とあるブッタイのメイアン
拍手小話No.42
リビダを虐めたいシリーズ その2
「よくきたな、ケダモノヤロー!」
「お久しぶりだね、蝙蝠様」
目の前に浮かぶ、リコリスにそっくりな少年に、リビダは明るく笑いかけた。
周囲は、少年の城たる異空間。
攻撃どころか移動すらままならい状態で、リビダはあえて笑う。
こうなってしまった以上、ジタバタするだけ無駄だ。そもそもジタバタできないし。
みっともなく取り乱すなど、主義に反する。
(やられっぱなしも、趣味じゃないんだけどなぁ)
圧倒的不利な状況。
どうしようもないとは思いつつ、それでも反撃の機会を探ってしまうのは、リビダの性だった。
この生意気そうな少年を、自分の好きになかせることができたのなら、さぞ気持ちがよかろうと思うのに。
だが、実際そんなことをしようものなら監禁コースは確実。
顔にも態度にも出さない。出していない――のに。
「はぁ」
一時リビダを見つめていた蝙蝠少年が、嘆かわしげにため息をついた。
「このケダモノのハンショクキのケモノのようなセイヨクが、ハンブンでもいいからイヌにあればなぁ」
「繁殖期の獣……」
見抜かれた、と焦るべきか、不本意と怒るべきか。
彼の趣味は相手が嫌がるのを見ることであり、その手のことはあくまでもオマケなのだ。
好きか嫌いかと言われたら、まあ、大好きなわけだが。
(嫌なのに快楽に逆らえない時の屈辱的な顔とか、クるんだよねぇ)
ふとそんなことを考えたリビダに、何やら嘆いていたはずの蝙蝠少年が唐突に真顔になった。
「……ところでオレサマ、おもうんだがな」
「うん?」
「おまえ、キョセイしたほうがヨのタメ、ヒトのタメじゃないか?」
台詞と共に、周囲に浮いていた鉈やら包丁やらが少年の周りに音もなく集う。
その空恐ろしい光景に、「キョセイ、キョセイ」と意味を考えたリビダは一瞬の後に目を剥いた。
「去勢っ?!!」
冗談でなく声がひっくり返った。
「な、い、いきなり何言い出すのさ蝙蝠様?! ヤだよっ?!」
「そうか?」
「そうだよ! ていうかなんてこと言うのさっ、蝙蝠様も男でしょ?!」
「? オレサマ、カバンだぞ? ――でも、そうか。ザンネンだなぁ」
少年はあっさりと引いて、不穏な刃物類は元の位置に戻っていく。
けれど口調はわりと残念そうで、どこまで本気だったのか、リビダには本当に分からなかった。
「じゃあ、ナニしてあそぶ? トランプでいいか? シンケイスイジャクなんてどうだ?」
「……」
今まさに去勢しようとした相手と、今度はカードゲームか。
しかしそれを指摘して「じゃあやっぱりキョセイするか」などと言われたら。
リビダは今、彼の人生でおそらく初めて、身の危険を感じていた。
「うん、それでお願いします……」
「うむ」
力なく頭を下げたリビダに、蝙蝠少年が鷹揚に頷いて、彼らの間にパラパラとトランプが舞い降りてきた。
――10時間後。
「おかえりー」
「……ただいま……」
蝙蝠ポーチから吐き出され、いっそ懐かしくすら感じる地面に降りる。
立つ気力すらなくして座り込み、ようよう顔を上げると、楽しそうなリコリスと、微妙な表情のライカリスがいた。
「楽しめた?」
分かりきったことを聞いてくる、この顔が憎い。
逆戻りしたくはないから、文句など言えないが。
「はは……あんな一方的なのは初めてだったよ」
もし10時間耐久トランプ競技があったなら、ぶっちぎりの連敗記録保持者になっているだろうリビダが、力なく肩を落として儚く微笑んだ。




