第一話 "The Tryout"
あの授業から数日後たった・・・
久しぶりの休暇を取れてもアイバーのことが悔しくて忘れられなかった。
目が覚めれば、時計はいつの間にか朝の11時を回っていた。
二階にある自分の部屋から一階のリビングへ重い足取りで行く。
父は研究員の仕事で忙しく、
母はオレが小さいころ銃乱射事件にあい、死んだ今は家にいるのは弟のスバルしかいない。
「兄ちゃん、起きたんだ。朝ごはん何がいい?」
「だめだ、俺はパスするぜ・・・マジぼろぼろの二日酔い。何も食えねぇ。アスピリンないか?」
「飲みすぎだよぉ。何飲んだの?」
「ウォッカを大量に
昨夜、剛毅と一緒に飲みに行った。」
え、まだ16歳だって?戦争で兵員が足りなくなったときに未成年を動員するためなのか、公共の場所でなければ飲酒はOKという法律がある。
この戦争で荒廃した日本じゃ、世界一治安がいいといわれる東京でさえ、裏道に行けばふつーに無法地帯になっている。
俺たちに法律なんて通用しない。おかげで、オレ達未成年も酒を飲めるのだが。
まあでも、アイバーのことは頭から瞬間接着剤のように離れない。本当に悔しい。自分の得意分野が人に簡単に抜かれることが。
悔しい。でも何も出来ない。
次の瞬間だった。
「GO! GO! GO!」
一瞬、俺は無反応のままソファーの上で寝ていた。
次の瞬間、ドアが爆発する耳をつんざくような爆発音が当たり一面鳴り響いた。
急に爆風が広がる。熱が一瞬で家を囲み、炎がウィルスのように家を侵食していた。
閃光弾か!?いや、おそらく手榴弾か...
いくらバカだといっても、軍、警察あるいはテロリストが突入してきたのぐらいわかる。
いやっ、テロリストは無い。こんな馬鹿野郎を連れさらってどうするんだ・・・
政府製か...おそらく連合軍だろうな。
酒飲んだぐらいで普通これぐらいドンパチやるだろうか。
馬鹿な脳が考えるより先に訓練された体は反射的に引き出しの中にあったサブマシンガンを引っ張り出して、構える。もちろん、"左手"てだ。
ソファーの陰にスバルを引きずりこみ、そっと相手の位置を確認した。相手が着ているのは....市街戦用の軍服だ。しかも、かなりのベテランであろう。
相手の装備は...おい、待てよ、政府製第2等級装備!?
政府製装備は、1から5までランク付けされている。
5、4等級までしか触ったことがなく、特殊部隊ですら3等級だろう。
2等級なんて写真の中でしか見たことがない。
これは何か裏がないか?
もしかして超エリート揃いじゃないか?
俺何かやったっけ?
相手もさすがに自分に気がついたのか、俺に対して銃を撃ってきた。
オレも負けじと応戦する。身の回りの家具の破片がそこら中に飛び散って視界が時々さえぎられる。バスッと鈍い音がした。
みれば、兵士の体が真っ二つになって横たわっていた。すぐに自分の使っていた銃が
あの悪魔の兵器だということに気がついた。確かに銃は手に取ったが、似ているもんで種類までは確認しなかった。
「対人外特殊短機関銃AUGUSTA」。
この銃は65口径という非常識極まりない銃だった。50口径でさえ、一発どこに当たっても即死だろう。父の友人が設計したらしいこの銃。最新技術を駆使したと聞いたが、とても一般人が練習なしで平気で使えるような代物じゃない。
フルオートで撃ったこてなんか一度もないぐらいだ。
高反動高威力。今のご時世に完全に逆らっている。
背中にものすごい寒気を感じた。スバルが敵兵に捕らえられて羽交ぜめになって、頭に拳銃を突きつけられている。すぐに引き金を引こうとしたが、チッチッという音が鳴るのみ。弾切れだ。
脈拍数が急激に上がった。冷や汗もかいている。
「降参しなさーい! さもないとこの坊やがねぇ....」
この声は....アイバー!
嘘だろ・・・こいつが何でここに・・・だけどスバルが捕らえられている。俺は抵抗する余地も無かった・・
「わかった。降参する。」
オレは銃を地面に置き両腕を上げ、地面に寝そべった。
いきなり、バチバチと音が鳴り、背中を突きつけるような痛みが走った。テイザー銃か?
意識が遠のいていく。アイバーの
「目標確保。こちらの損害は...1名死亡、あーいや、まだ何とかいけるかなぁ?今から本部へ向かいます。」
という携帯に話しかける声だけが聞こえた。
その後、暗闇へと吸い込まれることさえも忘れてしまった・・・
意識が元に戻る・・・
鉄製のいすに座らされ、両手首を後ろに手錠をかけられていた。目の前には、スタンガンを持ち、軍服を着た軍人が立っていた。
「クハハハハァ.... エリートちゃんたちがオレみたいなバカで使えない兵士をさらって何がしたい。何だ、俺が酒を飲んだからか? ハハハハァッ。二日酔いなんでね。アスピリンをくれ。」
思わず笑ってしまったが事実だった。
「黙れ。そんなことをほざけとは一言も言ってない。」
目の前にいる男は冷たい視線を送った。数々の戦争、修羅場を経験してきた人間の目。
軍人を毎日見てるので、本人は意識もしていないだろうが俺には何かが感じ取れる。
軍人のその一言と同時に電流の体を裂くような痛みが走った。筋肉は硬直寸前で呼吸もままならなかった。彼は低く、ごつい声で
「貴様が知っている貴様自身の経歴を教えろ。」
と冷静に尋問をこなす。これ以上変なことをすると殺されそうだったというか、俺の長年の当てにならない勘がSOSを鳴らしているので朦朧とする意識の中でおとなしく答えた。
「高橋龍河、16歳。種族は人間・・・」
といいかけたところで、軍人が書類を見ながら
「本当のことを言え。さもないとお前の弟がどうなっても知らんぞ。」
と俺を脅した。嘘はひとつも言っていない・・・俺はどう見たって人間だろ?俺は目でそう訴えてもあいつは気づくわけも無かった。
「住んでいるのは東京。東京軍隊学校1年、4等兵。」
向こうが知りたいであろう情報として思う当たるものといえばそれぐらいだった。
「貴様が人間・・・?笑わせてくれる。自分自身の能力にきづいていないとはなぁ。」
「どういうことだ。オレが人間じゃないだと・・・」
あいつが俺を人間じゃない・・・?何をほざく・・・?
「まあ良い。もうじき気づく。ここは国家安全保障委員会。一般人は知ることもない組織だ。われわれは前から貴様に目をつけていた。いや、お前が生まれる前といっても過言ではないな。ところで、貴様の偉大なる祖父のことは知ってるか?」
俺が生まれる前に死んでしまっている。全く知らなかった。
「いや、全く知らない・・・」
「知らなくても無理は無いだろう。それより、あんたが来た理由を俺が教えてやろう。」
そういいながら壁に埋め込まれたボタンを押す。
すると、目の前にアイバーが立っている。コロシアムの中で。
「貴様には戦ってもらう。アイバー一等軍曹相手にな!!もちろん拒否すれば貴様はおろか弟の命もなかろう。」
もうわけがわからなかった。いきなり誘拐され、そして、戦えといわれる。ぼろぼろの二日酔い&電気ショック×2による筋肉硬直のダブルパンチじゃ、まともに歩けもしないだろう。
勝負する前から勝ち負けが決まっていた。それに。アイバーと俺がまた会う運命とは・・
「そうだ、アスピリンといったな。ずいぶん古い薬を知ってるようだが、あいにく切らしてるんでな、これを飲め。」
そういわれ、水とともに口の中に1種類の錠剤がそれぞれ放り込まれた。体の痙攣がなくなっていく...頭痛も引いてくる。ここまではありがたかった。
だが同時に気がおかしくなるように頭が動転する。
「貴様、MDMAという薬を知っているか?」
「MDM...なんだ、それ?」
「終わったら調べろ、あくまで"生き残っていたら"の話だが。」
「では、この貴様の祖父が使っていた刀と、"AUGUSTA"ともに戦ってもらう。」
そう言い残して、軍人は暗闇の中に消えていく。と同時にアイバー、彼女が入ってきた。
バカ単純な遺伝子が騒ぎ出した。人間として。
俺はAUGUSTAを手に取り目の前の獲物を狙う。
戦いの火蓋は切って落とされた。