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零の絆ーfalse ♰ bondー  作者: 宙 昴
第1章
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国会議事堂編 前編

ー国会議事堂前ー


テレビで見る美しくも広大な敷地は今や腰の高さまで伸びきった雑草に囲まれており、壁は苔まみれになっている。所々に白い人骨の様なものが転がっていて、生肉腐らせた時にする匂いに良く似た腐臭が鼻の奥をツンと刺激する。そんな草原の中に数多くのイーター達が周囲を取り巻いている。


「・・・えっと、どうするの?」


目の前の光景に唖然としていた私は今にも逃げ出したいとばかりに震える唇を必死に動かし瑠衣に訴えかける。


「とりあえず、他の入り口を探してみよう」


そう言っていつものようにニコリと微笑む瑠衣。

その笑顔は明るくもあり何処か冷たい雰囲気を醸し出す。だが、それはあくまで瑠衣の特徴の一つであり、実際は私もその笑顔にいくらか救われているのだ。

心寂しく半年もの人生をたった1人で歩んでいた私にとって大きな心の支えにもなるのでもあった。そういう意味でも瑠衣は私の恩人なのだ。


ー東口・正門ー

 

正面門から右方向に進んで行くと胸の高さくらいの柵が見えてくる。錆びた格子には沢山の植物が蔦を絡めており、傍の看板には ”東口 正門”と表示されていた。無人だったせいか茶色い苔が生えている。


「ここなら大丈夫そうだな」


「うん」


私は周囲に警戒を計りながら小声で返事を返す。今の所は大丈夫そうだが厳重を要する。それから私達は瑠衣を先頭に慎重に壁を沿いながら国会議事堂内へと命辛々浸入した。それと同時にいきなりの異常な緊張感に晒された私は床に敷かれた如何にも高そうなレッドカーペットの上に崩れ落ちる。今にも破裂しそうな程にまで激しく脈打つ心臓を深呼吸で整え、充分な酸素を体内に送る。


「大丈夫か?無理すんなよ?」


心配そうに私の顔を覗き込む瑠衣。私は迷惑をかけてはいかんとばかりに急いで立ち上がり平然を装う。


「大丈夫!よし、探索だよね?私はこっちを探すから瑠衣はあっちね!それじゃ!」


「あぁ」


瑠衣の不安そうな声を聞き流し、手早く役割確認を済ませるとお互いは決められた方向の探索へと入った。


ー大講堂前ー


長らく歩きまわり辿りついたのは何に使われるかも分からない無駄に広い大講堂。大理石で出来た立派な床はもう既にボロボロになっており足場が悪く進もうにも進めない。


「うわっ⁈…」


誤って石につまづき大胆に転ぶ。手についた砂埃を払いつまづいた石の部分を確認する。するとパッと見他の石に比べると少し形が歪に見える。


「もぉ〜、痛いなぁ…って何これ」


私は床を剥がし中を確認する。そこにはコンパスと一枚の紙が入っていた。


「これ、もしかしてヒント?よし、瑠衣に早く伝えなくちゃ!」


「独り言が多いな」


いきなり現れた瑠衣に驚きの声を上げる。


「いるなら声かけてよ〜、ビビったぁ」


「すまん」


そう言葉を言い放つものの口調は淡々としていて、悪びれた感じは一切ない。


「そんな事より、それヒントなんだろ?見せてよ」


次へ次へと話を進めようとする瑠衣は私の方に手を伸ばしヒントを受け取ろうとする。私も先ほど入手したものを仕方無さげに手渡す。


「んと、どれどれ?…地図?」


私も紙の中を覗く。確かに地図だが、その地形には見覚えがあった。世田谷区一帯が全面コピーされている。そして赤ペンで丁寧に丸く囲まれている場所が一部…。


「世田谷第3中学校…ここって、私の学校。」


思い出すのも嫌になる。みんな幸せそうに通っていた校舎はあの日のたった一瞬の出来事で恐怖と血の色に染まってしまった。もしあの場所にまた戻らなければならないのだとすれば、申し訳ないが私は行く事は出来ない。頭の中でリプレイするだけでも頭痛を覚える。


「ここなら何かヒントが隠されていそうだな。行ってみるか」


「イヤだ…私、行きたくない…」


「はぁ?」


いきなりこんな事を言って瑠衣の気持ちを害してしまうのは分かっている。だがそれでも私は行きたくないのだ。思い出してはいけない何かを思い出してしまいそうで、怖い…。

そんなの自分の中の屁理屈だということは理解の上だ。それでも精神は状況に追いつけない。


「…お前、ふざけてんのか」


「へぇ?」


「何があったかは知らないけどさ…そんなの今の僕らには関係ないだろ…!舐めた態度取る様な奴はついてくんな!」


瑠衣の怒声に全身が再起動する。そうだ。私は自分の過去から逃げていただけなのだ。しっかりと正面を向いて堂々と向き合う事を完全に拒否していた。


「…私、まだこの旅の意味を分かっていなかったのかも…ゴメンなさい。だから、私も連れて行って…こんな所で死ぬのは嫌なの」


しばらく沈黙が続くと瑠衣の小さなため息が聞こえた。


「まったく…分かったならそれでいいよ。さぁ、行こう、日が暮れる迄に」


そう言って瑠衣は私の手を引き走り出した。

もう私は挫けない。どんなに心が折れそうでも、今の私には支え合える仲間がいる。そしてこれから先、越えていく困難に二人で立ち向かい、それに打ち勝つ。だって私達の冒険はまだ始まったばかりなのだから…。


夕陽に染まる廊下を私達は砂埃を巻き上げながら走り抜ける。入り口に辿り着くと呼吸を整えゆっくりと扉の施錠を外し重たい扉を開けた。冷えた空気が勢いよく吹き込んでくる。その時…。


「きゃっ⁉︎」


直ぐ側まで来ていたイーター達が開いたのと同時に入ってきた。一体のイーターが私に襲いかかり、殺気に満ちた今にも嬲り殺してやろうとばかりの瞳を鋭く光らせた。すると目の前で突如呻き声を上げ始めたイーターはその場に倒れ、苦しそうに踠いている。背後から現れた瑠衣の手には大量の血液が付着した短剣が握られていた。イーターの傷跡を見る限り、胸に深い刺し傷がしっかりと刻み込まれていた。瑠衣が一撃を喰らわせたのだろう。


「行くぞ!あくまで時間稼ぎ程度だ。急いで他の場所に避難するぞ!」


「うん!」


瑠衣はそう言って私の手を取り走り出した。足の速さに劣り、転びそうになりながらも必死に走り続けた。だが、前方には数えきれない程のイーター達が壁を連ねて私達の行く手を塞ぐ。


「チッ…塞がれたか…」


「どうするの?」


以前まで綺麗に整備されていた荒地でイーター達に囲まれ、逃げ場を無くした私達は絶望の淵に立たされていた。今の私達に残された選択肢は、諦める…この状況では、どんなに頭をフル回転させても、それしか最善を見つけ出す事はできなかった。ここで終わりか…随分と早かったな…もっと沢山の事に挑戦してみたかったな。そんな事を考えているとどこからか声が聞こえてきた。


「おい、そこのクズ共…そんなクソガキじゃなくて、俺と遊ぼうぜ?」


その声の主は、先程ここまでの道を教えてくれた男の人だった。イーター達の視線が一気に彼に集中する。すると彼はイーター達の中に立派に拵えられた剣を片手に物凄いスピードで突っ込んで行く。イーター達も彼に一斉に襲いかかる。そして目をも疑う素早さでイーター達を一気に全滅させた。私はその光景をずっと見ていた。しかし瑠衣の呻き声でふと我に返り後ろを向く。すると、イーターに瑠衣が腕を噛まれ血を滴らしていた。


「っ…ぐ、ぐぁ…⁉︎」


その瞬間紅の雫が私の視界を占領する。瑠衣は腕を抑えながらその場に倒れ込み、呻き声を上げる。それでも完全に殺すまでイーターの気は収まらないようだ。すると真横から立派な剣がイーターの脳を貫いた。すると彼は私に声をかけてきた。


「お前の力でなんとかしてやれ」


「へぇ?」


「意識を集中させろ。自分と向き合え。」


私は彼の言う通り全ての意識を集中させ、心の中で自分自身に話しかけた。


『ねぇ、教えて…私の力って何?どうしたら瑠衣を助けられるの?』


気づけば私の周りには小さな光の粒が集まり始めた。命の気流を流れ手に緑色の光が溢れかえる。私はそれを瑠衣の腕と切り離された腕を側に置きその光を腕と腕の間に当てる。すると骨や肉が出来、だんだん腕が繋がっていくのがわかる。


「はは…やった…瑠衣…これでもう…痛く…無い…」


私の意識はそこで途切れた。


ー完ー




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