俺死ねばいいのに
拍手小話No.8
俺は今、猛烈に困っている。
多分、人生最大の危機だ。
これから先、どれだけ長生きしたって、これ以上の問題など起こりようがないと思う。
些か少女趣味な庭園を彩っているのは、花壇に咲き乱れる色とりどりの花だ。
至るところに小さな人形が置かれ、その庭を可愛らしく演出している。
その庭園の中に、赤い屋根の小さな家が建っていて、開いた窓で薄桃色のカーテンが揺れる様は絵本の中のようだった。
俺はそんな、絵本の中に立っている。
本当なら、いい年した男が混ざって絵になる場所ではないはずだ。
その証拠にほら、目の前で大泣きしている巨大なおっさんは、この場所で浮きまくっている。
「デイジーぢゃあああああんっ」
おんおんと、そのうち干乾びるんではないかという勢いでおっさんは泣いている。
浅黒い肌に、赤みの強い金髪はぼさぼさで、ヒゲも伸び放題。
しかしそんなむさ苦しい中でも異様な存在感を放つのは隆々とした筋肉で、目の前に立たれると壁の如くだ。
俺なんか、簡単に肩に乗りそうだしな。
ん? いくらなんでも、いい年した男1人肩に乗せられるかって?
……まぁいい年した男なら大変だろうがな。
鏡を見たわけではないが、多分今の俺はこんな姿だ。
長いプラチナブロンドは毛先をくるくると巻いて、同じ色の睫に縁取られている瞳は空色。化粧いらずの白い肌に、真っ赤な唇。
頬はふっくらとして、華奢な体に、胸はぺったんこ。貧乳じゃないぞ。育ってないだけだ。
なんたって、今の俺は幼女だからなっ!!
……つっこむなよ。泣くぜ? 泣いちゃうぜ?
おっさんと一緒に大泣きしちゃうぜ?
「デイジーぢゃぁん、やっど、やっど帰っでぎでぐれだんだねえええっ」
暑苦しい。
ムッキムキの筋肉が視界いっぱいに詰まり、ぎゅうぎゅうと抱き潰そうとしてくる。
避けようと思えば避けられたんだが、俺はそれを気合いで耐えた。
何故かって?
それは――これが俺の義父さんだからだ。
「お、お義父さま」
あー、こんな高い声が俺の口から出てんだなぁ。ガチ幼女だ。
それはともかく、悲しいくらい小さな手でぺちぺちと太い腕を叩くと、でかい顔が上がり、わっさわさの髪の下、褐色の瞳がうるうると俺を見つめてきた。
そこにあるのは、喜びと安堵と慈愛。
心から俺との再会を喜んでいるのが分かって、ちょっとむず痒い。
そうなんだよなぁ。すっげぇ、いい人なんだよ。
どれくらいって、誰かが義父さんの悪口を言ってたら、ぼっこぼこにしてやろうと思えるくらい、立派で、優しい人だ。
滅茶苦茶むさ苦しいけど、いい人だ。
「お義父さま、どうしたのですか。泣かないでください」
そんなことを言いながら、精一杯手を伸ばして、義父さんの頭を撫でる。
ああ、これくらいはやってやるさ。
なんか色々悪夢だが、この人に罪はない。ないのだ。
……ただ。
美幼女キャラ作って、むさいおっさんの養女になって、「幼女で養女」とかほざいてた過去の自分。
お前だけはマジ殺してぇ。




