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ベストポジション

拍手小話No.22

 賑やかな夕食も、その後片付けも終わり、弟子たちも引き上げていった。

 まだまだ遊び足りない家妖精たちは外を走り回っているから、家の中は静かなものだ。


 リコリスが洗い物で濡れた手をタオルで拭いて振り返った先に、部屋の隅のベッドに腰かけて本を読んでいるライカリスがいる。

 当初は片付けを手伝うと言って聞かなかったのを、どうにか宥めすかして食後の休憩を習慣化させたのだ。

 自分の時間を全てリコリスのために使ってしまう相棒だから、せめてこれくらいは。

 しかし無表情でページを捲るライカリスの方へと1歩を踏み出せば、即顔が上がり、しっかりと視線が合ってしまった。


「あ、終わりました?」


 ぱっと顔を輝かせて、弾むような声で。

 これは毎度のことだが、その度にリコリスは照れくささと喜びが複雑にブレンドされた居た堪れなさを感じてしまう。

 苦笑いしながら頷いて、本を置いたライカリスに近づきかけ……リコリスはそこでふと足を止めた。


「リコさん?」


 不思議そうに目を瞬かせるライカリスを眺めること10秒ほど。

 リコリスが心なしかワクワクとした顔で――正確には悪戯に心躍らせた表情で、相棒の前に立つ。


「ライカ。ちょっとこう……うつ伏せになって。あと、できたら読書続行で」

「え? は、はぁ……」


 首を傾げつつ、促されるままにライカリスがベッドにうつ伏せる。

 一度は閉じた本を再び開いて、「これでいいですか?」と確認してきた背に、リコリスは笑顔のままよじ登った。


「うわっ、ちょ……リコ?!」

「ん~? そのまま本読んでて?」


 広い背中に上半身を預け、後ろから首に腕を回して真っ直ぐにぴったりとくっつけば、読書どころではなくなった相棒が慌てること慌てること。

 上に乗ったリコリスのせいで、振り返りたくても振り返れないらしい。リコリスが落とされないようにしがみついているから尚更。

 そのうちに、ライカリスは開きっぱなしの本の上に顔を伏せてしまった。はぁ、と重いため息が落ちる。


「重い? ……嫌だった?」


 問いかけは、すぐ目の前にある真っ赤に染まった耳に吐息と共に。別に狙ったわけではない。いや本当に。

 しかし結果として一層真っ赤に色づいた耳を押さえて、ライカリスは呻くように言う。


「……重くないです。嫌でもないです……」

「なら、しばらくこのままでもいい?」

「……………………どうぞ」


 諦めたらしい。

 相変わらず耳は真っ赤なまま、力なく突っ伏して頭を上げる気配はない。

 読書をしているライカリスの背中の上でゴロゴロと甘える予定だったのに、読書の再開もなさそうだった。


(これはこれで可愛いけど、でも…………うーん、温かい……)


 すり、とこちらも綺麗に染まっている首筋に擦り寄っていると、ゆるゆると睡魔がやって来る。

 人の体温は落ち着くものだ。

 誰よりも近くにいる相棒だから尚のこと、とても心地良くて。


「んん~……ライカ、いい匂い……」

「……大きい猫ですね、まったく…………       」


 複雑な声が何かを言った気がしたが、既に理解が追いつかない。

 というよりも、その声もため息すらももう子守唄のようで……リコリスはいつの間にやら意識を手放していた。

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