第十六話 "Memento mori、何人も死す。"前編
自分の個室の布団の上で目が覚める。時計は...まだ5時か...もう少し寝よう。そういってまた布団に包まる。
「竜河さん、おきてください!何時まで寝てると思ってるんですか!」
すみれの声と、ドアをノックする音が聞こえる。
「まだ、朝早いだろう。寝かせてくれ!」
「はぁ?何寝ぼけてるんですか!夕方の五時ですよ!昨日の夕方5時に帰ってきて人に頼み事した後すぐに寝て、24時間寝た上に、まだ寝るつもりですか!」
つまり...今は午後五時。俺は跳ね起きてドアを開ける。
「ほら、頼まれた資料、ちゃんと持ってきましたよ。ハッキングまでして大変だったんですから、感謝してくださいよ。」
「サンキュー。じゃあ、約束どおり、こんど、どっか連れってってやるよ。」
仕事場のパソコンへと向かう。メモリーをパソコンにセットし、データを探る。
PHOENIX…究極魔法生物兵器。魔界があった時代の連邦で極秘で開発されたもので、もともとのオリジナルは連邦を襲い、かなりの被害を出した。
ベースは、魔法生物の種となるものに、"神の生き血"を投与したものか...
そんで、神の血清とやらは...ちゃんとご丁寧にデータに入っていました。
神の血清…魔法使いおよび魔法生物に投与し、特殊能力を付加する血清。特殊な抗体か、特殊な血清がなければ、投与して数秒経たないうちに、ショック死、心臓破裂、全身は列などの症状を表し死亡するか...魔界崩壊の影響で、研究資料、データ、血清のほとんどが紛失、実質プロジェクトは中止となっている。
少しは参考になったか。アイバーと、大和も、疲労で倒れただけで、今はもう回復してるし、めでたしとするか!
そのときだった。また呼び出しを食らう。能天気に歩いていく。
今から考えれば…俺は絶対にこのミッションを忘れない。そう、ここからが、本当の悲劇の序章だった...そう単なるでかい鳥と戦ったり、京都を消滅させるよりももっと大きなことに直面するのだった...
次の日...24時間も寝たせいで一睡もできなかった。そして昼間昼食をとった後に指令室に呼ばれる。
「アイバー、ラファイエット、それに大和!」
いつものメンバー。アイバーとラファイエットは相変わらず険悪ムードだけど。
「立ち入り禁止区域の京都に何者かが侵入している。偵察にいってきてくれ。なおその周辺にはECSの反応が出ている。われわれの部隊を派遣したが、信号が途絶えた。充分注意してくれ。」
元帥が指示を仰ぐ。さっさと武装をして、急いでヘリに乗る。もちろん刀とAUGUSTAも忘れずに。しかし、京都に行くっていう度に何かこう、気が重くなる。しかし、本当に戦闘用ジャケットは暑い。魔法と妖術、その他物理攻撃をある程度軽減してくれるのはありがたいんだけど、まるで、コートを何重にも着ているようだ。しかも、俺たちの階級に支給されるのは、まだ上官たちと違う量産型だから、ある程度のエネルギー以上で攻撃されると、ほとんど役に立たなくなる。まあ、そんなエネルギーで攻撃されたら、普通に死ぬけど。しかーし、みんな黙り込んでいる。これじゃ間がもたねえ(笑)。帰ったら酒でも飲みたいなーと思ったりもした。
「アイバー、ミッション終わったら1杯いかねえか?」
グラスを持つまねをしながら聞いてみる。
「一杯いくのはかまわないけど、あんたねえ、アイバー少尉でしょ。示しがつかないから、公私の区別をちゃんとつけて。」
ため息をつきながらいわれた。
「わかりました、アイバー少尉。」
と、俺。
京都に差し掛かったころだった。警報が鳴り響く。横から何か稲妻が飛んできた。俺はとっさに防御領域を展開する。ヘリは大破して墜落したが、みんな無事だった。一応。気を取り直して、無線で本部につなぐ。生体反応はないが、絶対に勘でわかる。この空気、絶対にいる。また稲妻が横から飛んでくる。防御領域を展開して防ぐが、まさか…こいつが敵か?
こいつが…?そう、京都の作戦の時に俺の命を狙った女だ。
まさか、ね。俺はなぜこんなにも命を狙われなきゃならないのか。あ、いや、別に確信はないけど、まさか俺がECSを発射した直後に狙ってきたあの俺を"穢れた血"呼ばわりしたやつが相手だとは。とりあえず、女の雰囲気はマジだから、散開する。近距離対応できるやつは俺だけ。ラファイエットは結界魔法だし、アイバーは遠距離オンリーだし。で、結局俺だけ近距離かー。大和では一応近距離でも対応できる。
彼の近接戦闘武器は...シャベルだ。
意外と思う方もいるかもしれないが、
シャベルは最強の近接武器だ。殴れる、刺せる(先を尖らせて)、掘れるというかなり優秀な武器だ。
刀を抜き、女に切りかかる。女は俺の攻撃を防ぐ。次の瞬間、全身に激痛が走る。まさか、電流?俺はよろめきながら刀を放すまいとうなり声を上げる。
「魔法使いの弱点、電流ねえ。ブラックもこればっかりには弱いみたいだし。」
女は笑いながらこっちを見下してくる。うぜえ、少なくともPHOENIX討伐の後の女より数倍うぜえ。アイバーと大和は後方支援をするが、無数の弾と矢が俺にも降り注ぐ。
「お前らはどっちの味方だー!」
思わず叫び声をあげる。
「うるさいわねー!そこにいるあなたが悪いのよ!」
逆ギレっすか、アイバーさん。
とりあえず、触れたらしびれる。じゃあ、どうするか。答えは簡単、
「零式波動波!」
しかし、何事もなかったかのように女は立っている。絶対強いのになあ。あんまり効かない。
「そんな攻撃、効くとでも思ったか!」
そういいながら剣をしなやかな鞭に変えまた俺を電撃でいじめてくる。電撃びりびり覚悟で応戦する。その時、
「ロイヤルストレートフラッシュ!」
という声が聞こえ、女を光が包んだ。
白い煙があたりに拡散する。相変わらず、結界魔法の威力はすごい。まあ、これで何とかなるだろう。アイバーが、奴が一応死んだかどうか確認しに行く。
金色の稲妻がアイバーを襲う。
「きゃああああああああああああああ」
という悲鳴とともに。
畜生、まだいきていやがったか。
急に、耳の無線がピーという電子音を鳴らす。この音...ドラマで病院のシーンでよく聞く...まさか...心肺停止?
「誰か、回復魔法使えないか!」
叫んでも、大和とラファイエットは首を振るばかりだ。
心肺停止なら、軍隊学校時代習った心肺蘇生をすれば...
「大和、ラファイエット!白兵戦に持ち込め!アイバーは俺が何とかする!」
「Sir, yes sir!」
大和はシャベルで、ラファイエットは杖で敵を食い止める。俺はタイミングを見計らい、アイバーを遠くまで引き寄せ、心肺蘇生を施す。
とりあえず、アイバーのあごを引き上げ、心臓マッサージをする。
そして、人工呼吸か。急にためらいそうになるが、この際そんなこと言ってる場合じゃない。どうせ酒飲んだときのこともあるし。この前は俺がやられたし。帰ったらこの前よりすごいことが待ってそうだし。
ゆっくりと2回息を吹き込む。
しばらく緊張した間が流れたが、アイバーはなんとか気がついた。
「隙がありすぎよ!」
とともに、鋭い稲妻がこちらに向かってくる。防御領域を張るが、貫通した、だと...とっさにアイバーを突き飛ばす。稲妻が俺の右肩に当たって血が噴き出す。
「うあああああああああああああ」
耐え難い痛みが走る。
自分の足元に、引きちぎられた右腕がある。右腕がない。さっきまであった右腕は自分の体にはなく、血しぶきだけが残っていた。血が止まらない。失神しそうになるが、左手にAUGUSTA、口に刀をくわえる。
「龍河!そんな、私のせいで...」
「このぐらい大丈夫さ。」
「命令よ!一人で、逃げなさい!」
アイバーは泣きながら訴えてくる。怒ってるというよりは、懇願するように。
「俺は逃げないお前をおいていけるか!」
とっさに出た言葉。でも、本心でもあった。
AUGUSTAがLv.UPする。Lv.3 "Magic Bullet"。つまり、大和の機関銃と同じ方式ね。グッドタイミングか。弾を装填し、突っ込んでいく。左手がやられなかったことが不幸中の幸いだ。
とりあえず、止血剤だけ打って、血をなるべく止める。だが、効果も完全ではないらしく、依然として真っ赤な液体が滴り落ちる。触れれば電撃びりびり、離れれば弾があたらない。じゃあ、どうするか、答えはひとつ、AUGUSTAを近距離で使う。ガードは一切しない、よけるだけ。剣を舞うように交わしながら、AUGUSTAを撃つ。大和、ラファイエットはすでにダメージを負っている。とはいっても、俺が一番重症(笑)。傷がまだうずく。ずっきずっきする痛みに時折ひるみながら、しかし、なお、戦闘を続ける。記憶に引っかかる。なぜか、こいつを小さいころから知っている気がする。なぜだ?しかし思い出せない。なにか、封印された過去が。
アイバーはすでに体力消耗で、今にも気絶しそうだ。ラファイエットはまだまだいけそう、しかし大和はかろうじて、といった具合か。
しかし、大和もたったいま、わき腹を剣で突きぬかれた。彼はガクッとひざを落とす。
残るは俺とラファイエットだけか。
しかし、ラファイエットも電撃でやられる。そんな...残されたのは俺だけ...
「さて、母親と同じ死に方をしたいかい?」
「どういう意味だぁ!」
思わず口にくわえた剣で切りかかるが、案の定電撃が走る。
俺の記憶の中で何かがはじけた。頭の中に引きずり込まれていく...
これは...いや、ここは...どこだ?
いや、いうまでもなく東京か。俺が知ってる東京じゃないけど。もっと古いような、そんな感じか。しかし、俺自体は、まるで空気みたいな、誰にも、何にも触れられない。歩行者天国の真ん中にのは、小さい、小さい頃の俺...?と、母さん!だけど、もうそのぬくもりには触れられない。
ここは...?どこだ?
その時、何か、黒いものが母さんめがけて突っ込んできた。母さんが、刀を使って防いでいる。俺がたった今使っている刀...?
俺と今戦っていた女が、母さんめがけて切りかかっていく。そして、母さんは吹き飛ばされた。女は俺に、いや、正確に言えば、小さいころの俺に電撃を発射する。俺は何にもすることができない。母さんはとっさに生身の体で俺をかばった。腹から大量に出血していた。俺は、叫びたいと思っても叫べない。ただ単に女をぶっ殺したかった。ぶっ殺したかった。この手で、動けなくなるまで。苦しませたかった。これほどの殺人衝動に駆られたことはなかった。むしろ、今までは逆に躊躇したほうだ。俺はチビ龍河に吸い込まれていく。母さんの吹き飛ばされた刀に触れた。その時、刀は俺の体に取り込まれたと同時に、現実世界に戻った。
「お前が母さんを殺したのか...ぶっ殺してやる!」