第11話「元執行人たちと騎士三人衆」⑥
神は人を無意に傷つけることを良しとしない。
まして彼らは、元執行人と知りながらも――そこに望んでいない同情があろうと――ユリウスを歓迎してくれていたのだ。
それを踏みにじったのがユリウスの発言であることは間違いない。悪意があったつもりはないが、同時に考えなしな言葉であったのは、否定しようのない事実である。
言い辛さ故の戸惑いは、ともすれば謝るのを躊躇しているようにも聞こえるだろう。だが、ばつの悪さが隠しきれていないユリウスの表情は、しっかりと騎士たちの目に映っていた。
その様に、クロードはにっと笑い、難しい顔をしていたフィルは長い溜息を吐き、スタンリーはいつものレベルに険を収める。
「おう、いいぜ。謝罪を受け入れよう、敬虔なる神の徒よ」
「……次殿下のこと貶したら本当に根性叩き直すからね」
「今度、殿下の活動を教えよう」
三者三様の反応で許しを得たユリウスは、「感謝する」と告げてからちらりとローレンスに視線を向けた。それとほぼ同時にローレンスも振り向いたので、視線がばちりとぶつかる。
その眼差しからは先程の重圧感は完全に消えており、良かったと心から安堵する様子がうかがえた。まるで保護者のような視線が気に食わず、ユリウスは逸らすことなく視線を睨みつける。
それに気付かなかったのか、クロードが背後からローレンスの肩を組みその視線に割り込んだ。
「ほんじゃ改めて。オレらみんなここで青年団やってるんだ。これからユリウスも青年団参加するんだよな? 分からないことあったら気軽に聞いてくれな、新人!」
朗らかな笑みで親指を立てられ、ユリウスは「噂の」や「新人」というのはもしや新聞ではなくそこからか――と考えかけ、聞き捨てならない言葉をようやく理解する。
「――は? 青年団? 俺が? 聞いてねぇぞ」
「え? 違った? ローレンスさんが入るって言ってたけど」
視線がローレンスに集まった。睨みつけられても逸らされなかったローレンスの視線が、引きつった笑顔と共に逸らされる。
「おい」
「いや、いや、落ち着けユリウス。俺も確定で言ったわけじゃないんだ。けど、入っておいた方がお前のためだと思ったから……」
「勝手に決めてんじゃねぇよ! 何で俺が」
「ユリウス君、入っておいた方がいいよ」
食って掛かるユリウスを止めたのは近付いてきたフィルだ。
視線を向けるが、先程の剣呑な眼差しは前髪に隠れていて見えない。それでも彼からこちらは見えているようで、視線は確かにユリウスを捉えているようだった。
「よく分からないけど、君魔法人形とかいうやつになっちゃったんでしょ? ずっと魔力が必要だって聞いたよ。ってことはさ、ずっと魔女の空間にいなくちゃ駄目なんだよね? だったら、ちゃんと魔女様達や弟子さん達の印象は良くしておいた方がいいよ。人の印象は行動でしか変えられない。青年団は頼まれごとをこなしていく集団だ。入る意味は十分あるよ。――それが分からない馬鹿なら勝手にしたらいい」
辛辣な言葉で締められ、ローレンスはまたユリウスが意地にならないか不安になり、クロードはまだちょっと怒っている同僚に少し笑顔を引きつらせる。
だが二人の不安をよそに、ユリウスは真面目な顔で何かを考えこんだ。ややあって、思考のために下がっていた視線が再び上がる。
「……それも、そうだな」
複雑そうに、それでもユリウスはフィルの言葉を肯定した。それが青年団に入る、という意味なのはその場にいた誰もが理解する。
フィルは満足そうにふっと笑い、ローレンスは安堵し、スタンリーは静かに数度頷き、クロードは満面の笑みを浮かべてバシバシとユリウスの背中を叩いた。
「おー、改めてよろしくな新人! よし折角だ、ひと勝負しようぜ」
脳筋よろしくな歓迎の仕方をしようと、クロードはユリウスを叩いていた手で自分の剣を示す。それにちらりと視線を向けてから、ユリウスは少し眉をひそめた。
「……やれねぇよ 」
両手を広げて見せるユリウス。その意味を「武器を持っていないから」と取ったクロードは、明るい笑顔で親指を立てる。
「心配すんなって。ここめっちゃ武器の種類あるからさ。執行人って武器タイプの神器も持ってたよな? お前も? 何使ってた?」
折り重なる質問にユリウスが口を開きかけた言下、ローレンスから気を焦られるような謎の音が鳴りだした。
何だ何だと視線が集まる中、ローレンスは腰に掛けていた飾り紐の付いた透明の球体を取り外す。音の正体はこれのようで、表に出すと音が一層大きくなりなおさら気が急かされた。
「マヤからの緊急通知だ」と口早に説明してから、ローレンスは球体を顔の前に掲げる。
「マヤ、どうした?」
声をかければ音がやみ、代わりに球体から彼の主であるマヤの声が放たれた。
『ローレンス、すぐにユリウスとルミア姉の屋敷に来て。ブリジットが襲われた。怪我はしたけど一応無事』
衝撃的な報告に、声が聞こえていた一同は一様に表情に強張りを浮かべる。
この魔女の空間で、魔女の弟子が襲われた。
誰が。何故。
疑問は尽きないが、ローレンスは「分かった、すぐ戻る」とだけ返して通信を終えた。
行くぞ、の一言でローレンスは歩き出す。背後から「必要ならすぐ声かけろ」の言葉を受けながら、ユリウスもまた、その背中に続いた。
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