第十話 "LOL, I AM NOT A BABY SITTER!"
―――あれから3日...
少女との戦闘で刃こぼれした刀を丁寧に研ぐ。俺無傷だったが、少女はかなりの重傷を受けたらしい。回復スピードは常人と比べ物にならないほど早いらしいが。
携帯にメールが届く。
差出人は...ストーナー元帥!駆け足で元帥室に向かう。
「高橋龍河軍曹です!失礼します!」
「3日前の戦闘、ご苦労だった。かなりの活躍だったようだな。かたぐるしい話はよしてくれ。少し、個人的に話したいことがあってな。」
威厳があり、経験がにじみ出てくるような話し方だ。
「元帥、なんでしょうか!」
「君が無力化した少女のことで、君には伝えなければならないことがあってな…
あの少女は、ここで改造された。」
「改造ですか...」
血流が遅くなるのがわかった。
「8年前にストリートチルドレンとしてここに迷い込んでな...。その時に一切手を出すなと部下には伝えたのだが...研究班にサンプルとして改造された。その途中で戦闘時に感情を暴発させる手術も施し、その結果暴走、脱走した。その後は各地を破壊しつくしていたようだ。ところで、彼女が息切れしたのを、戦闘中に見たか?」
そういえば...
「いえ、見てません。」
「彼女は魔法使いとしての通常のエネルギーのほかに、ECSという感情をエネルギーとして使う動力源を使っている。それが彼女が驚異的な体力、戦闘力を誇った何よりの証拠だ。まだ完全には扱えていないようで大参事には至らなかったが...」
改造されただと...ふざけるな。そいつらを一人一人ぶん殴ってやりたい。
「そこで龍河君、君に頼みごとがある。彼女の処分が決定するまで、彼女の見守りをしてやれないか?監禁して置くといっても、今回の事件は私にも非がある。特別に個室を一つ永久に使用許可を与える。やってくれるか?」
元帥直々の命令だ。それにこの階級で個室か使える点も魅力的だ。少々怖いけれど。答えは一つしかない。
「了解しました!」
次の日...
胸をドキドキさせながら病棟まで行く。もう退院するらしい。これからしばらくは少女の子守りをしていくことになる。
しかしもし気がふれていたらどうしようか...
少女が看護師に連れられ出てくる。少し華奢だがどこにでもいるような少女だ。
「俺は龍河。今日から君のことを見ることになったぜ。」
小さい子にどうやって話しかけたらいいかわからない。
「よ、よろしくお願いしますぅ」
あれ...なんか様子がだいぶ違うぞ...クレイジーな少女から、放っておけば死んでしまいそうなぐらい気が弱そうな少女にかわっている。
「名前は?」
「えーと、あのその、名前はその...まだないんですぅ...」
「え、いや、じゃあ、すみれとかどうかな...あはははは...」
どうした俺!
「それいいですぅ...」
まさかの一発OK!?
「そうだ、すみれ、もうお昼だし、何か食べに行こうか。何がいい?」
給料高い割に使うものもない。よっぽど高いもの頼まれない限り、なんでも大丈夫だ。
「じゃあ...」
―――すみれは横でうどんをすすっている。
「なあ、こんな安いものでいいのか?遠慮せずに言えばよかったのに…」
「これが一番でふぅ!」
落ち着け、少女よ。
夜。
布団を2枚敷く。彼女の細い腕からは想像もできない戦闘を思い出す。そしてすぐに忘れるように努める。
「お休みなさい...龍河さん。」
「ああ、お休み。」
彼女が寝た後、思わず壁を殴っていた。結構大きな音がしたが、すみれは起きなかったようだ。
誰がこの少女をこんなことにしたのか。考えただけで涙が出ていた。