小日向の周りは変なのしかいない
「あの子のあれは流石にいき過ぎよね」
「うぉ」
いきなり右隣から聞こえた声に驚く。
「何だよ、渚か」
「やほ」
シュッと無表情に手を挙げる少女。
彼女の名前は渚。
この子もまた、小日向の親友だ。
名前は明るく爽やかなイメージだが本人はダウナー系で、日本人形が高校生に成長したらこうなるんだろうなと言った感じの容姿をしている。
「私も小日向の事を愛しているけどあれじゃ駄目よ。独占したいのはわかるけど、もっと周りの人との和を考えなきゃ。私ならもっと上手く立ち回るわ」
「何気にサラッととんでもない事言ったなお前……。それにそういう話なら俺の方がもっと小日向の事を愛してるからな」
「あんたのそれは性欲とか肉欲だけでしょ。私の愛はもっと純粋な物だから、一緒にしないで」
「寝てる小日向にこっそりキスしようとしておいてお前、そのセリフは無いだろう」
「私のキスは純粋。あんたのは不純。一緒にしないで」
「えぇ……」
こんな事を全く揺らがぬ真顔で言う辺り、こいつも中々にぶっ飛んでる。
「ん?」
ザ……ザ……と俺に忍び寄ってくる足音が後ろから聞こえる。
気付かれない様にしているつもりなんだろうがバレバレだ。
こんなくだらない事をする知り合いなんてそう多くない。
誰が来たかもうわかったが、優しい俺はあえて気付かぬ振りをしてやる。
「日景君おっはよーう!」
「やっぱりお前か」
ドンッ、という衝撃と共に背中に温かい重みが張りつく。
雅の時とは違い、どつかれたんじゃなく後ろから背中に飛び付かれた。
「あれ? 驚かないね」
「バレバレだっての。それより清香。そんなむやみにベタベタくっつく様な真似したら、男はセクハラOKのサインだって取るからな?」
そう言って背負いながら尻を撫でる。
「あはは、エッチー」
「エッチーてお前それで終わりかよ」
ただ触るだけじゃなく指に少し力を込めてむにむにしてみるが、それでも咎める声は無い。
「いいよー別にこれ位。減るもんじゃないしねー」
「マジかよ!? だったら……」
「小日向にチクろうっと」
渚の一言に俺が降ろそうとしたのと自分から飛び降りたのがほぼ同時だった。
彼女は小日向第三の親友の、清香だ。
明るく人懐っこく、男子からかなり人気のある少女。
可愛くてスタイルが良くて、誰とでも分け隔てなく接する。
正に男の理想の模範となる様な人物像。
さっきみたいにボディタッチやスキンシップが人を選ばず多いので、相手から惚れられたり好意を誤解されたりする事が多い。
だが、本人には全くその気が無い。
彼女にはある通り名が付いている。
その名は、魔性のひまわり。
ひまわりの様に元気で明るい笑顔を浮かべ皆と接するが、実際に彼女が見ているのは太陽だけ。
そういう意味で付けられている。
その太陽とは彼女の親友、小日向の事だ。
こいつもまた、小日向にベタ惚れなのだ。
もうそろそろわかってきたかと思うが、小日向は変人に好かれやすい。
あいつの体からは変人フェロモンでも出ているのか、とにかくそういうのばっかり集まってくる。
いつの間にかお姉キャラ化してた陽一とかもそうだし。
小日向は嵌まる奴には思いっきり嵌まるタイプの人間だ。
一回嵌まると行き過ぎな位に嵌まる。
もうガッツリと嵌まる。
そしてベッタリになる。
雅なんかがいい例だ。
「ったく、小日向はいつもいつもお前らみたいな妙なのとばっか付き合って……。あいつの変人からの好かれやすさは何なんだろうな?」
「「………………」」
「俺はさ、あいつにはもっとまともな人間関係を築いて欲しいんだよ。気付けばあいつの周りは変な奴変な奴、変な奴ばーっかでさ。彼氏としては心配な訳よ。な? わかるだろ?」
「「………………」」
「おい、何だその目」
「行きましょ、清香。これ以上変神に付き合ってると変がうつるわよ」
「俺は変人じゃねぇ」
「うん、そうだねー。小日向の事追っかけようか」
「あ、おい。お前ら」
ばいばーい、と手を振って二人が走り去る。
「………………あーあぁ……」
行っちゃった。
妙な挑発しなきゃよかった。
また一人になってしまった。
「……寂しい」
マジで寂しい。
折角今日は途中まで皆で来る事が出来たのに。
気付いたら一人だ。
ついさっきまであった賑やかさのせいで、今尚更寂しく感じる。
「人が、恋しい……」
あまりの人恋しさに、教室で小日向に会ったらそのまま押し倒してしまいそうだ。
「何言ってるんだよ、日景」
「えっ?」
ヤダ、突然何このイベント。
ときめいちゃうわよ。
「俺達が居るだろ」
ポン、と右肩に置かれた手に心がキュンとする。
「そうよ、私達が居るじゃない」
ポン、と左肩に置かれた手に心がジワッと温かくなる。
「ま、そういう事だ」
ポン、と背中に置かれた手に友情を感じる。
「…………」
ポン、と頭に置かれた手がレシートを置いていきやがった。
「お、お前ら……」
振り向くとそこには、四つ並んだ素敵な笑顔。
「俺より不細工四天王!」
『………………』
無表情になった四人がスッと俺を置いて歩き出す。
「嘘! 嘘だって! ヘイマイフレンズ!」
イの四天王こと圭吾達だった。
「も~うなんだよ~お前ら~、こんなとこで何やってんだよ~う」
修司の背中にドンと体当たりをする。
「ウゼッ、……別に、たまたまだよ。そこのコンビニで偶然会っただけだ」
「コンビニ?」
皆揃って?
こんな朝っぱらから?
偶然にしてもそう無いだろ。
俺が疑問に思っていると、四人が手に持った袋から一斉に買ってきた雑誌を出す。
『千明姉のグラビア買ってた』
「お前ら……」
小日向の姉は芸能人だ。
アイドル、でいいのかな、あの人がやっているのは。
彼女は小日向の姉だけあって、エロい。
しかも大学生なので、部分部分のエロさが小日向の上位互換だったりする。
乳がデカかったり尻がデカかったり、太ももムチムチだったり色々と。
クソエロボディの淫猥シスター。
そら人気も出るさ。
雑誌の表紙も飾るさ。
ちなみにその雑誌、俺はコンビニで張って店頭に並ぶと同時に買った。
「何でそんなのお前らが買ってるんだよ」
「何でって、知り合いが出てるんだものそりゃ買うわよ~」
いや、お前が買うのは理由も含めて何となくわかるんだけど。
「眼鏡っちとかは? 何で買ってるんだよ。お前そういうキャラだっけ?」
「誰だ眼鏡っち」
利也が眼鏡の位置を直す。
「ま、あれだよね……」
圭吾が苦笑気味に言う。
「結局俺達も、男って事で」
見知らぬエロい姉ちゃんの水着より、見知ったエロい姉ちゃんの水着の方が何か興奮するってのはわかる。
全員で、頷いた。




