○ォー○ーを探せ
拍手小話No.30
……どうして。
青々とした芝生の上で、僕は今膝を抱えている。
頭の中を巡るのは、
どうしてこうなった。
その一文だ。
それがだんだん頭の中からはみ出して、口から零れ出し、それからヤケクソ気味の叫びになった。
そういえば、こんな大声出したの生まれて初めてかもしれない。咽た。
「げほっ…………はぁ……」
恨めしく空を見上げて何十回目かのため息。
本気でどうしよう……と、言いつつ、本当は分かっているんだ。
今自分が置かれている、ちょっとあり得ないだろっていう状況も、その状況ですぐにでも動かなければいけないことも。
むしろ、最初は幸せだった。
ここがどこだか理解して、僕が何者になったか知った時。正直、僕は嬉しかったんだ。
あの場所から抜け出せて、しかもなりたかった『僕』になれて。
もっと嬉しかったのは、僕が最初じゃなくて、独りでもなかったことだ。
現実には顔を合わせることもなく、それでも僕が心を許せた人たち――あの人たちがいてくれたから。
嬉しくて、嬉しくて。
ほんの少し前までは、カーテンの隙間から見えるだけでも疎ましかった太陽の光を、燦々と浴びている今に、大きな開放感があった。
――それなのに。
「ダム……」
ため息と同じくらいの回数呟いた、この短い名前。
正式な名が持ち主に似合わないからと、僕はそれを縮めて呼んでいた。
「……」
やはり今は応える声はない。「アルセ」と、今の僕の名を呼んでくれるはずの声は、ない。
へたり込んだままで、僕は自分の腰に視線を落とした。
まるでRPGさながらの自分の服装に、さっきまではあんなに喜べたのに。
改めて確認しても、そこにあるはずの物は、存在しない。
ここに来る以前から、それなりに長い時間を共にしていた僕の剣。
名を『スペンダムノス』と言い、ダムはその剣に宿る精霊だった。
ちょくちょく剣から飛び出してくるその姿は同じ年頃の少年で、本当は年上のはずなのに精神年齢も同じくらいで。
実在していたら、とても気が合うだろうと思っていた。
僕にとっては、大切な仲間のあの人たちと、同じ立ち位置の大切な相棒。
「探さなきゃ……」
唇を噛んで立ち上がる。
周囲を見回せば、風に揺れる緑と、のんびりとした動物たち。
僕が作り上げた居心地のいい場所。煩わしいものなんて、ひとつも存在しない安全で優しい場所。
できるならずっとここにいたい。
正直、色々自信はないし、心許ないし、すごく怖い……でも。
「い、いける。絶対できる。だ、だって」
――ここにいるのは、憧れていた強い『僕』なんだ!
だから、本当の僕なんて振り切って。
思いっきり首を振って、背を伸ばす。
「見つけて、あげないと」
探し物は1本の剣。
広い広い、世界のどこかに。
……どんだけ難易度高いんだって思うけど。
それでも、頑張るから。
「待ってて、ダム」
■□■□■□■□
――広い広い世界の中の、広い広い森の奥。
生き物の気配のしない木々の隙間で、膝を抱えた少年がそっと、葉に邪魔され見えない空を仰ぐ。
「アルセ~……」
泣きそうなその声に応える者もまた、ない。




