第五話 "Das/Der Schwarze PFERD/BAER"
さーてと、忙しい、忙しい。朝っぱらから出動とは、何ともめんどくさい。
緊急出動のサイレンで椅子で寝ていたのをたたき起こされる。
「アイバー曹長に報告いたします!妖怪軍約200の小軍隊が裏通り5-43-53に現れました!」
諜報科の人員がアイバーに敵の情報を伝えている。
―出現方法は?
思わず口をはさむ。
「それが・・・よくわからないのです。」
これも異常だ。何かがおかしい。
―テレポ?それともゲーティング?
「ゲーティングの方が有力ですが、その問題のゲートが見つからないのです・・・」
普通、妖怪たちは「テレポ」してくるか「ゲーティング」してくるかの二つの選択肢で妖怪の世界(略して妖世)からこちら人類の世界に入る。
妖怪たちが、連合国に侵攻してくるときは、海をわたって日本に来るよりも、妖世を経由してくるほうがはるかに近道できて安全だ。
しかし、俺たちの器具は発達していてほぼ全ての場合テレポかゲートかを特定できる。
「ゲーティング」の場合、「妖世からこちらへ移動する器具」である「ゲート」を使用してくる。ただし、ゲートは見つけにくく、大人数で移動できないという短所がある。
「テレポ」の場合、あらかじめ「移動の儀式」を行い、大人数で移動できる移動方法である。そのナイスな移動方式のおかげで、海軍の必要性はほとんどなく、陸軍に対して小規模となっている。
「第3、第4、第5小隊、戦闘準備!相手が妖怪軍だと予想される以上、攻撃魔法の使用を許可し、殺傷も許可するわ。ただし、可能な限り殺傷は避けるように!」
アイバーが指揮を執っている。曹長は大変だなぁ。
「高橋軍曹に第4小隊の指揮権を移譲する!」
え?今、アイバーさん、なんて言いましたか?
「ちょっと待てください、ろくに戦闘指揮なんか勉強もしたことないし、やったこともないんですよ!?」
「ちょうど人手が足りないのよ!突撃だけだから、簡単でしょ!?」
俺、近接戦闘係。死亡率が高すぎる。絶対に殺す気だ。
「準備ができ次第、即刻向かえ!」
数人の部下たちと装甲車に乗って裏通りに行く。魔法戦闘とか言っときながら、小銃を携帯する。一応、目的は制圧だ。制圧。
皮肉にもオレたちが担当する作戦範囲は俺の行きつけの店がよくあるところだった。
居酒屋に立てこもっているのか?だいぶ臆病な軍だ。
車が止まる。着いたようだ。アイバーに携帯で突入許可を仰ぐ。ドアに爆弾もとり付けた。
「第4小隊、突撃準備完了。」
一応小さな声で。
「―――行きなさい。」
突入する。そして制圧する。そうやって同じことを何回も繰り返す。逐一許可を仰ぐのが面倒になるぐらいだ。発狂して自爆したやつもいた。あたりに血の臭いと腐敗臭が飛び散っている。俺も16歳だが、こういうことは覚悟の上での入隊だ。いちいち動揺していてらきりがない。
そして最後の目標に突入する。そこは俺たちが入ってきても、全く動じない。さっきまでの下っ端の雰囲気とは全く違う。高貴で、けれども泥臭くて、それでいて殺気立っている。小銃を捨て刀を右手に、AUGUSTAを左手に持つ。
まるで俺たちが空気だ。その瞬間、スキンヘッドの大男の妖怪が飛び掛ってきた。おれはひらりとかわしたが、大きな破壊音とともに後ろの壁には直径3mほどの穴が開く。やつがひるんでいる隙に、AUGUSTA LV.1のレールガンをでかい頭に突きつけた。
「同志に銃を突きつけるとわな。」
大男の口から、意味不明な言葉が飛び出した。同志?一回もこいつとあった覚えがない。どういうことだ?
「同志とはどういう意味だ?」
「そのうちわかる。高橋龍河とは、またすごいやつを見つけたな。あの方に報告しとくか。」
あの方って誰なんだよ。
相手は銃も気にせず殴りかかってくる。攻撃自体のスピードもさることながら、威力も絶大だ。しかし、足を滑れせて転倒する。まずい!やられる!その瞬間、奴の肩に三本の赤い矢が突き刺さる。
この矢は...
「どうせあんたのことだから、またなんかやらかしてるかと思って。」
その声を聞いてほっとした。
しかし、それもつかの間、いきなり、目の前の床に穴が開いた。いや、さっきの妖怪がやったんじゃない。音こそしたが、何も見えなかった。穴の横には、一方にはランス、もう一方には鎌が付いている特殊な武器を持っているサングラスに黒服の男がいた。もちろん顔はフードでかくれていて見えない。
「さーてと、ここも危なくなってきたし、逃げるか。」
声が低くもなく、高くもない黒服の男の声がする。そいつがどこかで見たことがあるような銃を俺に向けてきた。...まてよ、AUGUSTAじゃないか!口径の大きさは違うが、間違いなくAUGUSTAだ。どういうことだ?
「高橋龍河とはなぁ。懐かしいというか、いずれはこうなる運命だったのか。まあいい、とりあえず、逃げるのが先決だ。」
「お頭、こいつらを始末しなくていいんですか!?」
「まあ、いいだろ。とりあえず逃げるぞ。」
逃げられるぐらいならと思い、刀で突撃するが、足元にピンが付いた黒い筒状のピンが付いたものを落とされる。とっさに耳をふさぎ、物から背を向け口をあけて対処するが、2分間ぐらい、爆発音のおかげで行動できなかった。
敵は―――いない。
「ちっ、逃げられたか。閃光弾を使ってくるとは思わなかった。」
「いくわよ。ちょっと後で話したいことがあるから、帰還したらカフェテリアに来なさい。別に熱いだろうから着替えてからでいいわよ。」
アイバーが話したいことってなんだ?と思いつつ、カフェテリアに行く。
お互いコーヒーを頼んで向かい合って椅子に座る。先に口をあけたのはアイバーだった。
「さっきのは、おそらく妖怪軍じゃない。」
「じゃあ、誰だと?」
「国際テロ組織、黒い騎士団。」
「黒い騎士団?」
おれはアイバーに聞き返した。
「そう。国際テロ集団よ。あんまり表立って取り上げられることはないけど。」
「それとさっきのやつらがどんな関係があるんだ?」
「世界平和とかうたってるけど、実際は、ウラで密売で収益を上げて、その資金でどんどん国を占領していったりしてる。なんせ妖怪と魔法使いのエリート集団だからねぇ。こっちも討伐作戦とかしてるけど、返り討ちにあうことが多いわ。逃げられて正解だったんじゃない?あのまま戦っていたら、あんた、確実に死んでたわよ。」
じゃあ、何でそんなやつがAUGUSTAを持っていたんだ?ますますなぞが深まる。
「さっきの黒服の男はリーダーとされている通称、ブラック。戦闘力はあなたのおじいさんをはるかに超えるといわれているわ。あんたが勝てるような相手じゃないわよ。」
「じゃあ、さっきのは、妖怪だけじゃなく、いや、もしかして...妖怪軍じゃないってことか?」
「そういうことね。ゲートもテレポも見つかんない時点で大体予想はしてたけど。」
これでつじつまが合う。最初からやつらはゲートもなにも使ってなかったってことだ。
「そのブラックっていう輩は、何を使うんだ?」
「魔法よ。それも高度で危険な黒魔法。その気になれば連合軍全員相手に戦い挑めるんじゃない?」
「そんなに強いのか?第一、黒魔法ってどうやって使うんだ?」
「魔族と契約して、転生する必要がある。魔界が崩壊した時点で、もう方法はないけどね。ブラックはよりによって死神よ。この世界で一番強い種族。妖術もある程度使えるし、おまけに黒魔法のエキスパート。厄介なのは、寿命が1000年ほどあること。」
「1000年!」
オレは思わず飛び上がってしまった。
「なあに、妖怪も800年ぐらい生きるわよ。人間と魔法使いが極端に寿命が短すぎるのよね。短い命の間に思いっきり楽しまなきゃ!」
そういってアイバーはスピリタスを取り出すのであった。一瞬あきれたが、
「うけてたつぜ!どうせ勝負は見えてるけど。」
「今度は負けないわよ。」
そうしてアイバーの部屋に一緒に行くのであった。
―――こんなに呑兵衛の16歳っていいのか?