第7話「新たな住人」③
「うわー、お座りで跪くとかカッコつけですー」
「これをお座りと認識する思考がどうかと思うわ」
「犬らしく四肢をつきなさい犬らしく」
「うるせぇよ魔女ども!」
強制力が解除されると同時に立ち上がり、辛辣な魔女たちを怒鳴りつけるユリウス。その顔は赤い。
良心的な残り三人の思考は自然と同じものとなった。「遊ばれてるな」、と。
「さて、面白いものも見られたし、私は帰るわ。ドリスが寝不足になっちゃう」
一通りからかって満足したのか、イグナシアが切り出すと、他の面々もそれに同意していく。
「そうね。泊っていくつもりだったけど、魔法人形になったならもう危険はないものね。…………私も帰るわ」
少しの長い間があったが、ウィルマも帰宅を宣言し
「なら、俺も帰ります。マヤも心配してるでしょうし」
ローレンスもそれに続いた。
「じゃあ僕たちも皆さんを見送ったら寝ましょうか。ユリウス、シーツは追加してやるですから、とりあえず今日はさっきの部屋で寝るですよ。ちゃんとしたのは明日改めて用意します」
「……ちっ、仕方ねぇな」
「あ、手伝うよファーラちゃん」
ファーラ、ユリウス、ブリジットも寝る方向で話を進める。そんな中。
「ああ、皆今日は大変だっただろう。色々と助けてくれてありがとう。対策については私が考えておくから、ゆっくり寝て休みなさい」
ニーロ一人が逆行することを口にした。与えられた感謝より、面々はそちらの方に気を取られて視線を一斉に彼に向ける。
「あなただって疲れているでしょう、ニーロ。もう寝るべきよ」
少し眉をひそめるウィルマの忠告に、娘も弟子も揃って頷き同意を示した。だが、ニーロは軽く首を振る。
「いや、大丈夫だ。それより、こうして空間が破られてしまった問題について考えなくては。一刻も争う事態だ、寝るのはその後でも十分だろう」
「お父さん、不安なのは分かりますけど、疲れた頭で考えてもまとまらないですよ。一眠りして、明日にしましょう?」
「何も起こらないという保証はない。もし別の執行人に伝わってしまっていたら大変だ」
「あの少年の神器があれば確かに出来るかもしれませんが、あの神器ほど追跡に特化した奴はありませんよ、ニーロ様」
「だが君が離れてもう四年経っている。君が知らない神器があるかもしれない」
「今日今すぐ来る、なんて確信だってないでしょ? あなたが優秀なのは知ってるけど、今日はもうやめた方がいいわ」
「先ほども言ったが、今日今すぐ来ない、という確証もない。やるべきことは先に片付けるべきだ」
穏やかに、しかしこの上なく頑固に、ニーロは宥めてくる言葉全てを否定した。
自分も何か言いたいが、何と言えば通じるだろう。ブリジットが考えていると、突然ファーラ、イグナシア、ウィルマが揃って静かになった。
何かと思い視線を上げ、ブリジットは顔を青くする。そこには同じ表情が三つ並んでいた。いい加減にしろ、と背後に浮かべた、怒りの笑顔が。
「お父さん」
「「ニーロ」」
ずいと踏み出し三方を囲む三人の女性。その異様な雰囲気には、流石に今のニーロでも気付いたようだ。少し表情を強ばらせる。
「魔道具で眠るか」
「攻撃魔法で眠るか」
「眠りの魔法で眠るか」
差し出される選択肢に応じて、ファーラの手には禁止された直後の魔道具が、イグナシアの掌には圧縮された空気の塊が、ウィルマの指先には紫色の光が、それぞれ構えられた。
「「「好きな方法を選(んでください/びなさい/んでちょうだい)」」」
同時に放たれた言葉に、笑っていない目に、慌てたのはブリジットとローレンスだ。
「寝ましょうお師匠様! 今すぐ! 迅速に! 身の安全のためにも!」
「寝てくださいニーロ様、この魔女たち全員本気です!」
ニーロを囲む魔女たちと娘の向こうから必死に懇願する弟子と青年の言葉に、長い溜息を吐いてニーロはついに折れる。
魔女たちの強制眠らせ手段が引っ込められたのは、「分かった、寝よう」という言葉が明確に口にされてからだった。
その後、客人を送ってからという順序はすっかり狂い、まずニーロが寝室に押し込められ、それを見送ってからファーラとブリジットによって魔女たちとローレンスが見送られる。
そこまでの流れを椅子に座りながら眺めていた騒動の元凶は、「変なところ来ちまったな」と勝手に入れた紅茶をすすりながら独り言ちていた。
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