表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェルデドラードの日常  作者: 雨根
本編幕間
9/74

不幸の手紙

拍手小話No.9

本編19、20話参照

「そういえば、手紙の内容って、何だったんスかねぇ」


 もっしゃもっしゃとオクラの肉巻きを頬張りながら、ふとチェスナットが言った。

 もう終わったものと思っていた話が蒸し返されて、リコリスは弟子に呆れた視線を向ける。

 あれだけ機嫌を損ねていたライカリスに、よくもまたその話題を振れるものだ。

 そんなに気になったのか。


 だが、てっきり無視するものと思っていたライカリスは、無言で懐に手を入れた。

 シャツの胸ポケットから皺だらけの紙を引っ張り出し、無表情のままそれをチェスナットに差し出す。

 話を振っておいて、実は返事を期待していなかったらしいチェスナットは、ぽかんと口を開けてそれを見た。


「あ、えーと、拝見するッス」


 何度も瞬きをした後、チェスナットは手紙を受け取り、太い指でカサカサとそれを広げた。


 ――その瞬間、ビキッと音がしそうなほど見事に、チェスナットが硬直する。


 額から滝のような汗が流れ始め、見る見る顔が真っ赤になっていくのを、ライカリス以外の全員が驚きをもって見つめた。


「……何が書いてあったんですの?」


 ペオニアがそっと問いかけると、チェスナットはカッと目を見開き、




「うわあああ訊くな見るな俺には何も言えねえええええっ!!」




 小さな家中に響く音量で叫ぶと、椅子を蹴倒して立ち上がり、手紙を隣にいたウィロウに押し付けると勢いよく走り出した。

 途中床に伏せ(させら)ていたウィードの尻尾の先を踏んずけ、「ギャン!」と悲鳴が上がったが、それにも構わず扉を跳ね除け走り去る。

 「うおおぉぉ」と雄たけびが遠のいていった。


『……………………』


 唖然呆然の沈黙がその場に降り、自然と全員の視線がウィロウの持つ紙に向く。


「……」

「な、何が書いてあるんだ?」


 ファーが不思議そうにウィロウの手元を覗き込む。


「――うひっ?!」 


 そして、チェスナットと似たり寄ったりの反応を示して、固まった。

 その諸悪の根源を手にしているウィロウの頬を、つつつ、と一筋の汗が伝い、彼は無表情に食事を続けるライカリスを見た。


「…… 燃やしますか」

「ええ。では、今すぐに」


 鷹が邪魔をして処分できなかったんです、と忌々しげに言ったライカリスがひとつ頷くと、ウィロウも頷きを返して席を立った。

 向かう先はキッチンだ。

 異様な雰囲気に気圧され、女性陣は何も言えないようだった。


「……」


 リコリスが呆れた視線を男たちに配ると、ライカリスはそこでやっと表情を見せた。

 欠片も笑っていない目をしているくせに、にっこりと笑みを作る。


「リコさんに知られるくらいなら潔く死を選びます」

「……いや、何も言ってないし」

「どうしても知りたいなら、先に私を殺してくださいね?」

「だから、別に知りたくないってば」


 差出人が変態悪魔で、ライカリスと弟子たちのあの反応である。


(誰が読みたいもんか、そんな不幸の手紙……)


 好奇心よりも心の平穏を選んだリコリスは、呆れた顔でライカリスの額にデコピンを入れ、呻いた彼を余所に食事を再開するのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ