プロローグ ~東京連合軍事高等学校にて~
プロローグ ~東京連合軍事高等学校にて~
「貴様! 左手で銃構えるなと何十万回もいっただろう! 」
マジ切れ寸前の教官の怒鳴り声が軍部射撃場に鳴り響く。
小さいころから親父に左手で銃を構えろと仕込まれてきた俺にとっては右手で銃を構えるのには無理がある。
しかし、口答えすれば地獄を見るだろう。しぶしぶ従った。
「よし、龍河。お前の射撃能力で的を狙ってみろ。もちろん"右手"でな。全員こっちを向け!」
怒鳴り声から一転、期待のかかったような声が聞こえた。
もちろん右手で構えたらろくに打てないことは明白だったが、教官に逆らえるはずもなく、
ご機嫌を損ねたら大変なことになることになるので、的をはずさないように全身の全神経
を使い、政府製狙撃銃の馬鹿みたい重い引き金を引いた。
――バッキューン
弾丸はあさっての方向へ行った。改めて右手で銃を構えてはいけないと実感した瞬間でもあった。静まり返った中で、
「貸しなさいよー こうやって狙うのよ!」
といいながら1人の女子生徒が男子の群れの中を掻き分けながら、俺の銃を奪う。
「くそっ、返せ、こらぁ・・・・」
しかし、その女子は一切俺には関心を持たず、ただ銃を見ていた。
その後、その子が急に銃を振った。
今思えば、振ったようにしか見えなかった。
その刹那、遥か彼方に鈍い音がした。
まさか、その一瞬で的を狙ったというのか―――
一瞬、沈黙が流れた・・・
的に命中したのだ。抵抗する猶予も与えられず、ただ呆然と立ち尽くすだけだった。
ありえねぇ・・・
女子は、銃を俺に返し、平然と群れの中へと消えて行った。
「・・・授業終了だ。明日はもっと厳しくなるからゆっくり休め。」
異例の事態だった。教官が早々に授業を切り上げるなんて・・・
授業終了後、どうしても、さっきの女が気になるので、同期の士官候補生の剛毅に
「さっきのオレの銃奪ったやつ、知ってるか?」
とぽろっと聞いてみた。
すると彼は、驚いたような顔で、
「しらねぇのか? 最近よく話題になってるけどなぁ。 アイバー・加恋。 文武両道で、しかもかわいいから、男子の人気からのけっこう高いけど。」
忘れようとしたが、忘れられない。あいつのことが、頭からへばりついたように離れない。
負けず嫌いの遺伝子が騒ぎ始めた。馬鹿だけど騒ぎ始めた。