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悪女コース邁進中

拍手小話No.34

幼女で養女のバレンタイン

「うおおおっ! チョコ! チョコぉぉおおっ!!」


(……大袈裟過ぎんだろ)


「うおぉぉんっ」


(泣くなよ、暑苦しい……)


「俺、女からチョコもらったの初めてだぁぁっ」



(女は女でも――幼女だろうがよ!!)



 むさ苦しい男たちに囲まれながら、デイジーは叫ぶ。

 もちろん心の中でだ。

 顔は天使のような微笑を浮かべているはずだ。

 彼女(カレ)には自信があった。何せ、鏡の前で念入りに研究済みだから。


 この世界で、女として生きていく決心をしてから、どれだけの時間が経ったか。

 体がさほど成長していないことから、それほど長い時間ではない。

 しかし、それでも長く長く感じるのは、ここに至るまでが苦行の連続だったからだろう。


(――なんて、今はもうどうでもいいけどな)


 自身を愛せるほど、達観はできていない。

 けれど、その代わりの諦観が今の彼女(カレ)を支えていた。

 要は、開き直ったのである。


 デイジーは周囲を壁のごとく取り囲む、筋骨逞しい男たちを見上げた。

 養父ライラック率いる傭兵団のメンバーたちは、腕も確かなら、人柄も素晴らしい。

 異常なまでのむさ苦しさを除けば、完璧なのだ。

 そんな男たちは、皆一様にデイジーの配った手作りチョコを捧げ持ち、ヒゲをビショビショに濡らして男泣きの真っ最中だった。


(おうおう。むっさいヤロー共がチョコで狂喜乱舞って、むささ倍増だなオイ)


 養父が聞けば卒倒しそうな言葉は、やはり頭の中でだけ。

 ちなみに一足早くチョコを渡した養父もまた、チョコを手に同じような反応を示していた。




「ははは。皆喜んでるなぁ」


 不意にそんな笑い混じりの声が降ってきたと思ったら、唐突にデイジーの小さな体が持ち上がる。


「あっ……」


 小さく声を上げたデイジーを、軽々と抱え上げ、自分の肩に座らせたのは、肉壁のごとくな男たちの中にあって随分と細身に見える青年だった。

 細身といっても、一般人から見れば相当鍛えられ、引き締まった体つきをしている。

 傭兵団の副団長を務める、ライラックの右腕だ。


「もう、カンファーお兄さま? いきなりすぎます」

「ごめんごめん」


 めっ、という調子のデイジーの非難に、カンファーは爽やかに謝罪した。

 よく日に焼けた肌に、白い歯が覗く。明るい金の髪が眩しい、絵に描いたような好青年だ。


(くそ……羨ましくなんて、ないんだからな……っ)


 元々の彼にもなかったもの。この身にあっては、更に望むべくもない男の魅力溢れる姿に、デイジーは密かに涙する。


「これ、わざわざありがとうな。全員の分を用意するの、大変だったろう」


 可愛らしいラッピングを手に、カンファーがデイジーの顔を覗き込む。

 デイジーは緩く首を振って応えた。


「喜んでもらえて、嬉しいです」

「そうか……。デイジーは本当にいい子だなぁ」


 大きな手が、わしわしとデイジーの頭を撫でる。

 それからピンクの袋からチョコを1つ摘み上げたカンファーは、それを口に放り込んで破顔した。


「うん、美味い。ありがとう、デイジー」

「よかった」


 デイジーも合わせて微笑んだ。




 ――それにしても、とデイジーは思う。


 元の世界ではバレンタインに相当する今日、この日。

 この世界に居ついた同胞たちは、きっとそれぞれの家族と、もっと言えばパートナーと、楽しい時間を過ごしているのだろう。

 もちろん、今が楽しくないわけではない。人間関係にも、恵まれていると思う。


 ……それでも、どうしても考えてしまうのだ。

 何故自分は幼女の身で、むさい男たちにチョコを配っているのだろうか、と。

 しかも、恋愛も結婚も、諦めるしかないこの身の上で。


 デイジーは叫ぶ。

 心の中で、しかし全力で。



(ちくしょう! リア充爆発しろっ!!)

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