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魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
腐食の魔女編
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第9話「豊穣の魔女」⑤


「うちの神父様はチャールズ様っていうんだけどね、元々は教会都市……えーと、副都。に、いたんだって。でも『魔女だからと問答無用で虐殺するのは間違っている。言葉を尽くして相互理解を図るべき』って主張をしたらうちの村に左遷されてきちゃったの。優しい神父様でね、私が魔女審判で有罪になった時も、『何も悪行を行っていない娘を殺すだなんておかしい』って言ってくれたんだ。その言葉もあって、うちの村全員で逃げ出しちゃったんだよね。総勢113人の大逃亡って凄くない? その後ニーロ様に村人全員助けてもらって、この空間に入れてもらったの。諦めてた畑とかも、お師匠様が持ってきていいよって言ってくれて、ニーロ様が全部持ってきてくれたんだよね。あの時はみんな喜んでたっけ」


 色々あったなー。誇るような、しかしどこかふざけているような顔でジェシカはうんうんと頷く。


 彼女とは逆に、ユリウスは記憶にあるその事態に表情を硬くした。まだユリウスが執行人になる前のこと、とある小さな農村で魔女裁判による有罪が出た。立ち会った教会の使いはすぐさま近くの町の大きな教会まで行き、人を連れて村へと戻った。


 だが、3日前確かにあったはずの村はそこから霞のように消え、後には更地だけが残っていたという。つまりそれが、彼女たち、ということだ。


「ユリウス君、神父様の事気になるなら今から行ってみる? 私たちはその間魔女トークしてるからゆっくりしてくれてていいよ」


 私たち、と言った瞬間に抱きしめられたのは近くにいたブリジットだ。暗い顔で地面を見つめていたため完全に意識外だったようで、思わずといった様子で驚きの声を上げる。


 最初は体を強張らせていた彼女も、ジェシカが全く気にしていない様子で抱きつき続けていると、気が抜けたらしい。抱きしめ返すことはしなかったが、体の強張りは解けた様子だった。


「は? 何で俺が神を捨てて悪魔に追従した奴なんかに」


「おっとそれは違うよユリウス君」


 拒絶しようとしたその瞬間に、ジェシカが広げた手を伸ばして留めてくる。ついつい口を噤んでしまったユリウスに、ジェシカは明るい笑みを向けた。


「神様も村の娘も捨てられなかった、優しい神父様、だよ」


 他の魔女たちに比ぶるべくもないほど、圧倒的にプレッシャーを感じない、親し気で穏やかな雰囲気。それはユリウスを散々悩ませた後「分かったよ」と言わせるのに十分な役割を果たす。こういう手もあるのか、と後ろではファーラが目から鱗が出たような顔をした。


「じゃ、しゅっぱーつ」


 くるりと踵を返し、ジェシカはブリジットの手を握って歩き出す。その後ろを、苦虫を噛み潰したような顔をするユリウスと、どこか楽し気なリッドソン親子が続いた。


 和やかに会話をしながら歩いていると、不意にブリジットの視界の端に鳥が飛び込んでくる。


「わぁっ!?」


 気が付かなかったわけではなく、本当にいきなり現れた鳥にブリジットは驚きの声を上げた。鳥は気にした様子もなく滑空すると、再び翼で風を叩き空へと舞い上がっていく。


 それをやや呆然しながら見上げて見送っていると、手をつないだままのジェシカが「大丈夫?」と声をかけてきた。はっとして、ブリジットはジェシカに笑顔を返す。


「は、はい。申し訳ありません、大声を出してしまって。……あの、今の鳥、いきなり現れました……よね?」


 それともやはり自分がぼんやりしていただけなのだろうか。少々不安になりながらブリジットが問いかけると、ジェシカは鳥が飛んで行った方向へと目を向けた。


「うん、いきなりだったよね。驚かせてごめんね。あのね、この空間って、人は勝手に入れないけど、動植物は自然に入って来られるような仕組み になってるの。ほら、人の手だけだと受粉だとか色々足りないじゃん? 必要だよねってお師匠様とニーロ様が調整したの。あ、もちろん近くに人間の気配がある時は入れないようになってるよ? 突然消えちゃうとびっくりするし、私たちのこと嫌いな人たちに見つかっちゃうと大変だもんね」


 ちなみに出るのも自由なんだよ、とジェシカが指差した方向に視線をやると、先程よりも小さい鳥がいきなり姿を消す。逆、つまり、外に出た、ということだろう。


 感心して見ていると、視線と腕を下ろしたジェシカは緩く笑った。


「人の手だってもちろん必要だけど、やっぱり自然のことは自然に任せるのがいいよね」


 ジェシカの言葉と微笑みに、ブリジットは笑みを返して同意する。子供の頃に聞いたことがある言葉 だと思ったが、その言葉の主を一瞬思いだした瞬間、ブリジットはその記憶を心の奥深くにしまった。



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