第三十二話 "レイテ沖"
「What's up?」
「Pretty well.」
しまった...英語で反応してしまった...日本では軍人のようなしゃべり方にしようと決めていたのに...
「やっぱり、あっていたみたいですね。なんで語尾に~でありますなんてつけるのぉ?」
「いや、それは、その、自分が日本男児であるからであります!」
「うそつき。Your first language is English, isn't it?」
「そうだよ。俺の第一言語は英語だ。生まれも日本じゃない。」
大人しく白状する。どうやっても見破られていそうだ。
「なんでそんなしゃべり方をするの?」
別にとくに理由はないが、話してみてもよさそうな気がした。
「第442連隊戦闘団って知ってるか?」
「第2次世界大戦の時のアメリカ軍の日系人部隊のことですよね?あの勇敢な。」
「そう。俺はその末裔さ。そして俺はアメリカ生まれ。アメリカにいたころ、親父に日本は良いところだと散々聞かされたさ。でもね、日本に来て見てどうだ。俺はすぐにいじめられたさ。価値観の違い、日本語をうまく話せなくて。日本人じゃないとか言われたりね。俺の母親も魔法使いの血が流れていたけど、俺の父親は純血の日本人さ。そんじょそこらの日本人より、俺はよっぽど日本人なのに。だから、日本語も勉強も運動も魔法も必死にやったさ。そのおかげでここにもスカウトされてね。」
「じゃあ、なんでそんな...」
「そこで、日本の昔の軍人のようなしゃべり方をすれば、少なくとも日本人とは見てもらえるんじゃないかって小さいながらに考えてね。案の定笑われたけど、日本人としては見られるようになったよ。もう普通の口調に戻してもいいんだけど、怖くてね...」
「そうだったんだ...じゃあ、私と二人きりの時にだけ、普通の口調でいたら?」
「え?ああ、いいけど...」
「でさ、大和って呼び捨てて呼んでもいいかな?」
「別にかまわないけど...。じゃあ、俺もすみれって呼んでいいか?」
「もちろん。大和は恋愛とか興味ないの?」
「俺...ずっとそういうこと考えないでやってきたから、わからなくてね...」
「そっか...でも私もそうだよ。改造されて脱出して、復讐に燃えて、それしか考えてなかったから。」
なんだろう、ドキドキする。
「ねえ、さっきの言葉、かっこよかったよ。目の前の女ひとり守れなくて、戦友を守れるかって...なんかさ、こう、とってもかっこよかった。」
「えーと、あの、そうなの...か?」
自分でも顔が真っ赤になっていくのがわかる。
「じゃあ、私そろそろ行くね。ありがと。また話ししよう。」
「おう!」
それにしてもなんだったんだろうか...
ずっといじめてきたやつらを見返すために頑張ってきたのに...今の感覚は...
これが恋か?