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ヴェルデドラードの日常  作者: 雨根
女王様の受難
38/74

ソニアの(自爆)計画 vs リビダ

拍手小話No.25

前編(兄編)


 ある日ソニアは考えた。

 いつでも変態的なノリで自分を翻弄する変態な双子と、普通に、普通の恋人同士のようなやり取りができるだろうか、と。

 今の関係が正式に恋人と言えるのか疑問が残るが、それはそれとして。

 思い立ったら試してみたくなるというものだ。それが、ほぼ怖いもの見たさであっても。


(でも、試すにしたって、2人一緒には荷が重いわね……)


 それなら、2人が離れたところを狙うしかない。

 基本的に揃ってソニアにくっついている双子ではあるが、食料調達などで数日出かけていくことがある。その時は必ず1人がソニアの方に残るから、狙うならその時だ。


(……そうと決まれば)


 ソニアは来たるべき時のため、黙々とイメージトレーニングを開始した。




■□■□■□■□




「では、行ってまいります。ご主人さま」

「精々頑張ってらっしゃいな」

「あぁ……っ」


 跪いて出立の挨拶をしてくるビフィダの肩をヒールで踏みつけて、嬉しそうに身悶える姿を見送った。

 毎度のことだが気持ちが悪い。


(それはさて置き……)


「じゃあ、部屋に戻ろっか」


 そう言って、ソニアの腰を抱き寄せようと伸ばしてきたリビダの腕に、ソニアは逆にしがみついた。


「ん、どうしたの?」


 不思議そうに見返してくる視線に、首を振る。

 ここからが勝負だ。気合いを入れなければ。


「どうしたの急に。ソニアからこんなことしてくるなんて珍しい」


 疑問の中に、からかいの色が見え隠れする。

 見上げれば深緑の瞳が悪戯っぽく輝いていて、危険信号だが、ここで潰してしまえば大丈夫。


「そうね。珍しいわね」


 リビダの発言に抗わず、素直に認める。

 珍しいことは確かだし、ムキになって否定したり、恥ずかしがったりすれば相手の思う壺だから。

 それをしっかり押さえた上で、更にリビダの首元に擦り寄れば、微かに笑う気配。


「本当に珍しいよ。どうしたの? ……苛められたい?」


 低く艶を含んだ問いかけにもう一度首を振って、ソニアは薄く微笑むリビダの顔を真っ直ぐに見つめた。


「違うけど……ダメ? 嫌だったかしら……」


 潤んだ目で見上げる。演技。

 悲しげに目を伏せる。もちろん演技。


「ん~、ダメじゃないよ。全然。でも……ソニア、何か企んでるでしょ。悪い子だなぁ」


(チッ、手強い!)


 というか、さすがに不審だったか。

 しかしここまで来て後戻りの道はない。


 ソニアは必死で頭を回転させた。

 嘘つき対嘘つきの戦いは、より嘘つきな方が勝つものだ。

 人を陥れることに関しては天才的なリビダを相手に、嘘をついて勝てるはずがない。

 それならば、本当のことだけを口にしよう。


「だって、甘やかしてほしかったんだもの。……普通の……恋人同士みたいに」

「は?」

「だから。甘えたら、甘やかしてくれるかと思ったのよ。普通に優しくしてくれるかと思ったの」


 どうだ。嘘は一切言っていない。

 余計なことを……その動機が、怖いもの見たさだということを、省いただけだ。


 拗ねたように言い切って、さて今度は何と言われるか、と身構える。

 だが、恐れた言葉は降ってこず、恐る恐る視線を上げれば……、



 ――その時の、リビダの顔は見ものだった。



 腹黒さも、無駄な色気も消え去り、ぽかんと目を丸くする姿は、まるで普通の青年のようで。

 らしくない発言にソニア自身も精神的ダメージを受けていたが、もしこれで計画が失敗したとしても、これが見られただけで挑戦した甲斐があると思えた。


 しかしその表情も瞬き数回のうちに掻き消えて、リビダは普段と変わらない笑みを浮かべる。

 できれば今の無防備な表情をもっと見ていたかったのに。ソニアが思わず口を尖らせると、リビダは笑いながら彼女の額を軽く小突いた。


「そんな顔しないで。分かったから。でも……困ったな。普通の恋人同士って、僕にはちょっと分からない」

「あら。そんなの簡単よ。リコリスがライカリスを甘やかしてるみたいにすればいいの」

「あぁ……って、あの2人、別に恋人同士じゃないでしょ。そもそも男女逆だし」

「でも納得できるでしょう?」

「まぁねぇ……」


 何気ない会話。それだけなのに、ソニアは感動した。


(何コレ! 何このまともな会話! セクハラも揚げ足取りもないなんて……っ!)


 今まで、これほど長く普通の会話が続いたことはない。

 時折リビダの目が泳ぎ、言葉を選ぶように口が開閉するのは、ソニアが望んだ「普通の恋人同士」を叶えるために気を遣っているのだろうか。


 ――ああ、もう十分だ。

 別に恋人同士でも何でもない会話だが、それでも十分満足できる戦果だった。

 嬉しさに頬が緩む。


「…………ソニアさぁ」

「え? なぁに?」

「いや……何でもないよ。さ、そろそろ部屋に戻ろう」


 言い淀んだリビダが、軽く首を振ってからソニアに手を差し出してくる。

 それに手を重ねると、彼は少し悩む様子を見せ、掴んだソニアの手を持ち直した。

 それからするりと指が絡む。


「!」


 恋人繋ぎだった。


「あの2人って、手を繋ぐ時いっつもこうだよね?」

「そうね。……ふふ、嬉しい。ありがとう、リビダ」

「……ソニアがいいならいいんだけどさ」


 いいに決まっている。

 普段を忘れ、浮かれたソニアは自然と素直な笑みをリビダに向ける。

 その微笑みに、再び目を泳がせたリビダは、彼女に気づかれないようにそっとため息をついた。


「はぁ……あんまり煽らないでほしいんだけどなぁ……」




 結局、翌朝まで普通の恋人キャンペーンは続いた。

 更にその後で、ソニアがどうなったのかは――……。

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