振り向けば魔王が仲間になりたそうにこっちをガン見してた
荒野で一人歩く家康の異世界の出会い。
暫く何も無い草原を歩く。
偶に木とかはぐれた魔物や、野生動物と出くわしたり。
食べられるか食べられないか、微妙なラインの果物や野草が生えてたり。
貰った図鑑に載ってた大丈夫そうなのをチョイスしてつまむ。
うん、取り敢えず今の所はヤバイ感じの魔物や、毒麻痺石化には遭遇して居ない。
でも多分、俺のほうがはぐれた彼女達よりもヤバイ現状だろうな。
と、遠い目になる。
あれから二日歩いたが、マジで何も無い。
人が住んでいる所から、とんでも無くかけ離れた場所に俺は飛ばされようだ。
きっと彼女達は、選ばれし姫巫女様、勇者さま。
どうかこの世界を助けて。
とか何とかテンプレお願いをされてるころかなぁ?
他力本願召喚ってマジ迷惑だよなぁ。
だいたい召喚するのって、現地人があんまり努力して無いケースが一番ヤバイらしい。
最悪兵器兵団奴隷みたいな扱いなんだと。
まぁそうだよな。
大人しい日本人に、強面の貴族王族が威圧掛けて。
マイナス面聞かせずに、良さそうな事を言って表面的にチヤホヤしたら。
大半簡単に言う事聞いてくれるんだろ?
んで、地元民被害者が減るから民意が召喚した貴族王族が持て囃される。
ブランド品のような扱いだ。
さらに悪いと、完全に庶民だからと奴隷扱いで、装備もお金も持たせずに出発させたり。
美少女やイケメンだと、戦いに慣れるまで。
こき使い娼婦や男娼のような、正に人間以下の扱いにするのだ。
そりゃ闇落ち勇者も出るだろう。
そう言う場所は、大抵異世界召喚協定を結んでおらず。
後々やんごとなき神々の間で、預かり知らぬ裁判的な事案になるそうだ。
ここの召喚事故は、一体どういう扱いになるのやら。
暫く歩くと、オアシスが見えた。
川や小さな池はあっても。
大きな沼や湖のような、澄んだ綺麗な水場は貴重だ。
水場で軽く水浴びと洗濯でも…。
ん?
水音?
オアシスを取り囲む林を抜けると、誰かが水場で泳いで居た。
黒い肌、尖った長い耳。
銀色のサラサラで、足元までつきそうな長髪を、魚のように跳ねさせ。
踊るように水と戯れる。
そして、陽の光を浴びて美しい裸体を浮かび上がらせる。
そして、幻想的な景色に見惚れた。
しかし、その人が俺に気付くと、その幻想的な景色は終焉を迎えた。
「誰⁈」
少しアルトボイスの声が、凛と響く。
ばっと後ろを向く。
「す、すまない。
ここに迷い込んだ者だ。
余りに綺麗な場所だったから来て見たら。
先客が居たとは思わなくて。」
しかし、彼女は無頓着に裸体のまま、俺の隣に並んだ。
「ふうん?
貴方は不思議な香りのする人族ね?」
ジッと顔を覗き込まれる。
いや、こっちは目のやり場が…。
オタオタしてしまうと、クスッと笑われた。
「あら?女の身体は慣れて居無いのかしら?
初心なのね?
私はネイヤ、人族には魔王と呼ばれて居るわね。
貴方、異世界から来た勇者とかかしら?
他の人族のように私を倒す?
って感じでは無いわね。」
面白いオモチャを見つけた様に、楽しそうにクスクス笑う。
「魔王って程性悪に見え無いんだけど。」
俺の返事に益々おかしそうに笑った。
「貴方変わった子ね。
魔力がこの世界で一番強く、長寿なダークエルフ産まれってだけで。
怪我で死に辛いってだけよ。
死なない訳でも無いし。
人族が勝手に怯えて、差別して偶に攻撃しに来て居るに過ぎないわ。
だいたいこのトトエ大陸には滅多に人族来れないし。
私から別の大陸に攻め込む気なんて、そんな面倒な事をするつもりは全く無いわ。」
困った様に肩を竦めた。
何と無く、嘘は感じられなかった。
「そっか、大変だな。」
と答えると、彼女はやはりおかしそうに笑った。
「君は本当可笑しな子ね。
えーっと。」
「あ、俺は家康って言うんだ。
始めまして異世界の魔王ネエヤさん。
俺は他の連中の召喚に巻き込まれて、俺だけここに弾かれたらしいんだ。
折角異界渡りの仕事に付いたのに。
召喚召喚に遭遇とか、マジついて無いや。」
「あらあら、本当に召喚された子なのね。
私を倒す?」
楽しそうに言う。
「いや、何か悪さしてるならともかく、相手の被害妄想だろ?
そんなの協力したくないから。
俺はやらないさ。」
「あら残念、貴方の不思議な香りは、闘いで色鮮やかに成りそうなのに。
私が貴方のその色を見て見たいから、闘うのも楽しそう。」
声は世間話風なのに、言ってる事は物騒だ。
流石魔王、脳筋思考か?
しかし、ネエヤさんは俺と無理に戦うつもりもないようで、ふんわりした空気を保ったままだった。
不意にネエヤさんが、ジッと俺の顔を見上げて、いつの間にか先程まで濡れていた乾いた身体を密着させて、口付けた。
「ん⁈」
驚いて退こうとしたが動けない。
甘い痺れる様な口付けの後、俺は意識を失った。
「あら甘くて美味しい。
この子の魂なにか封印されて居るけれど。
なんでこんなに綺麗なのかしら?
ふふ、食べちゃいたいわね。」
クスクスと笑う。
サッキュバスのように妖艶に笑うが、俺はその声も聞こえて居なかった。
目覚めると、何処かの屋敷のベットで寝かされて居たようだ。
「ここは?」
「あら起きた?おはよう家康。
ここは私の家、魔王城って感じでは無いけれど、魔王の屋形くらいな建物かしら。
あんな荒野で置き去りに出来ないし。
連れて来ちゃった。
寝かせたのは、私の転移は少し乱暴だから、気絶防止の為よ。」
てへぺろとばかりに笑うネエヤさん。
「どれ位寝てましたか?」
「そおね、疲れて居たのかあれから丸々一日寝てたわね。」
「そうですか、わざわざすいません。」
困惑して、取り敢えずお礼。
キスの事は聞かないでおく。
「どう致しまして。」
のらりくらりと会話が続く。
榛名さんとは、正反対のセクシーお姉さまって感じの魔王ネエヤさんへの上手い対応が浮かばない。
友達対応が出来ても。
つくづく女慣れした対応が、全然スマートに出来ない俺で有る。
「イエヤスは、ここに暫く居たらいいよ。」
「エ?」
「んー、なんかね。
他にも召喚に巻き込まれた人達が居るなら。
ここに最終的に来ると思うのよ。
それに新しい家族として、ここに居ても良いのよ?」
「でも…ここに留まれば、人族がネエヤさんを倒しに来るって事でしょ?
それを待つだけって言うのも。
何か納得がいか無いんだが。」
「それは、私の心配?
仲間の心配?」
伺うように、俺を見つめる。
「両方です。」
すると、ぱあっとわかりやすく、無邪気な笑顔になった。
「私ね、一人が寂しいの。」
ん?
「ずっと側に居てくれる人は、私より早死になの。」
お?
「だからね、イエヤスが元の世界に帰るまでで良いから…側に居ても良いかな?」
妖艶だったり、あざと可愛いかったり。
表情がコロコロ変わるネエヤさんは、普通の女の子と変わらなかった。
「…魔王配下には成りませんけど、それでも良い?」
「配下とか居無いもん!」
ぷくーっと頬を膨らます。
何この可愛い生き物。
「たはは、まぁ、俺で良ければよろしくお願い申し上げます。」
「はい。」
こうして、ダークエルフの女魔王様を仲間にした家康は、一月この辺りでレベル上げをしてから他の大陸へと渡る事にした。
だがこれが、平均値を勘違いし。
家康のレベルを人外レベルに引き上げる一月になるなんて、思いも寄らなかったんだけどね。
榛名さんのスパルタが優しいかったと益々白目になったとか、秘密だよ!
新たな仲間は、魔王様ですた。
家康は家康の居るトトエ大陸から。
榛名達はキシュトア神殿から。
それぞれ再開の旅に出掛ける事と成りそうですが、果たして?




