知らない草原
家康は、一人草原に放り出された。
ぼんやりと周囲を見回す。
「むぅ、マジなんもねぇ。
ここ何処だよ?」
困惑顔で、呟く。
返事は誰もしない。
居るのは、さっき足元に屠った見たことのないライオンのような物に悪魔羽の生えたモンスター。
「やれやれ、ありゃ夢じゃなかったのかよ。」
そう、あの召喚事故で、何故か俺だけ他の三人と引き剥がされたんだ。
事は異界渡り直後に遡る。
「これは・・・長谷川姉妹・・・里奈!奈美!榛名さん!
大丈夫か?!みんな・・・う?」
普段呼ばない長谷川姉妹の下の名前を呼ぶ。
呼ぶと二人が何故か同じタイミングで恥ずかしがるから、長谷川姉妹と呼ぶ事になっている。
比べられたり個別扱いを、少し嫌がるフシが有るためだ。
その反応が、乙女の恥じらいからだとさっぱり気付いていないのだが。
緊急時は別だけどね。
一瞬で景色が歪み、世界が暗転する。
俺は意識を朦朧とせさながらも、周囲を見回そうとしていた。
「今この異世界カデキアに招かれし異世界の方々よ。
どうかこのカデキアの危機をお救いください。」
甘い毒のような、纏わり付く異物。
キュィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン・・・パシッ!
そう感じた後、小さな炸裂音が響く。
そして俺は意識が途切れた。
「え?嘘?!付加するギフトが弾かれた!
そんなまさか、それに加護と覚醒封印?!
あれは本来○○の力では・・・。
いけない!
そんな事よりも、彼だけ別の所に転移されてしまうわ。」
慌てた声は、途切れ途切れで、家康の耳に届く事はなかった。
そして次に目覚めると、家康は何処かの平原に、ポツンと一人だけで横たわって居た。
「はぁ、アイテムボックスとお前が居てくれて助かったよ。」
ふよふよと家康の周りに飛び交う妖精は、周辺の魔力を纏ってキラキラと存在を確たるものにしている。
元の世界では、その存在はうっすらと見える程度だったのに。
それが魔力の有る世界という事なのかもしれない。
以前いた世界よりもここはとても魔素。
・・・魔力の源のような物が強いのだろう。
簡単な魔法を使っているだけなのに、翻弄されそうなみなぎりそうになる。
顕著した風の妖精は、緑色の髪をポニーテールにして緑色の瞳を輝かせながら。
白い肌から緑色のひらひらのワンピースとブーツをまとった美少女だが、お人形サイズでトンポのような羽根をはためかしている。
そして、楽しそうに空中で踊った後、家康の肩に座った。
「風音はね、久しぶりに実体化出来て楽しいよ。
あっちじゃ触れても家康にはわかりづらいだろうしね。」
召喚獣と似たような扱いとなるため。
持続的に顕著するには、家康の魔力だけではなく。
空間の魔素も関係してくる。
聖気・魔素・マナ・地球風に言うとエネルギーか?
彼女ら妖精には餌となるものだ。
地球は魔素が薄く、存在出来る場所も限られている。
異界渡り出来る者の魔力や神力は、彼女らにとって特に貴重で。
共存共栄が認められている一因でもあった。
因みに、風音の名前は、契約した時に名付けた。
妖精や精霊などは、高位の者にならないと真名は無い。
加護や召喚の契約の時に、真名の無い者達に対し、真名を与える。
血の契約魂の(エンゲージ)
とも呼ばれる。
本来お互い同等の立場で、それぞれ協力し仲良くする為の術なのだが。
異世界によっては、奴隷従属契約として似たような儀式を行い。
下僕の反逆をさせ無いよう、強制的に行動を規制し縛りつけ。
言う事を効かせたりするそうだ。
上はお友達って感じだけど。
下は裏切りに遭いやすい貴族などが、絶対裏切らない道具のような扱いにも見える。
勿論俺は、頼れる相棒として風音を扱っていますとも。
こんな何も知らない世界。
何も無い所に独りで居たら。
心が簡単に折れてしまいそうだ。
だから、この少し賑やかな同伴者は、とても有難かった。
こんな心細い気持ちで、榛名さんは過ごして居たのか。
長谷川姉妹は、榛名さんと一緒で無事だといいんだけれど。
召喚経験者だし。
俺なんかより、絶対頼れるからな。
そこまで思ってから、一気に萎える。
「本当、俺は役に立てなかったな…。」
消える直前の、怯えたような長谷川姉妹の姿が、脳裏に焼き付いて離れなかった。
ふるふると頭をふって作業に戻る。
ノロノロと剥ぎ取りを終え。
簡単な識別魔法で調べた結果、食べられる魔物だと判した。
食べられる部位と、今後使えそうな毛皮を分ける。
後調合に使えるらしい部位も区分け。
アイテムボックスの中は、時間が止まるようなので。
カテゴリ分けして、戦利品を分けて入れる。
そして、食べられる部位は、魔物が出なさそうな時間帯を狙って。
下拵えしたり、料理してから保存した。
食料はアイテムボックスに有るが、有限では無いから、食料は多いに越した事は無い。
アイテムボックスが便利過ぎて、既に贅沢だとは気付いていなかったが。
まあ、余り気持ちの悪い、クリーチャー風味なグロ魔物は、流石に食べようとも思わないけどな。
簡単な料理道具が、既にアイテムボックスの中にいれてあるのは。
この間まで冒険者生活して居た名残だ。
ここ数日の間に、今後に役立つからと言う榛名さんの勧めで。
洗ったり追加した料理道具の数々。
足らない調味料やアイテムを入れ直し、補充した直後だったりする。
なので、数日前ならたいした量残っていなかった物が、役半年分の食料や火種や燃料。
冒険者に必要な着替えや新しい武器や防具の追加分などがたっぷり入れてあり。
今現在、あまり手酷く苦労せずに、ここに居られる。
榛名様々ですな。
とは言え、今の俺レベルで対応出来無い魔物が出たら分からないけどね。
因みに、夜は魔物除け結界や隠匿魔法やステルス魔法が予め付与されたテントで過ごして居る。
不思議なテントで、外の大きさは変わらないのに。
使用人数に併せて内部が広くなる空間魔法がかけられていた。
全てのアイテムは盗難防止機能も付けられ。
持ち主以外が持ち出せ無い、そんな認証システムになって居る。
これも、我が社の開発部様々なアイテム達なのだそうだ。
アレは欲しいよな、火がなくても温められる魔法式の食器やお風呂システム。
そうだよお風呂!
浄化魔法で綺麗に出来ても。
お風呂でほっこりさせて欲しい。
ここ、川すら見え無いから。
水の確保が水の魔法だけだとお風呂までには至らない。
なんと、テントにはキッチンやお風呂やトイレ付いてるんだよ。
魔法で処理出来るみたいなんだけど。
お風呂だけは、魔法と水源確保しないといけないからあるのにシャワー止りである。
何故か、シャワーと水洗トイレは、魔法なんだよ。
マジ謎。
今日も道から少し外れた所に設置して、一眠りしよう、そうしよう。
そんな家康が、現実逃避している頃。
霊峰ナバリア山頂、キシュトア神殿の召喚の間で。
白い神官服に身を包んだ、年老いた白髪の男と、神殿騎士の白銀鎧を着込んだ、屈強な男と、黒衣の法衣を纏った麗しい美貌の賢者。
そして、玉座に座る派手な装いの冠を被った精悍な男盛りの男…法王が、魔方陣を眺めて居た。
魔方陣の中に、美貌の乙女、愛らしい双子が倒れるように出現すると。
輝きが収まり、魔方陣は消えて行った。
しかし、他のメンツがホッとした表情になった中、魔方陣の手前に居た召喚師だけは、慌てた。
「そ、そんな。」
「どうした、ヤエルよ?」
「は、はい法王様。
1番強い神力の勇者様が、弾かれました。」
ざわり、とどよめく。
「この者達は違うのか?」
「この乙女は既に二つの異世界の神から加護を受けた焔狐の姫巫女様。
召喚せずとも、数ヶ月後こちらに来る予定でした。
こちらの女神シュリネラ様からの加護も加わり、どれだけのお力を秘められておられるのか検討もつきかねます。」
なんと、とヒソヒソとざわめく。
「この双子は白魔導師と黒魔導師の素質と、とても強い魔力を秘めた者達です。」
残念そうに、勇者の事を考える一同。
「あ!」
法王様がトランス状態になる。
「女神様からの言伝じゃ。
かの異世界の方は、どなたかからの生前加護があり。
ギフトが弾かれて、別の場所へと弾かれ降臨した。
よりにもよって、魔人の居るトトエ大陸のあたりだそうだ。
見つけ次第、保護し、手厚く歓迎するよう、間違えても害してはならぬ。
との事だ。」
「トトエ大陸、だと?
生前加護がどれほどなのかは知らぬが。
なんと可哀想に…。」
「保護しようにも、我らの戦力では。
このパデキア大陸から、あの魔物の巣窟のトトエ大陸に向かえるのか?」
そこまでざわめいた後、ふと、三人の少女達を眺めた。
彼女らを使う。
男達の強かな心根が、重なる。
「我らが駄目なら、丸投げしてしまおう。
いずれ、魔王の居るトトエ大陸には渡らねばならぬのだから。」
果たしてこのカデキアで、榛名達は家康と合流出来るのだろうか?
家康と榛名と里奈奈美が合流いつ出来るのですかね?
又気が向いたら書きまーす。