これぞ第二の人生
拍手小話No.31
「ほっほぉ~ぅ。これはこれは……」
いやぁ、不思議なこともあるもんじゃて。
周囲は見渡す限りの牧草地に、更に視界を埋め尽くす家畜の群れ。
牛に羊に山羊に馬に、その背中に乗って寛ぐ鶏に……。
「――物には限度があるのぅ」
のんびりとした動物たちを愛でるには、ちと数が多すぎるわ。
そんなことを考えるワシは、群れの横に建てられた小屋の、屋根に座っている。
動物たちの大合唱に包まれながら、深く考えず両腕を持ち上げて背伸びをすれば、面白いほどに抵抗なく体が動く。
そのままの体勢で空を仰げば、皺のない滑らかな手が太陽に翳されていた。
「ふむ」
――鏡が見たいのぅ。
そう思ったところで、鳴き声の中にあまりにも場違いな電子音が混ざった。
咄嗟に視線を投げると、小屋の隣に若い娘が、1人。
「おぉ?」
栗色の豊かなツインテールに、赤で統一された装備。
そして背中には巨大な剣の柄が見える。
背後に隠れて見えないが、その剣が娘の身長と大差ない長さであることを、ワシは知っている。
――この娘が、誰であるのかも。
きっと来ていると思っていた。
期待と確信が現実に変わり、静かながら大きな歓喜を覚えながら、ワシは手を振った。
「おぉい。婆さんや。こっちじゃ、こっち」
「あら、お爺さん」
ワシの声かけに娘が――否、婆さんが笑みを浮かべ、こちらを振り仰いだ。
気の強そうな青い目が真っ直ぐにワシに向いて。
婆さんがとん、と軽く地面を蹴り、次の瞬間には同じような軽い音を立てて、すぐ目の前に移動してきた。
小屋の高さなど、全く障害にもならず。
「ほっ。若いのぅ」
「あらあら。お爺さんだってそうですよ」
「うむ。現役復帰じゃて」
「うふふ。そうですねぇ」
朗らかに婆さんが笑い、ワシも笑い返す。
この、もう70余年繰り返してきたやり取りが、今ここに至ってなんと新鮮なことか。
ワシは手を伸ばし、婆さんの両手を取った。
青い目を覗き込んで、懐かしい緊張感に身を任せ。
「もう一度人生丸ごと付き合ってくれるかのぅ? ……えぇと、エニス?」
「あらあら、懐かしいこと――うふふ。もちろんですよ、ガウラさん」
そうして、楽しげに微笑んだ婆さん……更に改め『エニス』を、ワシは思い切り抱きしめた。




