第11話「元執行人たちと騎士三人衆」④
東区域へと向かったユリウス達が足を止めたのは、大きな訓練場の前だった。
まるで野外劇場のように階段状の座席に囲まれており、一番下になる場所では数組が離れながら武器を交わし合っている。中には職人もいるようで、自身の作品の出来を確認している様子も見受けられた。
座席には、休憩中の者や訓練の様子を眺めている者たちが何人も集まっている。
訓練場を囲むようにいくつかの建物が建てられているが、一番目を引くのは、大路の正面に面した建物だった。
入り口横の看板には「自警団・青年団詰所」と大きく書かれている。説明を受けるまでもなくここが朝から散々言われてきた青年団がいる場所だと分かったが、隣のローレンスは親切にもその通りの説明をしてくれた。
分かり切ったことを説明されて苛ついた視線を投げるユリウスだが、ローレンスは軽くそれを受け流して言葉を続ける。
「元々この空間にあった集団は自警団で、青年団は男の居住者が増えたことによって発足されたそうだ。ここの自警団は民間のそれと似たようなもんだがな、一番の違いは主導が女性ってことだな。場所柄女性の方が立場が強いとか、何かと都合がいい、っていうのももちろんあるんだが、魔女の空間にいる女性陣は外より自立精神が旺盛になるんだよな。優秀な人が多いんだぞ。こういうところ見ると、女性の教育も必要なんだなって思うよ」
現在この国では教育に力を入れつつあるが、基本的に対象は男性であり、女性が読み書き計算を出来るようになるのは貴族の娯楽程度の認識がされていた。
ローレンスもその認識でいたひとりだが、魔女の空間に来てからその考えははっきりと覆されている。
学ぶことに男女の別などないのだと、この空間の人々、何より、彼自身が付き従う魔女を見て心からそう思った。
「……学ぶことに性別で制限を付けている方がおかしいんだよ。女賢者マグリアから何を学んでんだか」
ぽつりと呟かれたのは知恵の双子神の神話に出てくる女賢者。神々の知識を誰よりも早く学び人々に教え与えた人物であり、勉学の聖人として名の上がる人物である。
ようやく普通に返事をしてくれたことが嬉しくなり、ローレンスは元気よく「そうだな」と返した。満面の笑みがまるで懐かない犬が懐いたことを喜ぶようで、ユリウスはまたぎろりとローレンスを睨む。ままならない。
「あれ、おーい、ローレンスさーん」
そんな二人に声がかけられる。最初にローレンスが、追いかけるようにユリウスが声のした方向に視線を向けた。
そこにいるのは三人の男性。
一人はこちらに大きく手を振る金髪の男性。波打った髪は顔の両脇の一房以外首よりも短く切られているので、少しばかり暴れている。
もうひとりは薄い緑色の髪の青年。前髪が伸びていて顔半分が見えないが、露わになっている口元には穏やかな笑みが浮かべられていた。
最後の一人は前二人より遥かに大きくガタイのいい黒髪黒目の男性。表情の少なさに加え眉毛がないので、子供を正面にしたら泣かれそうな雰囲気がある。
見た目や雰囲気はバラバラだが、共通する点がひとつ。皆一様に、剣を腰に佩いていた。
素人が真似事をしているにしてはあまりに違和感がなさすぎ、ユリウスはひそかに警戒する。そんな彼の横で、ローレンスは笑って手を挙げる。
「よぉ、騎士三人衆。この間の獣討伐以来だな。元気か?」
元気元気と挨拶を交わし合う横で、ユリウスはローレンスが口にした「騎士」という単語に少しばかり驚いた。
この国において、教会執行人は神に仕え、神の意思を遂行する者たち。神に背く者を裁く権利を与えられており、近年では教会が力を持ったことで、国の中枢にも影響力を与え始めている。
そんな執行人と、陰日向を問わずに対立関係にある者。それこそが、王国騎士だ。
彼らは王国、ないし王族に仕える者で、国と主を守ることを旨としている。各地の警備隊や対外戦力としての兵士たちの管理も彼らが行っており、指揮権も当然彼らが持つため、正に戦闘職の頂点と言える存在だ。
数代前の王が年齢や家柄ではなく才能を見ると公言し、今なお門戸を開き続けている。そのため、この国で唯一老若男女の隔てが取り払われた職業、と言っても過言ではないだろう。
女であれ貧民街出身であれ、才能を示しさえすれば受け入れられる。最隆盛の時代に比べれば教会に押し負けつつあるが、今もフォルセラート王国で最も華のある職業であることに変わりはないだろう。
だからこそ、魔女の空間にそう呼ばれる男が三人もいることに驚きを抱いたのだ。
ただのごっこ遊びの延長なのか、正真正銘の騎士なのか。計りかねていると、件の騎士たちの視線が「そういえば」という金髪の青年の声と共に集まった。
「こっちが例の新人くん?」




