ゲームの世界
土の匂いが鼻を掠め、木で出来ている門を潜る。
高い位置から見たら小さい村に見えたが、意外と人は居て、店も少しあった。
「まずは、金を稼がないといけないんだよな。」
俺の今の持ち金は0(ゼロ)だ。
このゲームは人生ゲームと違って3000リンもくれないらしい。
まぁ、ゲームの世界に慣れるには丁度良い気もするが。
俺はすぐ近くにあった、酒場へと入って行った。
「失礼します。俺を雇ってくれませんか?」
「生憎、人は足りてるんでね。」
この酒場だろう店主が皿を拭きながら、俺の顔を見ずに手を振られ、肩を落としながら酒場から出た。
なんてことだ。金を稼がないと、この世界でやって行けれない。
何か良い手はないのか…。と、腕を組みながら悩み歩いていると、ゴツイ男が俺の肩に当たって、そのままどこかに行ってしまった。
あれ?こういう場合は『にいちゃん何を余所見してやがるんだよ、お陰で腕が折れちまったぜ。どうしてくれるんだ?あ?』と、持っている荷物を全て取られたり、殴られたりする物ではないのだろうか。
何だかあっけらかんとした結末に、残念な思いを残しつつ、腰に差していた剣に手を添える…。
ん?…あれ?あれれ?
「ない!」
あんの、ゴツゴツ野郎…人が悩んでいることを良いことに、真っ正面からのイベントをスルーしてスリを働きやがっただと!?
黙ってられないな!
俺は先程ぶつかったゴツゴツ野郎を追い掛けるべく、走り出した。
だがしかーし、金持ちの家で大人しく勉強しかして来なかった俺にとって、スリをやらかすどう見ても鍛えてあるゴツゴツ野郎に追いつくことは出来なかった。
まだ走り続けているなら自分に甘い俺は、自分を許すかもしれない。
しかし、既に追うことをやめ、息をするのがキツく感じゆっくりと歩くことしか出来てない自分には、さすがの俺も鉄拳をお見舞いした。
こうして、俺のゲーム生活はプラマイゼロからマイナスからのスタートとなった。
「マジでどうすればいいんだ?」
俺はそのまま村を歩き回り、村の中心にある噴水に腰を掛ける。
うーん。ここでゴツゴツ野郎の低い悲鳴が聞こえて、美女のプレイヤーでも現れないかな…。
ないな。
俺の淡い期待はすぐに消え、加えて噴水の水がぶっかかると言う悲惨な姿になった。
それを見て黙ってられなかったのか、おじちゃんが歩み寄って来る。
「大丈夫かい?とりあえずこれで拭きな。」
おじちゃんは俺にタオルを渡すとびちょびちょになった俺の服に手をかけた。
「乾け」
おじちゃんが目を瞑って発した言葉の通りに風が俺の体を纏う。
「すごい…」
瞬く間に服は乾き、俺は感嘆の声を漏らした。