方がまだいいと思います」
「ふーん、なるほどねぇ……」
サンドイッチを食べながら俺の話をタブレットにメモする。
「え!? いやいや! サンドイッチあるならそっち下さいよ!」
「え? あぁごめん。もう無くなっちゃった」
笑顔で口の中に全部詰め込みやがった。
「これはあれですよね。咀嚼後の物をディープキスで流し込む前振り」
ゴクン
「胃液混じりかぁ……流石にレベルが高いなぁ」
「彼女のだったら?」
「飲める」
「………………」
人がネタ抜きにどん引く顔ってのを久しぶりに見た。




