いい子悪い子元気な子
拍手小話No.47
リビダを虐めたいシリーズ その5
「あら、リビダお兄さま」
「やあ、デイジー」
空は澄んで綿雲を飾り、小鳥の歌う昼下がり。
よい香りの満ちる花畑で、幼女は悪魔に出会った。
「相変わらず、悪いことなんて何も知らないみたいな顔してるよねぇ」
穢れを知らぬ乙女に、悪魔は嗤う。
その言葉に、幼女は幼い頬をほんのりと染め、薄い胸を張った。
「はい。デイジーはいい子なのです。リビダお兄さまにもそう思っていただけて嬉しいです」
「はは。でも、僕は悪い子も好きだなぁ。……ね、少しくらい悪い子になってみない? 僕が汚してあげる」
悪魔の囁きに、幼女はくりくりとした目で悪魔を見上げ、こてんと首を傾げた。
「お洋服を汚すのですか? 泥遊び? でしたら、もっと遊びやすいお洋服に着替えてきますわ」
「うん……まぁ、服も汚れるけどね」
真っ白なワンピースを見下ろして、生真面目に答える幼女に悪魔は少し苦笑したよう。
「物を大事にしない子は悪い子ですから。リビダお兄さまは悪い子がお好きだとおっしゃいますけど、でも……デイジーが悪い子になったら、お義父さまが悲しんでしまいます」
無垢の幼女は首を傾げ傾げ、悪魔と大好きな養父の両方を喜ばせる方法を考える。
それから、何を思いついたか、小さな手をぱちんと打ち鳴らした。
「そうだわ、お義父さまも一緒に遊べばいいのです!」
「え?!」
「お義父さまもデイジーと一緒に悪い子になれば、悲しくないですし、きっともっと楽しいです!」
「や、あの、それは」
何やら悪魔がそわそわし始める。
悪魔も提案を喜んでくれたのだと、一層嬉しくなった幼女は輝く笑顔を見せた。
細い指で、悪魔の手をひしと握って。
「お義父さまーぁ! リビダお兄さまが一緒に遊びましょうって! お義父さま~っ」
「呼んだかい、デイジー!」
「うわ、早っ」
花畑の隣の森から、現れたるは幼女の養父。
逞しき筋肉盛り上がる、その姿は熊のごとし。
「やあ、リビダ君! デイジーと遊んでくれてありがとうっ! 僕まで誘ってくれるなんて嬉しいなぁ!」
熊は明るく朗らかに笑って、悪魔をその太い腕に抱き込んだ。
「ぐえっ」
「お義父さま、リビダお兄さまは泥遊びを教えてくださるのですって」
「泥遊びかぁ。懐かしいよ。僕も昔はよくやったんだけどね」
「デイジーはまだしたことがないので、とっても楽しみです」
「うんうん。きっととても楽しいだろうね。さあ、デイジー。まずは着替えておいで?」
「はぁい」
熊に促され、幼女は足取り軽く駆け出した。
その背を見送って、熊は悪魔を開放すると、改めて手を握る。
「本当にありがとう、リビダ君!」
「え、えぇ?」
「君も知っての通り、あの子の友達は皆忙しいから、あまり遊べなくてね。無理もないことなんだけど、きっと寂しい思いをしているんだ。優しい子だから、言わないだけでね。だから、君があの子を気遣ってくれて、すごく嬉しいんだよ。ありがとう、……ありがとうっ!」
「…………」
うるうると、熊のつぶらな瞳が潤み出す。
嗚咽が響き、涙滲む世界はぼんやり。
だから、しっかりと手を握られた悪魔がどんな顔をしていたのか、熊が気づくことは終ぞなかったのである。




