彼女の野望
拍手小話No.2
リコリス視点
ライカは眠っている。
まだ新しいソファに座って、ゆったりと背を預けて。
その無防備な姿を見て、私は衝動を抑えられなかった。
手を触れたら起きてしまうだろうか?
意外と寝起きが悪くて、それでいて野生動物並みに敏感なところもあって……判断が難しい。
私は手が勝手にわきわきするのをどうにか大人しくさせて、ライカの後ろに立ち、その髪触れた。
「……んん、リコさん……?」
しまった。今回は眠りが浅かったか。
私は慌てて、しかしそれを悟られないように、できる限り平静を装った。
優しく優しく、ライカの頭を撫でる。
「寝てていいよ、ライカ。――少し触っていたいだけだから……ごめんね?」
「んー……? はぁい……」
ほやほやとした返事をしてライカが私の手に擦り寄り、それからまたすぐに寝息を立て始めた。
よし! これならいける。
私は内心で力いっぱいガッツポーズをして、そろ~っと目の前の赤い髪を縛る紐に手をかけた。
(ふっふっふ。諦めてなかったんだもんね~)
少し離れたところでこちらを伺っている家妖精たちに、静かにしているようにと目線で頼み、私は蝙蝠に触れる。
さすがよく分かってらっしゃる蝙蝠様は、私の望んだものを吐き出してくれた。
櫛とそれから……。
高揚感に手が震えそうになりながら、それでも私は精神を集中するのだった。
ライカを起こしたのは、夕食時になってからだった。
隣で「もういい?」と懇願する瞳で見上げてくる妖精たちににっこり笑って頷く。
にぱーっと輝くように笑った妖精たちが、まだ目を擦っているライカに各々飛びついていく。
「ライカさま、かわいいっ」
「かわいい!」
「とってもかわいいのです!」
「お似合いなのですっ!」
妖精たちは可愛いものが大好きだ。
きっと、こうして褒め称える時をとてもワクワクしながら待っていたのだろう。
飛びつかれた本人は、いきなりのことに目を白黒させている。
「え、え? なんです、突然?」
……そろそろ私も我慢できなくなってきた。
ベッドの横から持ってきた小さな鏡を、笑いを堪えながら差し出すと、ライカは訝しげな顔でそれを覗き込み――、
「ちょ、なんなんですか、これは?!」
顔を引き攣らせて叫んだ。
その頭の両脇で、フリルで可愛く縁取られた白いリボンと、それに括られた彼の髪が揺れている。
ツインテールだ。
「あはは! ライカ可愛いーっ」
とうとう我慢できなくなって、私は笑ってしまったが、可愛いというのは意外と本気だ。
中性的な顔のライカだから、予想以上に似合うというかなんというか。
「リコさん……?」
少し声が低くなった。怒っただろうか。
でもその声にあまり力がないのは、未だ「かわいい、かわいい」と妖精たちが喜んでいるからだと思われる。
「ごめんごめん。ライカの髪って綺麗だからさ。我慢できなくて」
「それで何故この髪型になるんでしょうね? もう……」
そっぽを向かれた。
でもこの感じは本気で怒ったというより、拗ねた感じ。
でもこれは長引くとちょっと寂しい。自業自得って言わないでね?
私はライカの隣に座って、その耳元に顔を寄せた。
そっと告げる、これはいつも思っていたけど言わないでいた、私の気持ち。
「――――」
妖精たちにも聞こえないようにそっと。
囁いた途端、ライカは驚いて私を見て、それから顔を赤く染めると、俯いて弱々しく呟いた。
「…… リコさんずるい」
ああ、やっぱり可愛い。
私は改めて実感しながら、ライカの頭を撫でた。
え? なんて言ったかって?
んー、照れくさいから、内緒。




