ソニアの(自爆)計画 vs リビダ
拍手小話No.25
前編(兄編)
ある日ソニアは考えた。
いつでも変態的なノリで自分を翻弄する変態な双子と、普通に、普通の恋人同士のようなやり取りができるだろうか、と。
今の関係が正式に恋人と言えるのか疑問が残るが、それはそれとして。
思い立ったら試してみたくなるというものだ。それが、ほぼ怖いもの見たさであっても。
(でも、試すにしたって、2人一緒には荷が重いわね……)
それなら、2人が離れたところを狙うしかない。
基本的に揃ってソニアにくっついている双子ではあるが、食料調達などで数日出かけていくことがある。その時は必ず1人がソニアの方に残るから、狙うならその時だ。
(……そうと決まれば)
ソニアは来たるべき時のため、黙々とイメージトレーニングを開始した。
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「では、行ってまいります。ご主人さま」
「精々頑張ってらっしゃいな」
「あぁ……っ」
跪いて出立の挨拶をしてくるビフィダの肩をヒールで踏みつけて、嬉しそうに身悶える姿を見送った。
毎度のことだが気持ちが悪い。
(それはさて置き……)
「じゃあ、部屋に戻ろっか」
そう言って、ソニアの腰を抱き寄せようと伸ばしてきたリビダの腕に、ソニアは逆にしがみついた。
「ん、どうしたの?」
不思議そうに見返してくる視線に、首を振る。
ここからが勝負だ。気合いを入れなければ。
「どうしたの急に。ソニアからこんなことしてくるなんて珍しい」
疑問の中に、からかいの色が見え隠れする。
見上げれば深緑の瞳が悪戯っぽく輝いていて、危険信号だが、ここで潰してしまえば大丈夫。
「そうね。珍しいわね」
リビダの発言に抗わず、素直に認める。
珍しいことは確かだし、ムキになって否定したり、恥ずかしがったりすれば相手の思う壺だから。
それをしっかり押さえた上で、更にリビダの首元に擦り寄れば、微かに笑う気配。
「本当に珍しいよ。どうしたの? ……苛められたい?」
低く艶を含んだ問いかけにもう一度首を振って、ソニアは薄く微笑むリビダの顔を真っ直ぐに見つめた。
「違うけど……ダメ? 嫌だったかしら……」
潤んだ目で見上げる。演技。
悲しげに目を伏せる。もちろん演技。
「ん~、ダメじゃないよ。全然。でも……ソニア、何か企んでるでしょ。悪い子だなぁ」
(チッ、手強い!)
というか、さすがに不審だったか。
しかしここまで来て後戻りの道はない。
ソニアは必死で頭を回転させた。
嘘つき対嘘つきの戦いは、より嘘つきな方が勝つものだ。
人を陥れることに関しては天才的なリビダを相手に、嘘をついて勝てるはずがない。
それならば、本当のことだけを口にしよう。
「だって、甘やかしてほしかったんだもの。……普通の……恋人同士みたいに」
「は?」
「だから。甘えたら、甘やかしてくれるかと思ったのよ。普通に優しくしてくれるかと思ったの」
どうだ。嘘は一切言っていない。
余計なことを……その動機が、怖いもの見たさだということを、省いただけだ。
拗ねたように言い切って、さて今度は何と言われるか、と身構える。
だが、恐れた言葉は降ってこず、恐る恐る視線を上げれば……、
――その時の、リビダの顔は見ものだった。
腹黒さも、無駄な色気も消え去り、ぽかんと目を丸くする姿は、まるで普通の青年のようで。
らしくない発言にソニア自身も精神的ダメージを受けていたが、もしこれで計画が失敗したとしても、これが見られただけで挑戦した甲斐があると思えた。
しかしその表情も瞬き数回のうちに掻き消えて、リビダは普段と変わらない笑みを浮かべる。
できれば今の無防備な表情をもっと見ていたかったのに。ソニアが思わず口を尖らせると、リビダは笑いながら彼女の額を軽く小突いた。
「そんな顔しないで。分かったから。でも……困ったな。普通の恋人同士って、僕にはちょっと分からない」
「あら。そんなの簡単よ。リコリスがライカリスを甘やかしてるみたいにすればいいの」
「あぁ……って、あの2人、別に恋人同士じゃないでしょ。そもそも男女逆だし」
「でも納得できるでしょう?」
「まぁねぇ……」
何気ない会話。それだけなのに、ソニアは感動した。
(何コレ! 何このまともな会話! セクハラも揚げ足取りもないなんて……っ!)
今まで、これほど長く普通の会話が続いたことはない。
時折リビダの目が泳ぎ、言葉を選ぶように口が開閉するのは、ソニアが望んだ「普通の恋人同士」を叶えるために気を遣っているのだろうか。
――ああ、もう十分だ。
別に恋人同士でも何でもない会話だが、それでも十分満足できる戦果だった。
嬉しさに頬が緩む。
「…………ソニアさぁ」
「え? なぁに?」
「いや……何でもないよ。さ、そろそろ部屋に戻ろう」
言い淀んだリビダが、軽く首を振ってからソニアに手を差し出してくる。
それに手を重ねると、彼は少し悩む様子を見せ、掴んだソニアの手を持ち直した。
それからするりと指が絡む。
「!」
恋人繋ぎだった。
「あの2人って、手を繋ぐ時いっつもこうだよね?」
「そうね。……ふふ、嬉しい。ありがとう、リビダ」
「……ソニアがいいならいいんだけどさ」
いいに決まっている。
普段を忘れ、浮かれたソニアは自然と素直な笑みをリビダに向ける。
その微笑みに、再び目を泳がせたリビダは、彼女に気づかれないようにそっとため息をついた。
「はぁ……あんまり煽らないでほしいんだけどなぁ……」
結局、翌朝まで普通の恋人キャンペーンは続いた。
更にその後で、ソニアがどうなったのかは――……。




