「絶視」後編
「で、具体的なプランは決まってるのかい」
私は激痛で意識が朦朧としながらも、必死に平静を装いながら話す。
「ない」
「……は?」
私はそのまま倒れてしまいそうになった。
こいつ、ノープランでどうするつもりだったんだ。
「けれど、あれを斃すには何が必要かは分かってるつもりだ」
「……なにが必要なんだ?」
「あんたと、その武器だよ」
御崎は私の持つ武器を見て言う。
「基本的に因子は他の因子を襲うことをしない。というか出来ないんだ」
「これが、埋め込まれているからか?」
「そうだ。これが体内に存在する限り、因子が因子を攻撃することは不可能なんだ」
「だが、黒葉は実際に他の因子を吸収しているけれど、どうして?」
「黒葉が吸収してる因子は、既に骨がなくなってしまった因子のみだ」
この骨が、どれだけの価値があるのか分からないけれど、因子にとっては自らの存在よりも大事なものなのかもしれない。
突然自分が持っているこの武器が、得体の知れない気味の悪いものに見えてきた。
私の持つこの武器は、一体何なんだ。
「まぁ、今はそんなことどうでもいい」
御崎はつまらなそうにそう言うと、頭を抱えるような姿勢になる。
「もうあまり時間がない。さっきはノープランと言ったけれど、実はひとつだけあいつを斃すための策があるんだ」
めまいがひどく、景色が二重に見えた。私は声が出せず返事が出来なかったので、うなずいて先を促す。
「黒葉の核となっている因子がどこにあるかはもう分かってる。そこを攻撃すれば一撃で仕留めることが出来る」
そろそろやばい。こうして立っているのもしんどい。
ああ、早くお休みが欲しいです。
「いいか、――葉の核因子は――にある。そこを一突きすればあいつは――せる。――ったか」
途切れ途切れに聞こえる御崎の声。それはところどころノイズが入ったかのように聞き取れず、脳にうるさく響くだけだった。
「じゃあ、頼んだぞ!」
御崎は黒葉に向かって勢いよく走り出す。
黒葉にかかっていた幻覚も、もう効果が切れたのかこちらを向いている。
壁や天井、床がひっきりなしに破壊され、戦闘の激しさが窺える。
私は血の止まらない左目を押さえながら、武器を構える。
視界が塞がれた左半身を後ろにして、右半身を前にする。武器の先端が地に着くぎりぎりのところで止める。
「御崎が最後に何言ったか分からなかったですけど」
右目にしっかりと黒葉を見据え、叫ぶ。
「とりあえず、ぶった切ればいいんですよね!」
足に装着しておいた”音世界”で加速し、黒葉の足元を両断する。
黒葉の上体が傾く。上部で戦っていた御崎が驚いた様子で私を見ていた。止まらず、反対の足を斬り崩すために武器を構え直す。それを見て黒葉は翼で防御体制を取り、同時にもう一つの翼で私に反撃の準備をしている。
尋常ではない殺気が、私に向けられている。
この間は感じなかった圧倒的なオーラ。永遠に続く闇を連想させる黒葉の姿に私は押しつぶされそうになる。
私が再び”音世界”で加速するのと同時に、黒葉は翼から楕円形の卵のような物体を吐き出す。私が斬った翼や片足も楕円形に変化し、やがて一つの形が出来上がる。
「あれは……私ですかね?」
色が黒一色で分かりづらいけれど、確かにそれは私だった。
「全く嫌な趣味してますねー、この血筋は。けどいい機会です。私なんて人間」
私は薄ら笑みを浮かべて無数に生まれた私を見る。
左目が一層激しく痛むが、気にしない。私は両目を見開く。
「殺して殺して殺し尽くしてやりますね!」
左側の視界は何も見えないはずなのに、何か奇妙な世界が見えていた。気持ち悪いと言うか、おどろおどろしてるというか。
向かってくる私を斬り殺し、両断し、叩き潰す。
相手の行動が手に取るように分かる。左目に映る世界は、時間が止まったかのように遅く、どこを斬れば一撃で仕留められるかが分かる。
最小限の動きで相手の攻撃をかわし、最小限の動きで不可避の一撃を放つ。踊るようにかわし、舞うように殺す私は、きっと今までにないくらい輝いている気がする。
「あなた……まさか私の目を盗んだの?」
両手を顔から離し、こちらを見る黒葉。
その顔には、本来そこにあるはずのものがなかった。
「片目がね、どこかいっちゃったの。あなたが盗ったんでしょ?」
両目がなくなった黒葉が、左手を伸ばしながら私に問いかける。
「あんたには、世界がこんな風に見えてたんだね。羨ましい」
右目を隠し、左目だけで黒葉を見る。そこにははっきりと黒葉の核となる因子が映し出される。
「でーもー、これはもう私のものですからー、返してあげませんよ!」
音速で移動し、核因子を断ち切る。
これで終り、と思った瞬間左半身に衝撃が走る。勢いよく吹き飛ばされ、壁に体を打ちつける。どうやら翼で叩き潰されそうになったらしい。全身が軋みをあげるが、構わず立ち上がる。
「どうしてですか? なんで死なないんです」
確実に核因子を斬った感触があった。けれど、黒葉は活動を続けている。どうして。
私は左目でもう一度黒葉を見る。
「……ああ、そういうことですか」
私はそれを見て納得する。
黒葉には、核となる因子が複数個存在した。
「とんだチートですね。化物の分際で。でもだったら、全ての核因子を破壊してあげますよ」
私は三度加速する。
普段であれば”音世界”は単発で使用する装置だ。短時間に何回も使用すると体がついて来れなくて、骨折やら内臓破裂などが起こる。私も既に内臓があちこち壊れてきている。
けれど今度は、全ての核因子を破壊するまで止まるつもりはない。
さらに加速する。
「あ、あああ、ああああああああああああああああ!!!」
黒葉は高速で体を切り刻まれ、苦悶の声を上げる。
もう少し。あと少し。
私は左目を見開き、最後の核因子を捉える。
「これで本当に終りです!!」
加速する視界の中でも、私は確かにそれを斬る瞬間が見えた。
転がりながら壁にぶつかり停止する。その少し後で、隣に御崎が転がってくる。
「陽動ありがとうございますね。おかげで攻撃にできました」
私は御崎にお礼を言う。
御崎が黒葉の注意をそらしていなかったら、今頃私は粉々になっていたと思う。
「ああ、でも、ちょっとだけ、無茶したかな」
見ると御崎の右腕が、綺麗さっぱりなくなっていた。
「大丈夫だぞ、心配しなくても。これは自分で、切ったから、血は全然、でてないし」
「そういう問題なんですかねー」
私も内臓がいくつか壊れているけれど、それでも腕が無くなるよりかは大分ましだろう。
「それで、黒葉、は?」
御崎は黒葉がいた方向を見て言う。
核因子は全て破壊した。黒葉はもう消滅しているはずだ。確認する必要もないだろうけれど、それでも相手はあの黒葉、黒に連なる因子だ。確認してしすぎということもないはず。
私がふらふらになりながら立ち上がり、確認に行こうとすると、地面が揺れていることに気付く。
「地震?」
その揺れは次第に大きくなり、壁や天井に亀裂が入る。さっきまでの戦闘で既に崩落が近いこの空間から早く出ないと、瓦礫の下敷きになって死ぬなんて御免だ。
「黒葉の生死を確認してる暇は無さそうですね。さっさと漆君を追いかけましょう」
そう言って御崎の方へ振り向くと、御崎はその場でしゃがみこんでいた。
「どうしたんですか? 早く行かないとここはもうやばいですよ」
私の問いかけに、御崎は反応しない。
一歩一歩、少しずつ近づく。
よく見れば、右腕だけでなく右半身がほとんどなくなっている。それでもまだ微かに意識が残っているようで、ぼそぼそと何か呟いていた。
「流石に、ちょっと疲れたな。ここで少し休んでから、俺も追いかけるから、先に行って、漆と合流しといてくれ」
「でも、ここは……」
もうすぐ崩壊する。
私も人を背負うほどの体力は残っていない。でも、ここに御崎を残していけば、確実に崩壊に巻き込まれてしまう。どうしたらいいのか、私は判断に迷う。
「いいから、さっさと行けよ!! もう時間がないんだよ!」
吐血しながら叫ぶ御崎。
「う、うん。分かった」
私はそれに気圧される形で暗い通路を走り、漆が待っているはずの最奥の部屋へと向かう。
「これで、邪魔する奴はいなくなったな。黒葉」
俺はそう呟くと、反対側から何かが動き出す気配があった。
「まさか人間ごときにここまでやられるとはおもってませんでした。正直おどろいてます」
最初の小さな女の子の姿に戻った黒葉は、所々欠けた体を見ている。どうやらもう再生する力も残っていないらしい。
「例え俺が死んでも、ここでお前を斃すのが、俺の役目だ」
俺はほとんど原型を留めてない槍を杖にして、立ち上がる。
「さぁ、最後の殺し合いを始めようか」
今回相当遅れて申し訳ございません。
もうすぐ終わるかと思ったんですけど、まだまだ続きそうです。




