第8話「魔女たちの来訪」⑥
「じゃあぜひ読んでよ。魔女の空間だけじゃなくて、外で起こってるあれやらこれやら色々網羅してるからさ」
アレッタは語った。記事の内容は、アレッタ自身がソフィと出歩いて仕入れたもの、記者になりたかった弟子や居住人たちがあちこちの空間に訪れて仕入れたもの、魔道具を飛ばして仕入れたものなど、多種多様だ、と。
一番ブリジットが驚いたのは、アレッタが連れている鳥の半分以上が魔道具である、ということだった。
魔法人形とは違い、似たような姿を模して作成した純粋な魔道具らしい。イシュルカがブリジットの許嫁たちが捕まった時の様子を見せてくれた「眺めの瞳」と同種の道具だと、ニーロが補足してくれる。
集めたネタはアレッタの空間にいる者たちがまとめ、外から仕入れてきたという活版印刷の技術で新聞に仕上げているのだという。
常駐で15人、外を歩き回っている者たちで10人、そしてアレッタの、合計26人で魔女の空間の新聞は作り上げられているそうだ。配達は転送の魔道具が使用されるため、せいぜい振り分けることぐらいにしか手間はかかっていないらしい。
楽し気に語られた内容に、ブリジットは素直に感心した。
グレースの空間が「町」であるなら、彼女の空間はまるで「職場」だ。そう感じた、と感心のまま口にすると、ソフィは「そういうもんだよ」と二杯目の紅茶に砂糖をドバドバ投入しながら笑う。
「魔女の空間ってのは、本人の性分で空気が全然違ってくるもんさ。グレースやジェシカみたいにひとつの町にしちまう娘たちもいれば、アレッタやマヤ、ヘルミニアみたいに自分のやりたいことをやるための工房みたいにしちまう娘たちもいる。アガタとルチアたちの所みたいに何かひとつに特化した所もあるし、ここやイグナシアたちの空間みたいに家族の家みたいになってるところもある。正解の形なんてないんだよ。自分の思うさまに生きる場所を作ればいいんだ。そこで生きるのが合う奴は、自然と集まるもんさ」
丸い眼鏡の下から、真正面に見つめてくる暗めの紫色の双眸が見守る温かさを灯した。見た目の通り、きっと長い間たくさんの魔女たちを見守ってきたのだろう。
「それって……なんだか素敵ですね。ソフィ様の空間はどんなタイプなんでしょうか?」
ブリジットはただ純粋に興味で尋ねただけだった。
だが、何故かソフィはゆっくり視線をブリジットから逸らしてしまう。失礼な訊き方だったか、と肝を冷やしていると、アレッタが突然噴き出した。
「あっはっは、そりゃ空間の話したら訊かれるよ。馬鹿だなぁばあ様」
「ニーロの所にゃ好奇心の強い娘ばっかり集まるねぇ」
「あ、あの、私何か失礼なことを……?」
状況が分からず隣の師を見上げると、ニーロは軽く口元を緩めて肩を竦める。
「ソフィ様は自分の個別の空間を持たない特異な魔女だ。魔女になられてからずっと、失われた魔女の記録を求めて大陸中を歩き回っている。そのせいで、千代の綴りにすら『根無し草の魔女』と書かれていらっしゃる」
千代の綴りとは、女神に魔力を与えられた初代の魔女たちから冠名を受け継ぎ続ける伝統の魔女、記録の魔女が使用する魔道具。
記録の魔法で人間、あるいは時間・空間そのものから記憶を読み取り記録していくそれは、ただただ「事実」を記載するもの。そんな魔道具にまで書かれるのだから、ソフィは本当に空間を持たない根無し草の魔女なのだろう。
「このばあ様本当に凄まじいよ~? 私が拾われた頃、ただの一度もどこかに長居したことないからね。ずーーーっと探し物。見つけたかと思ってもまた次の探し物しに行っちゃうんだから。ホント年の割に落ち着きないんだから」
全く仕方ない、とアレッタは両手を肩の高さまで上げて大げさに呆れた様子を見せた。ソフィはそんなアレッタにこそ呆れた目を向ける。
「あんたが言うかい。44にもなってほとんど自分の空間に帰らないであたしと一緒にふらふらしてるくせして」
「何言ってんのさ。年寄り中の年寄りが旅先でぽっくりいかないか心配してついて行ってあげてるんじゃないか。最早先祖レベルの相手にこんな優しい娘そういないよー?」
「聞こえのいいこと言ってんじゃないよ。あんた新聞のネタ集めるために出歩いてるだけだろう」
「え? うん」
「ちったあ否定おしよ。あー、全くいい性格の孫が一緒であたしゃ幸せだねぇ」
「そうでしょー?」
軽快に繰り返される会話のキャッチボールはお互いに本当に遠慮がなく、けれど疑いないほどに信頼が含まれていた。
思わず笑みをこぼしてから、ブリジットは隣のニーロにこそりと彼女たちの関係性について尋ねる。現れた当初から血縁だと言っていたが、要するに血のつながった祖母と孫、ということなのだろうか、と。
それに対するニーロの答えは否だった。
「ソフィ様の妹君の来孫だそうだ。ひ孫の孫、の位置だな。ソフィ様から見たら来姪孫になる。アレッタが12の時に魔女裁判を受けているのを見つけて、拾ってきたそうだ。私も彼女に初めて会ったのは彼女が15歳になった時だったんだが、ソフィ様と同じ性分だったので、まるで悲観せずに楽しくあちこち回っていたよ。その後もしばらく一緒に行動していたんだがな、流石に他の魔女や弟子たちとの交流がなさ過ぎたので、別の魔女の元に引き取られた」
その当時は大変だった、とニーロは言う。
まだ歩き回りたいアレッタは、8年で培ったサバイバルスキルと身を隠す術を用いて、とにかく逃げ回った。
魔法も使えない少女を探し出すのに、前三大魔女のひとりである知覚の魔女に出張ってもらうことになったのは、未だに古い魔女たちの語り草だ。
そうなんですね、とブリジットは乾いた笑いを零す。ソフィを凄まじいと言っているが、アレッタも中々に凄まじい。この行動力はきっと血筋なのだろう。
「――ひ孫の孫?」
そのまま受け流しそうになった単語がようやく思考に引っ掛かりブリジットは再度ニーロを見上げた。




