新しい朝
チュンチュン、とスズメの鳴き声が聞こえる。
爽やかな朝日に照らされ、俺の表情は明るい。
「いい朝だなぁ」
「…………そういうのいいんで。ホント、もうはやくかえってください……」
小日向の家の玄関で、ドアノブに手をかけ内股でヨロヨロしながら、小日向が俺にシッシッと手を振る。
「そんな邪険にするなよ~、もっと余韻をさ~」
「はいはい、わかったわかった。私もう寝るから。それじゃあね」
確かに眠そうだ。
これ以上引き留めるのも可哀想か。
「あぁ、お休み、小日――」
「あれ? 兄さん?」
「「え?」」
小日向と二人、道路を挟んで斜め向かいにある家に目をやる。
早朝で辺りが静かだったので、声が響いた。
「それに……千明先輩?」
桃香ちゃんだった。
新聞を取りに外に出たところで俺達を見付けたらしい。
「ど、どうして二人が? というかそこで何してるんですか?」
小日向と二人で目を合わせる。
マズいところを見られた。
しかもなんかこっち来る!
「お、おはよう桃香ちゃん。早いね」
「お、おはよー、桃香ちゃん」
二人で誤魔化しに入る。
「はい、おはようございます。それで、二人は何を? と言うか、千明先輩はここで何を?」
「あー、あれだよ、小日向は」
「あ、駄目っ」
「?」
何だ? 何が駄目?
「? 小日向? 千明先輩ですよね?」
「? うん、そうだけど」
「「?」」
桃香ちゃんの頭上にはてなマークが浮かんでる。
俺はそのはてなマークの意味がわからず、俺の頭の上にも同じ物が浮かぶ。
「ですから、千明先輩ですよね?」
「うん。ここに居るのは小日向だね」
「あ、あのね、桃香ちゃん。何て言うか」
何を小日向は焦ってる?
「こいつの名前は千明小日向。俺の幼馴染で、ご近所さんで、俺の彼女。桃香ちゃんと同じ図書委員に入ってる。……知ってる、よね?」
「……………………え?」
桃香ちゃんが、ポカンとした顔で小日向を見る。
小日向はあちゃー、と言って額に手を当てている。
「…………あ!」
そして、桃香ちゃんが小日向の家の表札を見た後、再度小日向の顔を見て、何かに勘付いた。
「ま、また騙されたぁぁぁぁああああ!」
騙された? 何を?
小日向は笑いながらごめんねー、とか言って謝っている。
何の事か全然分からない。
「酷いですよ千明先輩! わ、私てっきり、千明が苗字じゃなく下の名前なんだと!」
「あぁ、そういう事か」
小日向は何気に悪い奴だ。
人をからかったりするのが大好きで、気に入った子をこうやって騙したりする。
そういや以前、桃香ちゃんが小日向の事を同級生だと勘違いした時も、自分で気付くまでずっとさも同級生であるかの様に振る舞っていたと聞いた。
「それに、お住まいがこんなご近所だなんて知りませんでした! ……あ! そう言えば喫茶店にお誘いした時! 場所についてとか全然聞かずにOKしましたよね!? あれも、あそこの喫茶店の事最初から知ってたからですね!? 図書委員の仕事終わってから行ったから、帰るの結構遅くなっちゃったかもって、申し訳ない事しちゃったなって、後から反省してたのに! 騙すなんて酷いですよ!」
「桃香ちゃん、桃香ちゃん、違うよ」
小日向がニコリと笑顔で言う。
「騙してなんかいないよ。ただ、聞かれなかったから言わなかっただけ」
「ひっでぇ……」
「うわぁぁぁああああん!」
桃香ちゃんが涙目になる。
「千明先輩!」
「小日向」
「え?」
小日向が桃香ちゃんの手をギュッと両手で握る。
「私の事は、小日向って呼んで?」
「え、あの……」
「大好きな桃香ちゃんには、名前で呼んで欲しいの。ね?」
「いえ、あの、その……」
「桃香ちゃん。お願い」
「…………こ、ひな、先輩」
「うん! という訳で、改めて宜しくね、桃香ちゃん!」
「…………う~……」
きったねぇやり方。
仲良しアピールして話逸らして誤魔化しやがった。
「…………まぁいいですよ、この話は」
桃香ちゃんも誤魔化された事は認めた上で、許したみたいだ。
「それで、お二人はこんな早朝からこんな所で、何をしていたんですか?」
「「え?」」
なんてこった。
そっちの言い訳だ、問題は。
「……ちょっと、桃香お姉ちゃん朝から何騒いでるの? 近所迷惑だよ」。
状況悪化。
家から紅梨ちゃんまで出てきた。
「あぁ、紅梨。あのね?」
桃香ちゃんが今の状況を説明しようとするが、止めてくれ。
こっち方面に鈍い桃香ちゃんはともかく、紅梨ちゃんなら今の状況の意味にすぐ気付いてしまいそうだ。
「ち、違うんだ、待ってくれ桃香ちゃん! 俺達はただ朝まで一緒にベッドの中に居ただけで――」
「「朝まで一緒にベッドの中に居た!?」」
「!? しまった!」
直接的な表現を避けたつもりが全然避けきれてなかった!
「ば、ばば、馬鹿日景!」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょ、兄さん、今の……!」
「あ、朝まで一緒にってそれって……!」
顔を真っ赤にした三人の女の子の前でどうするべきか、考える。
「…………うん」
そうだな、今更何を言い訳しても遅い。
「皆!」
バッ、と両手を広げる。
「愛してるよ!」
「「「うっさい!」」」
さぁ、今日は休日だ。
これから何をしようか。
騒ぎを聞いて他の家族達も外に出てきた、ちょうどいい。
予定を立てよう。
皆で遊ぼう。
家で遊ぶのもいい、外に遊びに行くのもいい。
きっと楽しくなる筈だ。
「良い天気だ、風が気持ちいいな……」
「いやいやいや、突然何一人で納得して黄昏てんの!? それどころじゃないからね今、わかってる!?」
「ちょっと、兄さん! 私の小日向先輩に何してるんですか! というか、私の小日向先輩と付き合ってるってどういう事ですか!?」
「朝まで一緒にってそれってやっぱり、せせ、せせせ……」
俺達は色々な物を抱えながら、こうして家族になった。
昨日一つの問題が解決したが、それで全ての問題が解決した訳ではない。
そして、これからも様々な問題が俺達を悩ませる事になるだろう。
でも、いいじゃないか。
共に悩み、涙して。
そして最後には、笑いあえる。
そういう……。
「「人の話を聞けぇぇぇぇええええええ!!!!」」
「せ、せせせせ、せっく……」
……そういう、素敵な家族に。
素敵な家族のお兄ちゃんに。
俺は、なりたい。




