口は災いの元
拍手小話No.6
本編10話参照
「持っていく物ってホントにベッドだけだなぁ」
正確には持っていける物は、である。
ソファくらいは持ち出したい気もするが、山と積まれた怪しげな品々に埋もれているのでどうにもならない。
ライカリスが小首を傾げて微笑む。
「遠慮なく、なんでも貰ってくださって大丈夫ですよ?」
「いや、遠慮するっていうか、遠慮したいっていうか……」
爬虫類の干物や、毒々しい食虫植物的な何かなど、貰ってどうせよと言うのだ。
形容しがたい何かの数々から目を逸らして、リコリスは首を振った。
「まぁ、その辺のはライカに任せる。後で片付けに来るなら、もちろん手伝うし」
「分かりました。ありがとうございます」
そう言って笑うライカリスは本当に嬉しそうで、リコリスは少しばかり照れくさい。
居心地はいいが、居た堪れないのだ。
誤魔化すように咳払いをして、彼女は機嫌よくニコニコしているライカリスを見上げた。
「さて、帰ろっか。もうすぐ2時だし」
大分遅くなってしまった。
ゲーム中でも妖精たちにはよく留守を任せていたし、あんな見た目でも子どもではないから本当は心配はないのかもしれないけれども。
はい、と返事があって、するりとリコリスの腰に腕が回された。
ぎょっとしてその腕と隣の男とを交互に見ると、穏やかな視線が返ってくる。
「失礼しますね?」
「わっ」
返事も待たずに抱え上げられて、リコリスは慌てて目の前の肩を掴む。そういえば、来る時もこうして抱えられてきたのだったか。
密着したライカリスの体は、湯上りだけあってほかほかと温かい。
そのまま出口へと踏み出したライカリスが、ふと腕の中にいるリコリスを見る。
「あ」
「え?」
何に気がついたのか、不意に顔を寄せられ、リコリスは固まった。
しっとりとした髪が肩口で揺れ、耳を擽る。
「な」
「私と同じ匂いがしますね」
すんすんとライカリスがリコリスの首筋を嗅ぐ。
「ちょ、擽ったいっ」
「だって、入浴後ならいいって、リコさんが言ったんですよ?」
(確かに言ったけど! 好きにすればって言っちゃったけどっ)
暢気に「ん~、いい匂い」なんて言っているライカリスはとても楽しそうだが、リコリスはそれどころではない。
距離が近すぎて、吐息がかかるのだ。尋常でなくくすぐったい。そしてそれを上回る恥ずかしさ。
我慢できずに足をバタつかせれば、リコリスを支える腕は揺らぎもせず。
危ないですよ、などとやんわりと窘められてしまった。
「この、匂いフェチ!」
「違いますけど……リコさんいい匂いだから、まぁそれでもいいです」
「開き直るなーっ!!」
抱きかかえられている状態では抵抗もままならない。
結局、首筋に、耳元に、髪にと思う存分楽しまれたリコリスは、数分後涙目でライカリスの耳を引っ張っていた。
そんなライカリスの表情は、痛がりながらも満足げな、いい笑顔なのだった。