第八話「日本防衛隊富士支部」
少佐の故郷はイギリスですが、艦隊名はドイツです。
つまりはヨーロッパ大好きと言うわけです。
ちなみに軍曹の故郷はベルギーです。チョコレート大好き設定です。
解呪の羽。
かつて黒の七因子が一つである”黒炎”が使用していた基本武装の一つ。非常に攻撃性が高く、また移動手段にも適していたため、オーストラリアが”黒炎”の捕獲に成功すると各国がそれを手に入れようと躍起になっていたが、生身の人間が使用すると暴走のリスクが高く、また分解も出来なかったため、オーストラリアは当時どこよりも因子の研究が進んでいた白神一族に解析を依頼していたらしい。しかしその白神ですら解呪の羽の解析は難航し、現在までに実用化された武器は三種類しかない。
「一番有名なのは少佐が以前使用していた音世界ですね」
ここまで軍曹による解呪の羽の解説に私の名前が出てきていないのは、恐らく上層部の完璧な情報規制、情報操作の賜物だろう。
「ただ、今現在でも残り二つの武器に関する情報はほとんど開示されていません。私の独自調査では一つが後方支援型の銃火器。もう一つは万能兵装というところまでしか調べることが出来ませんでした」
軍曹は終始資料に視線を落とし、淡々と説明する。
少佐は、私とミレミアを見つめたまま動かない。
一体私達の何を見ようとしているのだろうか。
「見方を変えれば、そういった武器が実際に存在するということであり、その武器の存在自体は秘匿する必要がないということです。何が言いたいか分かりますか?」
軍曹は私達と目を合わすことなく訊いてくる。
もしかして、気付いているのだろうか?
「武器自体の存在は秘匿していないのにも関わらず、情報規制がかけられているということは使用者、もしくは所有部隊そのものを秘匿しているということです」
「でも、どうして?」
「さぁ。それは私にも分かりません」
軍曹はミレミアの問いに肩を竦める仕草をして答える。
「ただ言える事は、その使用者、または所有部隊は秘匿されるべき情報だと、誰かが思っているから秘匿されているという事ですかね」
そう言って軍曹は再び私の資料を見つめる。
もしかしたら本当に軍曹は気付いているのかも知れない。
何故なら、もう一つの可能性をあえて言わなかった。それが意味するのは、その可能性に確信を抱いているからだ。今回私達を呼んだのは作戦参加命令と同時に、その他の可能性を確実に潰すためだろう。
ため息を一つつく。
「作戦内容および回収物品については理解しました。参加にも異論はありません」
「私も、中将直々のご推薦とあらば異論はないです」
私とミレミアの同意を受け、少佐は満足そうにうなずく。
「よし。両名の承認も得たところで、日程などの確認に移ろうか」
少佐の表情はいつものやる気のないものに戻っていた。
私はそんな表情に安堵し、また一つため息をもらす。
~数日後~
私とミレミアは輸送ヘリに乗り、日本国本土にある関東コロニーへと向かっていた。
「みんなより一足先に関東コロニーに到着ですね。ティデリア」
関東コロニーを上空から眺め、いつもより少しだけ嬉しそうに話すミレミア。どうして嬉しそうかは大体想像つくが。
「遊びに来たわけじゃないんだから、まっすぐ基地へ向かいますよ」
この関東コロニーは観光名所が多くて遊びたい気持ちは分からなくもないが、今はそれどころではない。
「えー。少しぐらいいいじゃないですか」
「だめです。ただでさえ私達は遅れて合流するんですから、そんな時間ありません」
「でもー」
私はなおも食い下がってくるミレミアに対して私は人差し指を突きつける。
「今度だだをこねたら打ち抜くぞ」
その指先を見ながらミレミアは両手を挙げて降参を示す。
「分かればいい」
私は腕を組み、窓の外を眺める。
コロニーを囲うように流れる一級河川「絶川」と、等間隔に建てられた塔が印象的な関東コロニーは、その立地と強固な守りによって世界で数少ない安全地帯として有名だ。
「もうすぐ日本防衛隊富士支部だ。緩めたネクタイ直しておけよ」
ミレミアにそう言うと、私も今一度自分の身なりを整える。
無事ヘリが着地すると、ヘリポート脇の事務室から数人の男性隊員が現れた。意外にも歓迎されていたらしい。
私がヘリから降り、向かってくる男性隊員に向き直る。
「はじめまして。ようこそ日本防衛隊富士支部へ。私が今回の作戦指揮を執りますアサラ大尉です」
服を着ていても分かるほど隆起した筋肉とすさまじい眼光。”撃滅拳”の通り名は伊達ではないな。
握手を求められたので、私はそれに応じて相手の手を握る。
「はじめまして。第五独立遊撃部隊第一攻撃隊所属のティデリア一等兵です」
「同じく第一攻撃隊所属、ミレミア一等兵です。よろしくお願いします」
ミレミアは敬礼をしながら丁寧に挨拶をする。
「1900時に作戦会議を開きます。それまでは自由行動としますが、支部の施設内は複雑な構造なので案内役を付けます。市街地へ行きたい場合は空挺をお出ししますので、遠慮なくお申し付けください。と言ってもあまり観て回る時間はないですが」
今まで大尉の後ろにいて見えなかった女性隊員(恐らく大尉の世話役)が今後の日程を事務的な口調で話し始める。
「作戦会議後は準備のための時間ですので、自由行動は控えてください」
「では、私は早速市街地へと向かいたいのですが」
ミレミアは目を輝かせながら手を挙げる。そんなに遊びたかったのか。
「分かりました。すぐに空挺と案内役を手配します。ティデリア一等兵はどうしますか?」
女性隊員は手配の準備のため、手に持った液晶パネルを操作しながら訊いてくる。
私は、どうしようか。
ミレミアと一緒に市街地へ行ってもいいが、これから暫くの間富士支部に留まることになると思うので、早いうちに施設内部を把握しておきたい。
「私は富士支部を見て回りたいと思います」
「了解しました。では支部の案内は私がいたしましょう」
液晶パネルの操作を終えた女性隊員は、ミレミアに向き直り「ここで少しお待ちください。すぐに空挺と案内役が到着しますので」と言い、私に再び視線を戻す。
「さぁ、行きましょう。まずはあなた達が泊まる部屋から案内しますね」
「はい。それじゃミレミア、また後で。くれぐれも失礼や迷惑かけないようにするんだよ」
「大丈夫、分かってるってそのくらい。お土産買ってくるね!」
本当に分かってるか心配だな。
まぁ、あれはあれで要領がいいというか、最低限の礼儀だけはしっかりしてるから、初日から目を付けられるようなことはしないだろう。私も心配癖がついてしまったらしい。
「一つだけ、忠告しておきます」
女性隊員は施設の正面扉で止まると、肩越しにこちらを見る。
この人、最初から思ってたけど無表情で怖いな。
「この施設内で私とはぐれたら、それは死と同義なので、絶対にはぐれないでください」
それから部屋に着くまで私は背後霊のようについていくことになった。
次回、次々回辺りから視点変更が激しくなりそうな予感。
と言うのも、次回からまた戦闘が続くのです。
いやはや、本当に戦闘シーンとか苦手なのにどうしてこの小説を書こうと思ったのか。私の中の七不思議の一つになりそうです。




