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拍手小話No.33

女王トリオでバレンタイン

 真っ白で形のいい白い足先に、パタリと茶色の染みが落ちる。


 片手に親友から作り方を教わったチョコスプレッドの瓶、反対の手にスプーンを持ったソニアは、椅子に腰掛けたまま、チョコを垂らした足を前に突き出した。

 無表情に、しかし目線で軽蔑を伝えながら、


「舐めなさい」


 傲慢に言い放つ。

 酷い言葉を投げつけられたビフィダが、ソニアの目の前に傅き彼女を見上げ、うっとりと恍惚の笑みで応えた。


「……はい。喜んで、ご主人さま」


 恭しくソニアの足を捧げ持ち、ビフィダがまずその爪先に口づける。

 それから、白い足を汚すチョコレートに、ゆっくりと舌を伸ばした。


「……っ」


 うっすらと頬を染め、ビフィダの赤い舌がチョコを掬う。

 さほど量のないチョコの縁に沿うように、舌先が足の甲をなぞった。

 すぐに終わらせては勿体ないとばかりに、少しずつ少しずつ。ことさらゆっくりと動くビフィダに、ソニアが微かに息を詰める。

 ぞわぞわと、足先から腰の辺りに痺れが上がってきて、しかし気づかれてはいけないと、ひっそりと息を吐いた。


 たかだか数滴のチョコ。それをいつまでもしつこく舐めているビフィダに、苛立ちと認めたくない快感の波がソニアを苛んで。

 我慢の限界と共に、いささか乱暴にビフィダの手を振り払った。


「あっ……」

「いつまでかかっているの、愚図。もういいわ、そのままじっとしていなさい」

「も、申し訳、ございません……はぁ」


 幸せそうで何よりだ。この変態め。


「――ソニア」


 心の中で悪態をついていると、後ろから伸ばされた手がするりとソニアの体に巻きついた。

 さて、ここからはもっと手強くなる。

 つん、と澄ました態度を維持しつつ、ソニアはそっと肩越しに振り返った。


「何かしら、リビダ」


 後ろから抱きしめられ、ソニアの肩に顎を乗せたリビダと、間近に目が合った。

 顔が映り込むほどに近い緑には、隠そうともしない不機嫌さが滲んでいる。

 先に弟の方を構ったから、拗ねているのだ。


「僕を放っておくなんて、いい度胸だね?」


 仕返し、お仕置き、と語る瞳に、内心で怯え、それを女王の仮面で隠し、ソニアは笑った。


「わざと……って言ったら?」

「……へぇ? そんなに僕にお仕置きされたかったんだ」


 圧力を増した色香が、肌に突き刺さるようだ。

 背中を何かが這うような感覚に襲われ、ソニアの一瞬手が震える。

 その隙を突いて、リビダが彼女の手からチョコの入った瓶を掠め取った。


「っ何するの。返しなさい」

「何故? 僕らにくれるものなんでしょ?」


 目を細め、リビダは瓶を傾けた。ソニアの剥き出しの肩に向かって。


「な、何をするのよ!」

「だって、ビフィダばっかりずるいじゃない」


 呟きは、チョコを追いかけてソニアの肌に落ちる。

 直後、肩から首筋にかけてを熱く湿ったものが滑った。


「んっ」

「甘ーい」


 リビダの舌が、首筋を舐める。何度も何度も。

 ソニアはそれ以上声を漏らさないよう、きつく唇を結ぶ――が、


「痛っ」

「ふふ。その声、もっと聞きたいなぁ。……可愛い」


 肩口に歯を立てたリビダが低く笑った。

 最後は耳に直接吹き込むように、吐息を伴って。


「あ……」


 体に震えが走り、ソニアの唇が薄く開く。

 そこにリビダの指が潜り込むと、予想していなかった甘みが舌を刺激した。いつの間にやら、指でチョコを掬っていたらしい。


「ん、んぅ」


 器用に動く指が、チョコを塗りこむようにソニアの舌を弄ぶ。

 唇に残ったチョコは、リビダがねっとりと舐め取っていった。


 制止の声すら上げられない。いっそこの指を噛んでやろうか。

 ソニアはぼんやりしてきた頭の片隅でそんなことを考えた時、


「あ」


 それを読んだかのように、リビダが声を上げた。

 同時に、何かがソニアの足に垂れ、ゆっくりと内腿を伝う。


「ごめん、零れちゃった」


 不慮の事故を装いながら、声は白々しく、笑いを含んでいた。

 瓶を大きく傾けているリビダを、ソニアは睨む。

 いよいよ噛んでやろうとした指は、それを察して早々に逃げていった。


「リビダッ!」

「ごめんって。それに、大丈夫だよ。――ビフィダ、犬の出番」

「なんっ」


 ソニアの悲鳴に近い拒絶は、リビダの大きな手の平に遮られ。


「お任せください、ご主人さま」


 大人しく「待て」をしていたはずのビフィダがふわりと微笑んで身を乗り出した。

 内腿に湿った感触が這い始め、更に「追加」とリビダがソニアの胸元にチョコを垂らして妖しく微笑む。


「美味しい。ホント、嬉しいプレゼントだよ、ソニア……」

「んー! ん、ぅ――っ」


 言葉にならない苦情が悲鳴になり、やがてリビダの手が外される頃には嬌声に。

 その頃にはソニアの思考も体も、温められたチョコのように溶け出していた。

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