教官、とか
入社したら指導役が姫巫女様だった件。
入社式もおわり、新人研修の部屋へと誘導される。
どうでも良い事だが、本社はとても大きな施設で、入社式も会社内の大きな広間の会場でやっていた。
比較的都会だと言うのに、どれだけ土地を買い占めたのか。
中央に西洋の神殿のような本館。
その裏に日本の古城のような旧館。
そして、左右に高層ビルが結界じみて取り囲む中央は、別世界のような広い庭園になっている。
その更に真ん中に、小さな祠と屋代が結界の要か神社のように配置してある。
よく見ると、妖精達が沢山飛び交っているのが見える。
後で聞かされたのは、身体を清めてからでないと立ち入り禁止なのだそうだ。
どちらにせよ、下手に一人で動くと、慣れないうちは迷子になりそうだ。
「あー、三河君だったかな?
君の担当が来るまでこちらの控え室にて待機して下さい。」
「はい、ここまで案内ありがとうございました。」
お辞儀して見送る。
案内人の初老の男性が、案内してくれた部屋で座って待機する。
こちらは既に名前を緊張で忘却の彼方なのだが、もし再会したら素直に緊張して忘れたと謝ろう。
うん、俺出世出来ねえな。
「失礼します。」
軽いノックのあと、扉が開かれる。
慌てて立ち上がり、お辞儀をする。
こちらが何か言う前に、相手がくすっと笑った。
「三河君、頭をあげて下さい。
本日付けで貴方の指導員になった、高原榛名よ。
よろしくお願いしますね。」
柔らかな声に驚いて、頭を跳ね上げる。
「え?高原さん?同級生が指導役?
どういうこと?」
流石に混乱して心の声が漏れる。
時々大学で、クラスメイトになった程度の関わりしか無いが。
彼女はとても可愛いらしく、大学でとても人気のある女性だった。
俺はバイトと勉強が忙しく、関わる事も少なかったが。
何故か勉強で分からないことがあると。
特待生で頭がいいと思われたのか、たまに質問されたりした。
しかし、彼女の周りには、彼女狙いの男達が取り囲んでいたから。
余り俺から関わることは控えた。
ギラギラした感じは対応苦手なんだよ。
だが、彼女は彼らをスルーして誰とでも仲良く友達になるみたいだった。
なんだかめんどくさそうなのにばかり惚れられてたからか、スルースキルが強化されたのかな?
などと当時は思ったりもした。
そんな現実逃避しつつ、高原さんを眺める。
ぱりっとした白いシャツと、蒼を基調にした上層部のパンツルックを着ていた。
タイトスカート制服なら、野郎爆釣りだろうから避ける意味なら正解だろう。
余程不思議そうにしていたのか、苦笑を浮かべ高原さんから切り出した。
「あ、混乱しちゃいますよね。
私異世界に召喚二度された姫巫女なので、こちらでは高校生からお世話になっていて、通常入社の方々とは別枠なんですよ。
だから、同級生ですが先輩なんですよ。」
最後はうふふ、と微笑んだ。
ああ、綺麗な人は笑うだけで華やぐな。
軽くみとれた。
ん、いかんな。
俺現実逃避しすぎだ。
ここはそう言う企業だから、いちいち驚いてたら心臓持たねえ。
入社確定してから、そう言った機密事項聞かされてたのに。
なかなか慣れないな。
軽く深呼吸して、取りあえず笑った。
「二度か、いきなり知らないところに放り込まれるとか、マジ大変だな。
流石に自分の意志で行くのと訳が違うから、すげえ苦労してそうだな。」
一瞬虚を突かれた顔になったが、すぐに何時もの高原スマイルにもどった。
「三河君は、相変わらずだねぇ。」
クスクス笑ってから話を戻す。
「そんな訳なので、三河君が慣れるまでは私について貰います。
三河君は、運動能力の高さと魔法素養が有るから、基本は魔法訓練と武術訓練。
それと、異世界翻訳能力と、数ヶ所の異世界文化や歴史なんかを覚えてもらいます。
文明によっては、禁止事項。
やっては駄目な事が異なったりしますから。
そのあたりも教えますね。」
「厳しそうですね。」
「ええ、ビシビシいきますよ。」
楽しそうに、高原さんは微笑んだ。
「ある程度慣れたら、現場に行きます。
現地で慣れる事も有るでしょうからね。」
「にしても、なんで高原さんが俺の指導役になったんですかね?
俺男の指導役になるかとばかり思ってたよ。」
すると、高原さんは、頬を膨らませた。
「むー、そこは可愛い同級生が手取り足取り教えてくれるとかラッキーっ、て思えばいいじゃないですか。
女の指導役は不満?」
す、拗ねた!
なんだこれ。
めっちゃ可愛いんだが、俺には切り返しがさっぱり分からん。
こんなの見た俺は、彼女の取り巻きに殺されそうで怖いです。
てか手取り足取りってなんだそれ。
大胆だな、してほしいのか?
んなわけないよな。
てか、してほしい言われてもどうして良いか分からんよ。
青少年には刺激強すぎだ。
「あー、うーえっと。
そんな不満ではないよ。
てか、からかわないでくれよ。
俺あんまりそう言うやり取り慣れてないんだよ。」
しどろもどろに言うと、彼女は不思議そうに小さく呟いた。
「誰とでも仲良くなるし、結構モテるのに。
彼女いなかったのかしら?」
苦学生だからそんな暇なかったとか、かな?
私的には、会話しやすくて魅了反応無いから。
ここ数年で一番楽な会話できる男子なんだけど。
と後半は心の中で独り言。
「んとね、姫巫女の勘。
一種の預言的な能力が発動してさ、君の担当になったの。
上手く説明しずらいんだけど。
私の勘は当たるんだよ。」
「高原さんの能力かぁ、良く分からないけどさ。
きっと俺を指導したほうがいい何かを感じてくれたんだろ?
その預言が悪い方にならないように頑張るよ。
よろしくお願いします。」
ニコッとカッコつけて笑う。
何故か高原さんが顔を逸らす。
よく見ると耳まで赤くなっているのだが、俺は気付かなかった。
「榛名。」
「ん?」
「高原じゃなく榛名と呼んで下さい。
異世界は苗字より名前で呼ぶ事が多いので。」
「あー、そっか。
うん分かったよ榛名さん。
俺は家康って呼んでくれ。」
「う、うん…家康君これからよろしくね。」
彼女は真っ赤な顔を誤魔化すように、ぺこりとお辞儀した。
俺はそれに気付かないまま、今後の方針を榛名さんから聞くのだった。
姫巫女榛名ちゃん出て来ました。
榛名ちゃんの家康君への感情。
友情よりは好意寄りです。
あ、家康君は、今の所安定の友情寄りです。
気が向いたら又書きますね。