クリスマスに日本の神様のから騒ぎに会議室で躍る
会議室なう
カツカツと言うヒールの足音と、カランコロンカランコロンと下駄の足音が近付いて来るのが聞こえた。
「ヒールは分かるけど、会社に下駄?」
小さく呟いた直後、バーン!と扉が派手に開かれた。
「そちが家康かえ?」
吊り目の大きな瞳をキラキラさせ、髪型は姫カットな高い位置のポニテを揺らし、真紅の和風ゴスロリミニスカドレスを着た10歳位の美少女が何故か仁王立ちで偉そうに聞いて来る。
「え?あ、はい。」
ポカンと眺めてしまう。
何だろう、この残念な美少女感は。
ふとその背中に隠れる様にもう一人、妖艶な見た目の、けれどオドオドした美女が此方を眺めて居る事に気付く。
「お、お母様…はぅ。」
え?お母様?
後ろのあんたの方が、どう見てもお母様的なビジュアルっすよ?
ストレートの腰までサラサラロングヘア。
出るとこは出ているナイスバディ。
おかげで生真面目そうな紺のリクルートスーツが、何故かエロい。
「ちょっと天照!
鬱陶しいからシャンとしなさい。」
「は、はい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
何故か謝り出す天照をポカンと眺めた後我に返る。
「天照…え?天照大御神、様?」
焦る俺に、やっと落ち着いたのかふわっと微笑む天照。
「はい、初めまして家康殿。
わたくしが天照大御神です。」
ギギギと視線をもう一人を見る。
天照大御神の母、彼女が産んだわけでは無いけど母ポジションって事は…。
「じゃ、じゃあこちらのロ…いやお方は伊邪那美様?」
俺の反応に機嫌良さそうに頷いた。
「おお!そちは我の名を存じておったか。
若者は神離れが激しい故、我ら日本の神々の名前を覚えておらぬ者達も多いからの。
我が伊邪那美じゃ。
崇め奉るが良い。」
「えー!?」
日本の神様だ。
何でこんな所に顕著降臨してんの?
人間世界に介入しないんじゃ無いのかよ。
つーか、何処から突っ込んでいいのかわかんねぇよ。
「あ、えっと…何故こちらに降臨なさったので?」
無難な質問を投げ掛ける。
「うむ、そちの困惑はもっともじゃの。
その前に、この部屋に消音結界を張らせてもらうのじゃ。」
そう言うと、スッと片手を上げた。
キィィィィン。
小さな高周波が聴こえた後、部屋に消音結界の膜が広がって行ったのが視覚出来た。
結界の膜が見えるなんて今まで無かったから呆然と魅入ってしまった。
その間に、侵入者除けで念の為天照が鍵をかけて居た事には気付かなかった。
「さて、これで話を始められるのじゃ。
改めて自己紹介かの。
我は黄泉比良坂より先の黄泉国、今風に言えば地獄を任されておる伊邪那美じゃ。
共に参った此奴には、厳密には我の血は入っておらぬが。
夫の伊邪那岐から産まれた娘の天照大御神。
この日本の最高神じゃの。」
「は、はじめ、まして。
高天原…今風に言うと神界とか天国かしら?
を任されて居ます。
一応日本の最高神やっていたりする天照大御神です。
えっと、その、よろしくお願いします。」
偉そうに挨拶する伊邪那美とは対象的に、人見知りの恥ずかしがり屋みたいな感じで挨拶された。
おかしい、俺の中の神様イメージが崩れて行くよ?
「今日此方に顕著したのは他でも無い、そちの解けた封印の件の事じゃ。」
「あ、そ、そうなんですか。」
予想外の言葉についホッとする。
それも直ぐに我に返った。
「えっ?解けた封印?」
「そうです。
家康殿の封印は、産まれる前に貴方のご両親の願いで我ら高天原の者達総出で行ったものなので、本来生きている間は何事も無く過ごせる予定でした。」
「想定外な転生事故で、我らの力が及ばぬ自体となってしまったのじゃ。
申し訳無いのぉ。」
「本来ならばストレンジャーで慣らしながらゆっくり覚醒を促し、最後の封印は死後高天原にて安全に解除する予定でした。」
それは、なんとなく分かる。
覚醒して感じた、震える様な万能感と、いいしれぬ恐怖。
心の何処かで警鐘を鳴らす。
何かが塗り潰されそうな、力に振り回さていれる様な、不安定で爆発的な力が湧き上がるのだ。
今、会社で支給された、本来魔法使用でやらかす犯罪者向けな、異世界産の魔力や神力封じの腕輪を身に付けて尚、迸る様な感覚があった。
俺がそれを言わなくても、神々は封印が解けたら分かっていたのだろうか?
いや、分かっていたから、こうやって日本の最高神と人の生死を司る女神が直々に来たのだからお察しだ。
自分だけでどうにか出来る状況はもうとっくに過ぎ去ったのだと。
「現状がヤバイのは、流石に自分でも何と無く分かります。
ですから此方からもお願いします。
これから、どうすればいいのか教えてください。」
素直に頭を下げた。
「うむ、良き心掛けじゃの。
さて、家康殿。
そちには三つつ選択支がある。
一つは、死ぬまで封印の間で過ごし、人として生きる。
まぁ、あまりお勧めしないな。
多分そちの気が、神の力に引き摺られ気が狂う破壊衝動で大惨事になる可能性が高くなるしの。
もう一つは、この力を高天原にてコントロール修行し、半神から完全な神と至る。
じゃが、人としての人生は終わる。
他の神々同じく、人の世への介入には規制事項を守る限りの限定的な物になる。
最後はまあ、異世界を渡り神力を修行する。だが、現状の幽閉策よりもお勧めできぬ。
破壊衝動は、魔力の濃い異世界では悪化するし。
地球よりも魔力の無い異世界だと、神力が暴走し。
人として生きた記憶…心が消える。
そして、ブラックホールのような虚無と成り果てる。」
「それ、選択支無いじゃないか…。」
俺の言葉に伊邪那美様はニヤリと口の端を上げる。
「そうじゃの、逃げて簡単に死滅選ぶ者は馬鹿はなかなかおらぬ。
いや、よしんば自殺したり他者に殺され黄泉の国へ来た所で、魂穢し壊した者に次の生が良くなるとは限らないのと一緒じゃの。
気軽に命を粗末にする者をほいほい最良な転生などさせるはずもあるまい。
我は死者多き黄泉比良坂より下層から参ったのだ、死者は見慣れておる。
そちが生きようと死のうかまわぬが。
太古より半神として生を受けた者は、地上に生きれば過酷な定めを持つ物だ。
まあ、神の先輩として手助けに来た、と言うかんじで来たのだが、どうじゃ?」
最後は悪戯っぽく微笑む。
「ふふっ、母様はこれでもかなり心配なさっているのですよ?
貴方が他の異世界へ失踪した時は、それはもう…ムグムグ。」
「ええい!余計なことは言うで無いわ!」
伊邪那美は、思いっきり天照の口を塞ぐ。
少しして、落ちた。
ヤバイんじゃないかと思ったけれど、まぁ直ぐに復帰するそうだ。
神様つえーな。
そして、伊邪那美は何事も無いような感じで真顔で語り始めた。
「そちの両親、古代神であるそちの父上の方は我が幼き頃の縁者での。
神同士の古い闘いの時一度消滅に近い状態で行方不明になっとったのじゃ。
まさか記憶を喪失し、地上に落ちていたとは気付かなかったのじゃ。
時空の流れの違う場所で、長い時間をかけ再生蘇生し。
人の姿に固定されたのがそちの父上じゃ。
記憶の無い父上をそちの母上が介抱し、結ばれたがの。
不幸な事に時空の戦の歪み事故の影響で、大きな天変地異が発生し、父上は記憶を思い出し。
残りの力で地上やそちを守り魂事消滅したのじゃ。
残念ながら母上の方は、事故の時共に守られて居たのじゃが、父上のようにそちを守ってあえなく死んだのじゃ。
今は異世界へ転生させた故、安心せよ。」
両親の話を聞かさせて、ただ呆然と焦る。
両親は、交通事故で骨も残らず死んだのでは無かったか?
俺はどうして助かったのか、今迄うろ覚えで分からなかった。
多分、両親の死ぬ記憶を父か消したのだろうか。
「消滅って何だよそれ…。」
ポロポロと雫が目の前の長机に零れた。
雨?
いや、熱くなった頬に流れる涙だ。
異世界に幾度か渡った為だろう。
良くある物語のように、転生した両親に会えたりしたら…と異世界転生者の話を聞くたびに密かに思っていた。
ああ、魂の消滅。
全ての世界から欠片も痕跡が無くなる事だ。
俺が産まれ変わったとしても、二度と再会は不可能ってやつじゃないか。
いや、再会出来なくても。
産まれ変わって幸せになったくれていたらどんなにか…。
「まぁ、利根市の時空の歪みの原因になった事故だったのですがね。」
「え?」
「え?」
天照がコホンと咳払い。
「お母様、余り突っ込んだお話はもう少し安定してからで無いと駄目って仰ったのは貴女様ではありませんが。」
「あー、つい。
ごめんちゃ。
てへぺろ。
って可愛く言えば若い子許してくれるって木花咲耶姫たんが言っておったのじゃ。」
「お母様、それ騙されてる上に使い方違います。」
天照は、はぁ、と溜息をついた。
「それで、どうなさいますか?」
「あー、これ二番しか色々無理でしょ?
やりますよ、神様修行。
俺まだやりたい事沢山あるのに狂いたく無いですよ。」
「うむ、覚悟せよ。」
楽しそうに伊邪那美が笑った。
バーン!
とそこで扉が開く。
見知らぬハンサムな男性が部屋に飛び込んで来たのだ。
「伊邪那美!ここにいたのか?
探したのだ。」
「あ、ダーリン。
家康殿に会うと申したではないか。
こら、離せ、苦しいのじゃ。」
「折角此方に来たのだから、俺の側に居なくては駄目だ。
そうで無くとも、たまにしか逢えぬと言うのに。」
「それはダーリンが黄泉の国でやらかしたせいであろうに。」
「アレは…そう、ハニーへの愛がすれ違ったのだよ。
今はますます愛が溢れているのだから、絶対大丈夫なのである。」
「んもう、ダーリンってばっ、きゃ。」
どーやら黄泉比良坂の痴話喧嘩の後、仲直りしたらバカップルぶりが悪化した模様。
いきなりいちゃつく国産みの二柱神だった。
「ったくお父上、結界を破って来たら駄目ではないですか。」
「いつもの事だぜ兄貴、ほっときゃそのうち落ち着く。」
扉の後ろから線の細いイケメンが現れた。
更にその後ろに面倒そうな表情のワイルドそうなイケメンが居た。
あぁ、多分線の細のは月夜見、ワイルドなのは須佐之男だろうな。
「あ、ツッキーとスーたん。
迎えに来てくれたの?
嬉しいのじゃ。」
ご機嫌に喜んでいる伊邪那美。
つーかこの分じゃ天照も変なあだ名付けられてそうだ。
後なんか伊邪那美が幼い外見過ぎて、逆ハーレム風に見えなくも無い件。
「それでは家康殿、参りましょうか。」
「え?支度とか挨拶とかは…。」
「この件は秘密裏に進められている。
それに、まずはその能力を安定させなくては一般人に被害が生じる。
ここの会社の上層部には話を付けてあるから安心して欲しい。
急な長期出張と言う事にしたんだ。」
少し狼狽えて、でも気持ちを飲み込む。
今は慎重にならないと、余計な被害が生じて誰かがおかしくなったら困る。
「分かりました、よろしくお願いします。」
「荷物は持たなくても平気よ。
全て高天原に転送したから。」
「あ、ありがとうございます。」
ぺこりとお辞儀をして、そのまま転送した。
あっという間の出来事で高天原に到着。
本当、転移は便利だよな。
ランダム転移でもないと知らない土地には行けないけれど。
一瞬で他の場所に行けるのは魅力的だ。
そんなわけで、俺は高天原なう。
高天原なう。




