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フリージア  作者: 和菓子屋枯葉
『天城計画』
22/46

第六話『終幕、そして幕開け』


またまた遅くなりました。

ごめんなさい。

今回少しだけ長いです。




 ””2””


 通路の天井から落ちてくる瓦礫を避けながら、音世界サブソニックの最高速度で最奥を目指す。

「うおっとぉ!」

 突然正面から無数の刃が飛んでくる。それを間一髪かわすと、私は速度を緩めて”それ”と対峙する。

「あらあらあら、こんなところで奇遇ですね。殺鬼さん」

 私はおどけたように語りかける。

 相手はそれに乗らず、ただ淡々と用件だけを述べる。

「私の最後の役目は、あなたをここで足止めすることです」

「あなたが? 私を足止め? そんなことできるのでしょうかねぇ」

「できるかできないかで言えば、出来ないと思います。今はだいぶ消費してしまってますから」

「そう。万全の状態であれば、正直私が劣勢ですが、確かに今のあなたにだったら私も勝てますよね」

 私が武器を展開すると、再び左目に激痛が走る。

「どうやら、あなたも”そちら”側に片足を突っ込んでしまったらしいですね」

 哀れむような目で私を見つめる殺鬼は、ゆっくりと居合いの構えを取る。

「まぁ、冥土の土産として、私がそれを持っていってあげますよ」

 左側の視界だけやけにクリアになり、目に映る全てが速度を失ったように止まって見える。

 そして、殺鬼の”核”となる部分も、捉える。

「あなた……本当は」

「それ以上は、言わないで結構です」

 殺鬼に止められずとも、その”核”を見てしまった私は、それ以上言葉にすることを躊躇った。

 それは、とても――

「私のことは、私が一番理解しているつもりです。だから、これ以上は何も望みません」

 殺鬼はとても、とても優しく柔らかな笑顔で私を見る。


「たとえ、それが世界を滅ぼそうとも」








 ””1””


 それは、きっと夢のような毎日だったのだと思う。

 壊れてしまった僕が、汚れきっていたこの僕が、まるで普通の人間のように平穏な日々を過ごしていたことは。

 殺人が日常となって、毎日誰かの希望や、願望や、嘱望を奪い、ただ言われるがまま実行していた僕が、自分の手で、自分の言葉で誰かを救い、何かを作り、皆に愛されていたことは。

 それでも。

 いやだからこそ、僕はその”少女”が残した願いを成就させてあげたいのかもしれない。

 自分が叶えることができなかったから。

 せめて、その願いだけは、叶えてあげたい。


「君はずっと変わらないね。本当に、何も変わらない」


 少女は語りかけてくる。

「いつもそうやって人のことばかり気にして。どこまでも自分のことは二の次三の次。君はどこまでも理想を曲げず、誰よりも理想に生きて。姿が、時代が、世界が変わったとしても、君だけは、君が掲げる理想だけは何一つ変わりはしないね」

 微笑みかけてくる少女のその表情は、僕には悲しく映った。

「それに比べれば私は、あのときからだいぶ変わってしまった。理想を追い求めることを止めて、君とは別々の道を歩んだ」

「だから、だから君は」

「そう。だから私は、あなたとは決して相容れるわけにはいかないの。私が歩んだこの道が、私が抱いたこの理想が、決して間違いではないと思えるように」

「別に、僕は君の理想が間違っているとは思っていない。もちろん僕の中にある”少女”の意思も僕と同じだ。ただ、君と僕の理想は決定的なところが違う」

「……」

「君は妥協したんだ。この程度でいいだろうと、諦めてしまったんだ。だから、君を斃して僕は僕の願う理想を叶える。ただそれだけだ」

「そうだね。そうだった。こんなこと、語り合ったってもう遅いのにね。でも、私はどうしても最後にもう一度伝えておきたかったんだ。それじゃ」

「そうだね」

 僕が巨大な鉄の塊のような太剣を発現させると、対峙する少女も真紅に染まった二又の槍を発現させる。


「殺しあおう!!」





 ””3””


「準備が全て整いました、白霧様」

 黒いパンツスーツに身を包み、長い髪を一つに束ねた”黒鉄”は、二つの巨大なモニターをじっと見つめる白霧に頭を下げながら言う。

 白霧は”黒鉄”を一瞥して「そうか、では早速始めよう」と奥の部屋に歩を進める。

「フリージアは、どうしますか?」

 という”黒鉄”の言葉に、白霧はモニターを見ながら「始めてしまえば自然と行動に移るだろう。今は遊ばせておいていい」と言って、奥の部屋へと入っていく。

「それでは、私が持つ全能力をもって、今の停滞した世界を作り変えてみせましょう」

 ”黒鉄”はほくそ笑む。そんな”黒鉄”の言葉に白霧は「頼んだぞ”黒鉄”。いや、エーレンブライトシュタイン」と、姿は見せずに語りかけてくる。

「その名前で呼ばれるのは、随分と久しいですね」

「そうだな。だが、これからはまたそう呼ばれるのだぞ」

「そうですね。そう思うとなんだか少しだけ嬉しいです」

 ”黒鉄”改めエーレンブライトシュタインは再び頭を下げてから白霧とは反対の部屋へと向かって歩いていく。

「あぁ、白霧様。最後に一つだけ」

 エーレンブライトシュタインは白霧が入っていった部屋に向かって言葉を投げる。しかし反応はない。

 それでもエーレンブライトシュタインは続ける。

 ありったけの、想いを込めて。


「愛していましたよ、ずっと」





 ””2””


「そろそろ体力も、その武器も限界じゃないですかね」

 私は音世界サブソニックで加速しながら殺鬼の周りを飛び回る。辺り一面に私の武器である因子を繋ぎ合わせた物体が展開されていて、殺鬼を囲むように並んでいる。私はそれを手にとっては殺鬼に攻撃、すかさずリリースして再び加速、そしてまた武器を手にとり攻撃という動作を繰り返す。

 最初は反応できていた殺鬼だったが、徐々に加速していく私と攻撃についてくることができなかったらしく、一つ、またひとつと切り傷を増やしていく。

「何を言ってるんですか。一突き、たった一突きであなたとの戦いは終わるんですから、真っ二つに割れたこの刀でも十分です」

 殺鬼は目を閉じ、反撃のその一瞬をうかがっているようだった。

「無理ですよ。あなたは私に触れることさえできずに死んでいくんですから!」

 私は両手に武器を持ち、殺鬼の真上から最後の一撃を仕掛ける。

 しかし、攻撃が当たるその瞬間、地面が、さらには空間自体が揺れて私の攻撃は殺鬼から逸れてしまう。

「やっと準備が整ったみたいだね」

 殺鬼は口元だけで笑みを作ると、目を閉じたまま私に突きを繰り出す。

「そんな攻撃、食らうわけ――」

 体勢を整えようと地面を強く踏み込もうとするが、地面自体が陥没し、体勢を再び崩す。

 左目には段々と迫ってくる殺鬼の攻撃を捉えている。

 避けないと。そう思い私は上体を反らそうとするが、判断が遅かったのか、それとも殺鬼の捨て身の一撃が予想以上に強力だったのか、無常にも私の左目を抉る。

「くそがぁ!」

 私は体勢を崩しながらも右手に持った刃で殺鬼の首元を突き刺す。

「これで、私の役割は、おわり」

 私はそのまま刃を上に振り上げ殺鬼の頭部を両断する。

「そうだね。これで終りだ」

 私は返り血を浴びながら、完全に崩れ落ちた天井からの夕日と、空に浮かび上がろうとする”何か”を見る。

「あれは、なんですかねぇ。お城みたいですが」

 私は自由落下しながらも、どこか冷静だった。

 そして私は空を眺めることをやめ、落ちていく先を見つめる。

「そしてこれはどこまで続くんでしょうか」

 崩れ行く地面と一緒に私は、暗くどこまでも続きそうな暗闇に落ちていく。






 ””1””


 僕は止まることなく刀を振り続け、それに呼応するかのように少女も槍を突き出してくる。あたりに響くのは金属がこすれる音と、僕たちの息遣いだけだった。

「不毛だね」

「不毛です」

 僕が刀を振ることを止めると、同時に少女も槍を地面に突き刺して攻撃を止める。

「白神白霧は、もう目的を達成したんだろ」

「はい」

「そして、僕の姉の体を利用して、フリージアの意識を蘇生させた」

「少し違うね。君の姉自体が、フリージアという概念意識の受け皿という役割を担っていただけさ。そして、今回は君をこの地に誘うためと言うのが表の理由で、裏の理由は復活しそうなフリージアの意識を定着させる役割のために、君の姉を誘拐したのさ」

「僕の姉は、もう死んだのか?」

「いや、まだ生きているよ。私の内側で確実に生きている」

「そうか。なら君という意識を殺せば、僕の姉は戻ってくるんだね」

「そうなるね。けれど、今の君にはその術がない」

 僕は再び刀を構える。

「それは、君を殺してから考えるよ」

 一歩。前へ踏み出した瞬間、突然地面が揺れ、少女との間に大きな壁が生まれる。何が起こったか理解ができずに、とりあえず上を見る。

「ごめんね。もう時間みたいだ。私、行かなくちゃ」

「待て!!」

 僕は壁を駆け上がる。

 今あの少女に逃げられるわけにはいかない。

「大丈夫。またすぐ会えるよ」

 少女。いやフリージアは満面の笑みを僕に向けると、島の崩壊で開いた天井の穴から一気に空へと飛び上がる。そしてフリージアは、真っ赤な夕日に溶けて見えなくなる。

 少し遅れて僕もその穴から島の上部へと飛び出す。

「まさか」

 僕は目の前の光景を見て、驚愕する。

 そこには、もうすでに島としての原型を留めていない島と、その上空に浮かぶ巨大な城があった。

「これが、”天城”」

 大昔に人類を絶滅の危機に追いやった幻の城。エーレンブライトシュタイン天城。それが今、自分の目の前に浮かんでいる。

「これが、お前の目的か白神!!」

 僕はその天城にいるであろう白神白霧に向かい声を張り上げるが、しかしそれが届くはずもなく虚しくも風にかき消されてしまう。

「白神! 今からお前の首を狩ってやる!!」

 なおも叫び、そして全能力を開放しながら天城へと突撃する。





 ””4””


 この日、エーレンブライトシュタイン天城が姿を現した後、世界各地で無数の天城が生まれ、同時に因子が人間に対し攻撃を開始、遅れて人類側も応戦するが、黒の七因子全てが活動を開始。虚しくも人類側はそれに対抗する手段を持たず、防戦を強いられる。

 そして、天城浮上の二十時間後。地球の約四分の三は因子の支配下に置かれ、世界人口の三分の二が消滅、または因子側につく結果となった。


 それから、二年後。

 私たち人類は因子の侵攻を何とか止めつつ、反撃の機会を窺っていた。

 私も、失った左目の代わりとなる義眼の開発を待ちながら、古巣である英国陸軍で因子殲滅に務めつつ、ある人物を探していた。

「ごちそうさまでした。っと」

 手を合わせ、席を立つ。私が食べ終わったカレーのお皿を返却カウンターに置いて、食堂を出ると、そこには統一された軍服に身を包む四人の私の部下が立っていた。

「遅いですよ少佐」

「全く、一人で何人前食べる気ですかあなたは」

「まぁまぁいいじゃないか。別に」

「そうですよ。少佐は、満腹じゃないとすぐ寝ちゃうんですから、ちゃんと食べてくれないと困ります」

 小言を言いながらも、ちゃんと私を待っていたらしい。全く、可愛らしい部下たちだ。

「ごめんごめん。お待たせしちゃったらしいですね」

 私は頭をかきながら笑顔で皆に謝る。

 あの日、私は何もかもを失った。

 左目もそうだが、私が好きだったあの人たちも、あの日以来姿を見ていないし、噂も聞かない。

 ただ、一人を除いては。

 私は、もう一度あの人に会うまでは、死ねないし、退けない。

 だから、今日もまた、因子との戦闘へと赴くのだ。

 全ては、たった一つの願いのために。


「さて、皆さん。今日も真面目にお仕事しますよ」



今回で今の章が終わって、次から新しい章に変わります。

主人公も変わり、世界観も少し変わります。

そしてここからが本来僕が書きたかった作品なのです!

でもどうしても今までのお話を先に書きたかったので、予定より長くはなってしまいましたが、書かせていただきました。

次回からも楽しんで読んでいただければと思います。


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