ベスト……ポジション……?
4月18日に拍手くださった方へ
お題「糖度低いベストポジション」
例によって、その日も私の悲鳴が牧場に響き渡る。
ああ、屈辱だ。忌々しい。情けない。
情けないが……逃げねばならぬ。
「あらぁ。どこへ行くのかしらぁ?」
そんな魔女の声を必死で振り切り、毛を掴まんとしてくる手を死に物狂いで掻い潜る。
4本の足は私の思うままに動き、最近ではこうして魔女から逃げ出すこともできるようになった。
……成功は20回に1回程度であるが。
今日はそんな数少ない成功の日だったようだ。
背中の毛は一部毟られたが、まぁ、いい。逃げられただけ、いい。
……。
……くそっ!!
いいわけがない! 本当は、本当は……認めたくないが泣きたいとすら思う!
だが、もうどうしようもなく切羽詰った私は、余計なことを考えるよりも逃げることを選んだ。
迫り来る気配が少しだけ遠のいたのに僅かに安堵しながら、私はペオニアを探した。
豆連中は……今畑で忙しくしているから、邪魔するわけにもいかない。
だから私は必死でペオニアを探したが……くっ、見つからん!
焦りに焦って、私はとりあえず家の影に身を潜めた。
……これで逃げられるとは思っていない。見つかるのも時間の問題だろう。
しかし行き場を失ってどうしようもなかったのだ。察せ。
情けなくも、そうしてただ震えるしできなかった私に……、
――それは唐突だった。
ばさりと布の翻る音がして、私の視界は真っ暗になった。
「?!」
恐怖のあまり半狂乱になりかけた私だったが、しかしそこに降ってきたのは暴力ではなく静かな声。
「――ウィードちゃん」
それは探し求めていた救いの声だった。
「大丈夫ですわ。落ち着いてくださいな」
布越しに聞こえる声と、身近な温もりに、体の震えと強張りが弱まり、半分どこかへ飛んでいた正気が戻ってくる。
そうなると、真っ暗だと思われた視界がそうでもないことに私は気がついた。
犬の目だ。我に返れば、人よりも暗闇に強い。
――最初は。
私を隠すために、ペオニアが布でもかけてくれたのだと思った。
ああ、それは間違ってはいない。正しくはある、が。
うっかり首を巡らせた私は、そこに、真横に薄闇でも分かる白く細い足、を……見つけ……。
「……っ?!?!」
うわああぁぁああああああっ!!!
「えっ? どうしましたの、ウィードちゃん? お、落ち着いて……!」
落ち着けるかあああああっ!!
今ほど犬の身を嘆いたことはないわ!
――そういう訳で、私は再び逃亡した。
スカートの裾から顔を出した時、近くにいたらしい熊男その3が何とも同情的な顔で私を見ていたのが印象的だった。
しかもなんと、「犬はあっちに走っていったぜ」と嘘の報告を、あの魔女に。
当惑するペオニアの声と、熊男その3の同情の眼差しを背に走りながら、私はこの日初めて知った。
喜びとも悲しみともつかない、複雑で曖昧な感情があることを。
……。
…………。
…………泣いても、いいだろうか……。




