ハーレム野郎お断り
拍手小話No.11
変態注意
皆さん猫はお好きでしょうか。
私は大好きです。にゃんこ可愛いよにゃんこ。可愛いは正義!
……でもですよ?
今、眼前に広がる毛玉毛玉毛玉……ぱっと見、10や20どころでない数の猫ちゃんたちが私を取り囲んでいて、その視線が全部私に向いているこの状況は、全面的に恐怖です。
怖いです。普通に怖い。
そんな無数の猫ちゃんたちの中から、一回り大きな子が1匹、進み出る。
真っ白な毛皮に金色の瞳のその子は、私の前に来て立ち止まると、高い声で鳴いた。
「イベリス……」
それは直感だった。
本当ならあり得ないことだけど、今のこの状況からしておかしいので、この子が私の知っている存在しない猫でも、不思議ではない。と、思う。
そして、それはどうやら間違ってはいないようで、私が呟いたその名前に、白猫は嬉しそうにまた鳴いた。
ああ、本当にイベリスなんだ……。
不思議な、でも何だか温かい気持ちになって、膝を折る。
しゃがみこんだ私の膝に、イベリスは甘えるように頭を擦り付けてきた。
私も何気なくその頭を撫でようとし ――、
ギラリ、と周囲の猫たちの目が光った。
「……っ?!」
殺気である。紛うことなき殺気。
いや、本当は殺気がどんなものなのかなんて知らないけれど、これはそうとしか表現できない。
無数に突き刺さってきたそれに、私は思わず息を詰め、白い毛に触れかけていた手を止める。
すると、それまで私に擦り寄っていたイベリスが、猫たちを睥睨し、威嚇音を発した。
途端殺気が消え失せて、しかし不満げな空気はそのまま残る。
意味が分からなくておろおろと周囲を見回し、イベリスの背に視線を落とした私は、あることに気がついた。
私の知っているイベリスとの、大きな違いが揺れる。
「イベリス……どうして尻尾が3本あるの……?」
心を擽るにゃんこの尻尾が、そこには3本生えている。
そんな馬鹿な。
愕然とする私を振り返って、イベリスはにやりと笑みを浮かべた。……笑ったのだ。
そして。
ずるりと目の前で白い毛皮が融けた。
「っ! ……?!」
言葉もない私の前で、ソレはむくむくと見上げるほど大きくなって、
――人の、形に。
イベリスだったそれは、真っ直ぐに2本の足で立ち、座り込んだ私を見下ろした。
雪のように真っ白な髪と金色の瞳、そして頭の上で動いている耳と、後ろで揺れる3本の尻尾以外は、猫を思い出させるものはない。
私と目が合うと、イベリス(?)は頬を染め、蕩けるような笑みを浮かべた。
「ソフォーラ」
薄く形のいい唇が、低い声で『私』の名前を紡ぐ。
「ああ、会いたかった、私のソフォーラ……! どうだい、見てくれたまえ、この体! なかなか美しいだろう? 君と交わるために、必死で頑張ったのだよ」
――え、まじわ……?
「君が帰ってきてくれると、私は信じていたから……。その時はたくさん可愛がってあげようと思ってね、勉強もしたよ。この体なら、人間のように君の( ピーーッ )を( ピーーッ )たり、( ビーーッ )も( ピーッ )て( バキューーーンッ )なことも……」
そこまで一気にまくし立て、呆然としている私の顔を見、ふとイベリ……改め変態は首を傾げた。
「ん? ああ、彼女たちかい? 皆、私の奥さんの猫たちだよ。可愛いだろう? 私の魅力の虜なのだよ。私はどちらの姿でも美しいからね! さあ、私の可愛いソフォーラ、100匹目にして1人目の私の最愛。心置きなく( ピーーッ )を( アハ~ン )しようじゃないか」
大きな手が差し伸べられる。
……限界だった。
「ひっ……きゃあぁぁぁあああああああっ!!!」
多分、今まで生きてきた中で、一番大きな悲鳴が出たと思う。
あまりの騒音に周囲の猫たちが一歩退き、目の前の変態が思わず、といった風に耳を塞ぐのを最後に、私の意識は闇に包まれていった。
唐突だけど、私が、世界で一番怖いものを教えよう。
それは「男の人」です。
小さい子ならともかく、中学生以上の男性は私にとっては恐怖の対象、なのです。
成人男性なんて、もう3メートル以内にもいてほしくない。
それなのに……それなのに、こんな。こんな……!
魂抜けちゃうよ!!
あと、あとね?
せめて前くらい隠せよ! と頭の片隅で考えた私は絶対悪くない!




