国会議事堂編 後編
ー瑠衣sideー
ふと気づくと僕は完全伸びきってしまった草の上に倒れこんでいた。あまりの痛さに気絶してしまったらしい。僕は先ほど引き千切れた腕を確認するがまるで夢でも見ていたのかのように傷跡一つ残っておらず腕は完治されていた。途切れ途切れの記憶をなんとか思い出し、複製する。そこでようやく明朱楽が治してくれたことを改めて思い出す。今はまだ隣に横たわる明朱楽に上着を被せ辿々しく立ち上がると周りを見回す。イーター達の血の香りが風と共に流れ鼻の奥を刺激する。それと同時に先程の男の事を思い出す。あの厄介な人間は生きているのだろうか。いや、考えなくても分かっていた。
「全滅か…」
あの数のイーターをたった一人で仕留めたのだろうか。流石は世界一最強の勇者だ恐れ多い。それにしても偶然とはいえ強敵をお目にかかれるなんてね、まったくとんだ不運だ。すると西方から人影が現れた。噂をすればと言うやつだろうか。その影は徐々にこちらに近づいてくる。世界一最強の勇者こと椿京治。人類がRPGに支配されてから名高い勇者としてその名を刻んだ超人だ。
「おいチビ助。もう腕は大丈夫なのか」
彼は2mほど離れた場所から僕に声をかけて来た。初対面に向かってチビ助だなんて口が下品きまわりない。ならば僕が教育すべきだろうか。まずは基礎の基礎、言葉遣いの見本から。
「大丈夫だよ。まさか君に心配して貰えるとは思ってなかったけどね。椿京治くん」
すると京治は驚いたような顔をしてみせた。それもそのはずだ、ついさっき会ったばかりの人間に自分の名前を言い当てられたのだから。そして僕が勝手に始めたコミニュケーション講座なんかには反応なんかが返って来るはずもなく、次のステップにあがって行く。次は人への態度。だがそんな事をグダグダ考えているうちに京治の僕への印象は着々と悪いものへと変わっていた。
「お前…何者だ…?」
じわじわと距離を縮めてくる。僅か1mほどの距離になったその時…京治が僕に向って勢いよく刃先を突きつけてきた。得意の瞬発力を生かし攻撃を回避する。流石にこの行動は講師として見逃すわけにはいかない。本当のところはただ個人的にムカついただけだが…。
「何だよ…」
「言え、何者か。そして最後に誓え。貴様が俺に一言たりとも嘘をついていないと…。」
首に軽く食い込んだ剣を横目に僕は迷い無く回答した。これではどちらが講師なのだか分らなくなる。もしや彼も心の中で講習ごっこを決め込んでいるのではないかと思うと少々恐ろしく感じる。正直絶対にそんな事はありえないとは思うが、これに免じて講師ごっこは終わりにしよう。なかなかに面白かったしな。その代わりと言ってはなんだが、完全に彼の中に染み付いた僕への不審感を拭い取らなければならない。
「ただの中学生だよ?素早い攻撃や頭脳戦は僕の得意分野だ。もちろん嘘はついてない。誓うよ…。」
その言葉を聞いて京治は少し顔を顰めたが、しばらくすると「その言葉は…信じてもいいのか?」と踵を返し僕に訪ねてきた。
「いいに決まってるだろ?」
京治は剣を仕舞い僕と向き会った。
「お前名前は?」
「僕の名前は立花瑠衣だ。改めてよろしく頼む、京治」
僕らはその日仲間としてお互いを認識した。
そう…”偽りの仲間,,として…。
ー完ー
瑠衣side終了