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零の絆ーfalse ♰ bondー  作者: 宙 昴
第1章
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出会い編

2100年。謎のバイオウイルス生命体による世界撲滅が実行されてから半年がたった。人類のほとんどは滅亡し人口は以前の1/10にまで激減した。生き残ったわずかな人類は、安全を考慮され作られた基地で集団生活をしていた。だが、その中でも勇気ある者は敵に立ち向かい無残に死んで行き、人工は減る一方であった。


東京渋谷区の桜丘町付近。広大な面積を誇るこの街は、以前は多くの人々で賑わいたくさんの高層ビルに囲まれていた。だがそれは日本が侵略される前までの話である。今や人の気配すら感じられず車一台通らないただの荒地と化してしまっていた。そんな中、明朱楽少女は1人懸命に生きようと必死に戦っていた。

この少女が全てを失ったのは去年の梅雨頃。彼女はまだ希望に満ちたどこにでもいる平凡な中学3年生だった。その日彼女は体調を崩し学校を欠席していた。その時、何億をも超えるバイオ生物達は躊躇なく日本に押しかけ、たった3時間で47の都道府県全てを殲滅したのだった。そんな世界に偶然取り残されてしまった明朱楽には、支え合える友人も頼れる親戚もましてや帰る家すら残されていなかった。早くも自立した幼い彼女に残されたのは、いつ自分に訪れるかもしれない「死」とそれに対しての「恐怖心」ただそれだけだった。それでも彼女は生きることをこの半年間一度だって諦めたことはなかった。いつか、元の幸せだった頃にきっとまた戻れると、その心のどこかでは微かに願っていた。



2100/12/4 丁度日本が撲滅されてから半年。生きる為に意を決して外に出た。


段ボールの中に溜め込んであった食料が切れた。唯一屋外だけは敵が襲ってこないことを知り、身を潜めていた廃ビルの隅で縮こまっていた私は、食料の調達の為数ヶ月ぶりに外に出た。相変わらず空は血に塗られたかの様な紅色に染まっていた。この世界はどうやら半年前の一件のせいでRPG化という特殊な状況下に陥ってしまっているようだ。その副作用で空は燃える様に赤く、海は闇の如く黒くなってしまったのだ。そしてこの地は多くのイーター達(※イーターとは人間を殺すのが生き甲斐の人のような形をした悪趣味な怪物。牙と爪は鋭く、身体中は黒い甲羅に囲まれていて主な生態はバイオ生物ということ以外は分かっておらず、誰がどの様にして作りだしたのかも未だ不明である。)によって占拠されてしまっていた。

そんな彼らを恐れた日本人の殆どは沖縄にある無人島に施設を建設し、完全に本州全てを放棄した。

お金も甲斐性もない私には、東京から沖縄まで移動する余地は残されていなかった。ただただこうして死を待つ事しかできないない自分に腹立たしささえ覚える。『この、死に損ない』って。それでも私を責める人は誰もいない。みんな、居なくなっちゃったんだ。

私一人を置いて…。


少し歩いた所にあるスーパーの食料庫から何ヶ月分かの食料を大きめのリュックサックに詰め込んだ。

これはRPG食品と言って、一年前世界中の科学者達が誠心誠意力を振り絞って作りあげた飲食品。ドリンクは一本が大体500mlで2P(パワー)回復する。食料は600gあたり30Pパワー回復する仕組みらしい。

今のこの世界では必要不可欠と言っても過言ではない。無ければ少しづつ体力は削れていくのみ、回復する余地は他にはないとされている。私は重たくなった荷物を背負いながらゆっくりと足を進めた。だが前の住処に戻るのはかなりのリスクを伴うことになる。近場で身を隠せる場所を探さなくてはならない。しかし、

周りの建物はほとんどが倒壊していて身を隠すには少し厳しそうだ。困り果て荒地と化した街中を重い足取りで彷徨い歩くが、体力は一向に減っていくばかりで収穫は得られないまま30分が経過しようとしていた。体が休息を欲し始め、喉が渇きを訴えた。その時だった。どこからか自分以外の足音が聞こえてくるのを察知し、決死の覚悟で背後に目を向けた。その瞬間酷く後悔した。そこには愛する両親を…大事な友人達を殺した残酷な怪物が殺気に身をまとい、その姿は今にも食らわんとばかりにギラギラと鋭い目を輝かせていた。恐怖で体が上手く動かない。せめて何か武器になる物はないかと私は周囲に目を向けたが、そこには錆びた金属バットが1本と瓦礫の山…私は使い物にならない金属バットをすがる思いでしっかりと握りしめ、敵に向っておもいっきりふりかざした。その瞬間グシャリという鈍い音が響き渡り、ドサッと大きな音を立ててイーターは倒れた。生々しい音が鼓膜に染み付いて嫌な気分だ。私は安堵感に刈られ、その場に座り込んだ。丁度その時だった。背後からしなやかな拍手が聞こえてきた。私は後ろを向き両目でしっかりとその音源の正体を仕留める。そこには、同い年くらいの少年が凛として立っていた。彼は倒れているそれを見つめながらニコリとなんとも言えない爽やかな笑顔をしてみせた。


「ははは、スゴいスゴい!いいもの見せてもらったよ。」


まるで何もかもを面白がっているかのような口ぶりだ。パチリとした大きな瞳をキラキラと輝かせては、物珍しそうな視線を送ってくる。それでいて色白で細身の体は、好奇心に満ち溢れていて、異常な程に揺さぶっている。今にも興奮を抑えられないと言わんばかりだった。私は訝しげな目で彼を見据えると、素性を尋ねた。


「…貴方は…?」


彼は急な質問に驚いたのか一瞬キョトンとした表情をして見せた(聞かれることぐらいは予測してはいただろうが)。だがまたすぐに口角をニッと上げ、こう答えた。


「僕、立花瑠衣、よろしくね!」


彼はそう言って軽やかな動作で私に手を差し伸べてきた。よろしくするかどうかはさて置き、私は彼の手を取り引き上げられる力に身を任せその場で立ち上がる。『ありがとう』感謝の意思を伝えた。すると『どういたしまして』彼は明るく返事をした。だが何か寄越せと言いたげな物欲しそうな目で見つめてくる彼から『お前も素性を明かせ』という訴えを察知し、渋々私も名乗ることにした。


「わ、私は…明朱楽…夜桜明朱楽…。」


すると自らを瑠衣と名乗る少年は、私の顔をまじまじと見るなり不思議そうな顔をして見せた。


「え、えっと…何?」


その動作を不審に感じた私は少し警戒心を抱いた。


「いや、明朱楽って…珍しい名前だなって…まぁいいや、ゴメンね?いきなり変だったよな」


そう言って瑠衣は少し恥ずかしそうに笑って見せた。あまりにも彼の反応がサッパリとし過ぎて何だかこっちの方が恥ずかしい。


「あ、うん…大丈夫だよ」


私もそう言ってぎこちなく笑った。



瑠衣はここから南西にいい穴場を知っていると言い、重くなった荷物をそこまで難なく運んでくれた。細身でも筋肉はちゃんと付いているんだなと少し感心してはいたが、流石に体力はそこまで維持できなかったのか目的地に到着した頃には既に力尽き、地面で伸びきっていた。そんな彼に先ほど収集してきたRPGドリンクを差し出すと、一気にグイッと呑み干した。その途端まるで干上がった池に水が満たされた時の魚の様に動き始め、『よし!』と室内まで元気よく荷物を運んでいった。きっと彼は調子がいい人間なのだろう。でも、そんな彼の姿を見ていると今までの環境がまるで嘘なんじゃないかと錯覚てしまうほど、心の中で何かが満たされていくのを感じていた。気付いた時には、私は半年ぶりに微笑んでいたのだった。


日は落ち、ろうそくの火が灯る部屋の中で私と瑠衣は今にも壊れそうなパイプ椅子に腰掛け、食後のRPGドリンクをすすっていた。粉末をお湯で溶いただけの即席ではあったが、誰かとこうして一つのものを、そして一つの時間を共有できる喜びが私の心身をより一層温もりに包み込んでくれた。しばらくすると瑠衣が口を開いた。


「なぁ…もし、この…今の世界を…元の世界に戻すことが出来たら…?」


「え?」


急な質問に私の頭は一瞬真っ白になってしまった。その瞬間、私はあの日の地獄を思い出した。そう、敵が日本を襲撃した日の事を、私を守るため命をかけてイーター達に立ち向かったお父さんや母さんの事を、そして仲の良かった大切な友達のことを…全てが昨日の事の様に鮮明に浮かび上がってくる。今まで私は、そんな現実をいつだって逃避しようと逃げ惑っていた。心の奥底では必ずいつか元の楽しかった日常が戻って来る、そう信じてはいたもののどこまでその希望を信用していたかはわからない。でもきっと誰かがそれを成し遂げてくれる。そうきっと『誰か』が。


「僕、自分に賭けてみようと思うんだ…生死の境を命をかけた旅に出て、必ずこの世界を変えてみせる!もちろん全ては運命にかかっているけど、成功すれば新たな人生を切り開ける。だが、失敗すれば…死ぬ…。この世界も、僕も、誰一人として救われない。それでも僕、やってみたいんだ!」


そう、瑠衣。彼こそがまさにその『誰か』なのだ。私には遠く及ばない遥か彼方の存在。きっと彼がこの世界を変えてくれる。きっと『彼が』…


「ねぇ、明朱楽。君も一緒に旅に出ないか?」


彼の最後の言葉で、私は度肝を抜かれた。私が?この何も出来ないただの凡人の私が?この世界を変える?そんなことはたして可能なのだろうか。だが私は気づいてしまった。元はといえば、彼だって普通の子供ではないか。ただ、ほんの少しの『勇気』と未来に託す大きな『希望』があれば人はなんでもできる確信がつく。彼の活気強さはそんなちっぽけな力から漲っているのだ。ならば今まで人任せに生きていた私は本当にただ逃げ回っていただけなのだ。こんな恥ずかしい事があるだろうか。彼の生き様を見ているだけで死にたくなってくる。ならばいっそ腹を決めて自分も前に進むしかない。この半年間の悔いをさらなる罪悪感へと変える前に、この報いを晴らさねばならない。そうでもしないともう自分のプライドが許してはくれない。だがやはり死ぬのは嫌だ。そんな私の臆病な気持ちが前へ進もうとする強気な心を押し潰そうとする。でも私はもう既に決意を固めていた。みんなの…そして人類の仇を打つと…。


「…私も、一緒に旅に出る!そして、命をかけて戦う!みんなの仇を…この私が、必ずとってみせる!そして、この世界を平和に導く!」


力強くそう言い放った私の言葉に瑠衣は静かに頷き、今まで見せなかった真剣な眼差しを私に向け、一言口にした。


「…いい覚悟だ」


その言葉こそが、彼からの承認の言葉だった。



この日から、私の大冒険は始まっているような気がした。旅立ちは明日。その晩、私はなかなか寝付くことができなかった。



2100/12/5 新しい人生の幕開け。狙うのはこの世界の中心部。


翌朝、小鳥のさえずりで目を覚ますと隣で眠っていた瑠衣の姿は既になく、寝袋は綺麗に折り畳まれていた。今日はついに旅立ちの日。今までにない緊張感と胸の高鳴りは、昨日までの恐怖に怯えていた私を大きく変えていた。いつもと何ら変わらない朝なのに、今日は凄く特別なように感じる。私は大きな欠伸をしながら少し大きめの部屋へと向かう。そこには、ココア味のRPGドリンクを飲みながらノートPCの画面をジッと眺める瑠衣の姿があった。


「おはよう」


私が声をかけるとビクッと肩を跳ねらせ、驚かせないでくれよとでも言いたげな顔で挨拶を返してきた。それと同時に、何か思い出したかの様に『あっ』と声を出すとPCの液晶画面をこちらに向け、『これを見て』と促してくる。私はそれをどれどれと覗き込むと、そこには1年前の新聞の記事が記載されていた。


『2099年11月3日(金)京都府京都市にある洛仙中学校で教師と生徒を含む約1440人が正体不明の生物により重症を負わされ、そのうちの5人が死亡した。この事件を学校側は、原因についてはこちらからはなんとも言えない。ただこのような非常事態に完全な防御体制を取ることができず、こんな無残な結果になってしまった事、保護者の皆様方には謝罪しても仕切れない。と学校長は何度も謝罪の言葉を口にした。一方京都府警視庁一課の調べによると、近所の住民からの事情聴取から実に耳を疑う真相を明かされた。人ではないが人と同じく二足歩行で歩き、鎧のような硬くて黒い物を身にまとった怪物が何十匹も校内を歩きまわっていたという。この証言は多くの人々から寄せられたため、警察側は頭を悩ませている。』


という内容だった。とても興味深い内容でついつい読み入ってしまったが、おそらくこの『鎧のような硬くて黒い物を身にまとった怪物』とはイーターのことなのだろう。そう考えると、もう既に1年前からイーター達はこの日本に存在していたということになる。では、何故その学校だけにとどまり続けていたのか。イーター達の意思であれば必ずしも他のターゲットに目をつけ、町中を血色に染めるに決まっている。だがそれをしなかったということはきっと何かしらの理由があったのに違いない。それにしても一体どんなもくてきだったのだろう。考えても考えてもきりがないと思った私は、瑠衣にこの記事を読ませた意図を訪ねてみた。


「一応全部読んだけれど、これがどうしたの?」


すると瑠衣が察しろよとばかり目で訴えてくるのであくまでの推測を口にした。


「とりあえず、この記事から分かることは、1年前にはもう既に日本にイーターが存在していたということ。あと、何故か自分の意思ではなくなんらかの目的があったってことじゃないかな?」


今度は瑠衣が満足そうに『ご名答!』と答えた。だが瑠衣の解答にはまだ続きがあるらしかった。


「でもね、明朱楽。なんでそのイーター達が目的を持っていたか分かるかい?」


私には少々分かりかねる質問だった。何故イーター達が目的を持って行動していたかなんて私には知る余地もないのだ。だがよくよく考えてもみると、おかしな話である。理性と欲だけで生きる事しか能がないイーター達に意思の疎通なんてものが存在するのだろうか。いや、あるはずがない。彼奴らは仕留めた後暫しの時間が経てば灰になり、そのまま土の栄養となるのだ。それを含めて考えればおそらく脳みそや臓器といったものは入ってないだろう。ならば一体何故…?まさか、何者かに操られていたということなのだろうか。それも十分に考えられる。何故なら奴らは元はPC感染型のウイルス菌なのだ。誰かが管理していても何もおかしいことはないではないか。そうか、そういうことだったのか。きっとその操作している人物は洛仙中学校に何かしらの目的があったのだ。しかしそこで私はもう一つの疑問に気がついてしまった。


「もし、あのイーター達を誰かが操っているのだとしたら、何故日本の中学校なんかを狙ったの?世界を標的にすらなら、アメリカとかロシアとか、強い権力を持つ国家から攻撃すべきじゃない?私には、どうしてまず初めに京都の中学生たちが被害の標的にされなければならなかったのかがよく分からない」


瑠衣もそれには同感だと頷いた。


「そうなんだ。そこがこの事件の難題なんだよ。僕は、この犯人はおそらく日本人で洛仙中学校に以前まで通っていた生徒の仕業なんじゃないかと見てるんだ。」


少々理解には苦しむが、理屈としては瑠衣の意見が通っていた。仮に生徒でなかったとしても先生が虐殺案を考えた可能性も大いにありえる。ただ何故その時は既に学校にはいなかったと断定できるのだろうか。


「でも、どうして生徒だって言い切れるの?先生がやったかもよ?それに、どうしてもう学校にはいなかった人って思ったの?」


私はどうしても瑠衣の決めつけるような口調に違和感を感じてしまった。


「それは、殺し方を見ればわかるよ。先生ならおそらく完全に全員皆殺しにするんじゃないかな?誰かに操作してるところ見られちゃったら大変でしょ?先生は多くの生徒たちには顔が割れちゃってるしね。バレたら元も子もない。それにもし現役でそこで働いていた場合、逃げることができなくなる。だって、働いている職員の死体も行方も不明だったら警察が真っ先に目をつけられる。だからと言って辞めた後に学校の敷地内に勝手に入れば不審者扱いされ、余計に悪目立ちしてしまう。だからそうやたらめったらそんな事出来ないんだよ教師わ。でもやめた生徒なら、1つの学年もしくは1クラス分の人数プラス授業を受け持った教師くらいにしか素性がばれない。そもそも見られなければ済む話。中学生の華奢な体なら学校中の至るところに身を潜めることはいくらでも可能だろ?それにまだことの重大さに気付けない中学生なら要らない奴だけ消せばいい。そう考えてもおかしくないだろ?かなり深刻ないじめを受けてたりなんかしてみろ。周りなんて見えなくなっちゃうぜ。まぁ、だから生徒と断定したんだよ。」


そう言い切ると瑠衣は『どーだ!すごいだろ!』と言わんばかりに鼻をツンと高くした。なんとなくそれなら理解できなくもないし、おそらく犯人は中学生で間違いはないだろう。だが、そんなプログラミングをたかが中学生が組めるのだろうか?正直私にもそんなのは無理だ(そもそもあまりPCは使わないのでそういうのはよく分からないのだが)。万一、本当にそんなプログラミングを組める中学生がいるのであればその子はエジソンの生まれ変わりか何かだろう。もしくは、お金持ちの家の子供が親の高額なお金を使って悪の組織的な集団と闇取引きしていれば考えられなくもない。一応この件に関しては納得がいったということにしておこうと思う。


「まぁ、納得はできなくもないけど…それで、この事件から他にわかったことは…?」


すると瑠衣はそうだったとやっと本題を話し始めた。


「ここまでの推測で、日本人の中学生が犯人と絞れただろ?そして最初の被害は実は日本だったことが分かった。そして最終地点もここ、日本だったんだ。ならば世界を救うヒントが隠されてるとしたら、まさにここ、日本なんじゃないかな!」


とどのつまり、犯人は故郷である日本に自分の全てを託したというわけだ。だが一体どこを探せばいいのやら。この47の都道府県内全てにその可能性があるということなのだ。一つの県を回るだけでも苦労を費やすのにイーターのうろつく国中を全て回るとなると非常に厳しい。確実にここにあると断定できる場所に狙いを定め、慎重に動かなければならない。


「でも、一体どこをどうやって…」


すると、瑠衣はニヤリと口角を上げ『思い当たる場所があるんだ』と言って、一枚の紙を見せてきた。それは以前瑠衣が先ほどの記事を読んで京都に訪れた時に洛仙中学校の校舎内に落ちていたものだったらしい。手のひらサイズの小さな紙には


『ここから遥か遠く 東の都の政治収め給ふ所より この世の溝ありけること間違いなかれ』


と古典用語で綴られていた。その文章を読んだ私は紙から目を離し、今度は瑠衣の顔を見た。


「明朱楽、この意味はわかった?」


私は首をかしげ、ゆっくり推測をまとめながら話し始めた。


「溝っていうのがあんまよく分かんないけど…この、東の都っていうのは、東京の事なんじゃないかな…?って思うんだけど…どうかな?」


瑠衣はうんうんと頷き同意を示してくれた。


「つまり東京のどこかに新たなヒントが隠されてるってこと!それに政治を収める場所だよ?東京で政治って言ったら、国会議事堂でしょ!」


その解答に納得した私は早速その場に行ってみようと提案した。


ー東京・赤坂ー


歩き始めてどのくらいの時間が経過しただろう。あれから私達は目的地を捜し、この荒地の中を途方も無く彷徨い続けていた。


「国会議事堂…って、確かこっちだったと思うんだけど…」


「誰か人でもいればいいんだけどね…」


こんな時に人が居てくれればなんて心強いだろう。だが周りを見る限り半径1m以内で小型シュヘルツ・ドラゴン・イグアナ(小型シュヘルツ・ドラゴン・イグアナ:パッと見イグアナの様に見えるが、ドラゴンの様な凛とした鬣、鋭い爪、勇猛果敢な瞳に広大な翼を持っている異次元生物の中の一種。危険性は卵を盗もうとしなければほぼ0%に等しい。見た目によらず温厚な性格)が子育ての真っ最中だという事以外情報が入って来ない。すると100m程先に人影らしき姿を目に捕らえた。まさかあれは、人なのだろうか?そんなに遠くはない。確かめる勝ちはあるだろう。



「ねぇ、あれって、人…だよね?」


私は人影の見える方向に指を差し瑠衣にそれを見るように促す。


「行ってみようよ!もしかしたら知ってるかもしれないよ!」


だが瑠衣は苦虫を噛んだような顔をして見せた。どうやら警戒しているようだ。無理もない。今やこの世界の8割型はイーターの巣窟なのだ。死の危険を犯してまでその希望に賭けるのは到底難しい。


「あいつが人かどうかは分からないぞ…」


断固として動くつもりがないらしい。困ったものだ。

瑠衣は普段おちゃらけているが真面目な面も持ち合わせていて、時より殺伐としたリーダー感を醸し出す。その為無駄に頑固なのだ。それを解き解くのは至難の技だ。だがここで一歩引くわけにはいかない。押しは緩い。ここで私が一か八かの勝負に出れば何とかなるかもしれない…。


「けど…行ってみないと、分からないよ?」


すると瑠衣は悩んでいる様子を見せ始めた。「ん〜っ…」と呻き声を上げながら何やら真剣に考えている。それからしばらくして瑠衣は小さく溜息を吐き「わかった…行こう…」と無愛想に呟くと、さっさと自ら人影に向って歩み始めた。


それから1分程その物体を目指して歩いていると、フードを被った男性らしき人物が現れた。片手にはイーターのものと思われる大量の血液がこびりついた剣、腰には綺麗な柄が施された鞘がささっていた。


「あ、あの…」


私は恐る恐る声をかけると、彼はこちらにゆっくりと振り向き深々と被ったフードの奥から鋭い目をギラリと光らせた。ただならぬ殺気に背筋が凍るような感覚に捉われる。


「こ、国会議事堂って…どこですか?」


急に変わった周りの空気に固唾を呑み彼からの応答を待つ。しばらくするとゆっくりと口を開き、感情の無い淡々とした口調で述べた。


「…そこ、角右に曲がれ」


「え、あ、はい。ありがとうございます。」


私達は彼に礼を告げ、急ぎ足で角を右に曲がるとそこには言われた通り国会議事堂の大きな建物が凛として建っていた。


ー完ー









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