開花編 前編
目を覚ますと全く見覚えのない建物の中にいた。そこで改めて数時間前の出来事を思い出す。壊れ果てた窓ガラスに目を移すと、外はほとんどと言っていいほど闇に呑み込まれようとしていた。
「あ、起きたんだ、おはよ」
そこにはいつものように瑠衣が側にいた。暗いせいか、ランタンを片手にぶら下げている。ほんわかとした灯が何処か安心感を感じさせる。
「もう、心配したんだからな?中々目覚まさないし、お陰で京治を宥めるの大変だったんだから」
頬を膨らませ参ったとばかりの目を向けてくる瑠衣の様子を見る限り、京治という名の彼は相当何かにお怒りなのだろう。
私は「ゴメン…」とだけ言い寝袋の中から這い出た。
「それで…京治って誰?」
「んー、会えば分かるよ」
そう言って瑠衣は部屋から出て行った。私も彼に着いて行く。すると、しばらくも歩かないうちにある場所から優しい光が見えてきた。瑠衣はそこに入り何者かと話し始めた。
「おい、いい加減俺らで食っちまおうぜ。俺はさっさと食ってさっさと寝てぇんだよ。」
「まあまあ、今来るからちょっと待ってろよ。男のクセにみっともない。」
その声には聞き覚えがあった。そうだ、絶対に間違いない。さっき私達を助けてくれたあの男の人だ。私は瑠衣の後を追い、目的の場所へとたどり着く。
「おい、遅ぇぞクソ女。テメェのせいで詰んだじゃねぇか。」
「ゴ…ゴメンなさい…」
細く鋭い目つきにフード付きのパーカー、そして癖のある髪と机の横にかけられた立派な剣。全ての条件が満たされている。間違えない。あの時の男の人だ。
「罰として飯作れ。どうせインスタントなんだから作れんだろ。」
「え、あ…はい」
それからしばらくして、京治にガミガミと言われながらも無事夕食にありつく。だがその日は沈黙に包まれていた。本当はもっと聞きたい事がたくさんあったのだが聞けないまま夕食を終えた。
ー食後ー
「あ、あの…今更失礼かもしれないですけど…なんで、一緒に居るんですか?」
私はやっとの思いで言いたかった事を伝えるられた。だが返事は瑠衣から帰ってきた。
それも突拍子もないどうでもいい事…。
「僕らは2人で1つに…っ⁈痛っ」
どうやら京治さんから鳩尾に極上の御見舞いをいただいたようだ。
お腹を押さえながら呻き声をあげる瑠衣をザマぁみろとばかりの睨みを利かす彼は私の方に向き直り話始めた。
「仲間としてお互いを認めあった…とでも言っておくか」
「あー…そうなんですか…」
私は彼の淡々とした口調に返す言葉を困まらせてしまい、おかげで適当な返し方をしてしまった。だが本当に聞きたい事をまだ聞けていない。自ら京治に声をかける。
「あの…」
「あ”?」
鋭い眼差しが私を見下げる。あまりの恐怖に身が凍る。勇気を振り絞り話題を切り出す。
「え…あ、その…、何で私が、昴の腕をなおせると思ったんですか?」
すると彼はしばらく間を置いてから再び口を開いた。
「…原子が見えた。それだけだ。」
「原子?…原子って、あの緑の光の事ですか?」
「そうだ。」
私の周りには普段から光が飛んでいたのだろうか?そうでもなければ彼にそんな力が他人に秘められているだなんて見出せることができるはずがない。それ以前に彼にだけその光の集結が見えているのはどうしてなのだろう…気になる事が多すぎる。
「使い方によっては武器にもなるが、それはお前次第だな。じゃ、俺は寝る。」
「待って⁉︎」
私は慌てて引き止める。使い方によってはということはその使用方法を知っているという事だ。ならば絶対に教えてもらわなければいけない。
「お願い、教えて」
「自分で考えろ」
「なら私にヒントを頂戴!そしたら自力で何とかする」
彼のめんどくさがりは本当に頑固だ。ここは私が一歩引くしかない。だがなんとしてでも知りたい。絶対に私は強くなる、ならなければならないんだ。私は必死で彼に頼み込む。この際プライドだってなんだって捨ててやる。めんどくさそうに顔を顰める彼に全力でなり下がる。すると、ついに降参したのか口を開き一言こう言った。
「自分と向き合え…それ以外お前に与えるものは何もない」
それだけ言うと彼は部屋から消えて行った。
私は頭を悩ませた。気づけばもう既に深夜0時を回っていた。瑠衣も寝てしまったのだろうか、部屋の中は私だけだった。
「そろそろ寝なくちゃ」
そう言って私は部屋の灯を消した。
ー完ー