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魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
腐食の魔女編
64/115

第7話「新たな住人」③


「うわー、お座りで跪くとかカッコつけですー」


「これをお座りと認識する思考がどうかと思うわ」


「犬らしく四肢をつきなさい犬らしく」


「うるせぇよ魔女ども!」


 強制力が解除されると同時に立ち上がり、辛辣(しんらつ)な魔女たちを怒鳴りつけるユリウス。その顔は赤い。


 良心的な残り三人の思考は自然と同じものとなった。「遊ばれてるな」、と。


「さて、面白いものも見られたし、私は帰るわ。ドリスが寝不足になっちゃう」


 一通りからかって満足したのか、イグナシアが切り出すと、他の面々もそれに同意していく。


「そうね。泊っていくつもりだったけど、魔法人形になったならもう危険はないものね。…………私も帰るわ」


 少しの長い()があったが、ウィルマも帰宅を宣言し


「なら、俺も帰ります。マヤも心配してるでしょうし」


 ローレンスもそれに続いた。


「じゃあ僕たちも皆さんを見送ったら寝ましょうか。ユリウス、シーツは追加してやるですから、とりあえず今日はさっきの部屋で寝るですよ。ちゃんとしたのは明日改めて用意します」


「……ちっ、仕方ねぇな」


「あ、手伝うよファーラちゃん」


 ファーラ、ユリウス、ブリジットも寝る方向で話を進める。そんな中。


「ああ、皆今日は大変だっただろう。色々と助けてくれてありがとう。対策については私が考えておくから、ゆっくり寝て休みなさい」


 ニーロ一人が逆行することを口にした。与えられた感謝より、面々はそちらの方に気を取られて視線を一斉に彼に向ける。


「あなただって疲れているでしょう、ニーロ。もう寝るべきよ」


 少し眉をひそめるウィルマの忠告に、娘も弟子も揃って頷き同意を示した。だが、ニーロは軽く首を振る。


「いや、大丈夫だ。それより、こうして空間が破られてしまった問題について考えなくては。一刻も争う事態だ、寝るのはその後でも十分だろう」


「お父さん、不安なのは分かりますけど、疲れた頭で考えてもまとまらないですよ。一眠りして、明日にしましょう?」


「何も起こらないという保証はない。もし別の執行人に伝わってしまっていたら大変だ」


「あの少年の神器(アーティファクト)があれば確かに出来るかもしれませんが、あの神器ほど追跡に特化した奴はありませんよ、ニーロ様」


「だが君が離れてもう四年経っている。君が知らない神器があるかもしれない」


「今日今すぐ来る、なんて確信だってないでしょ? あなたが優秀なのは知ってるけど、今日はもうやめた方がいいわ」


「先ほども言ったが、今日今すぐ来ない、という確証もない。やるべきことは先に片付けるべきだ」


 穏やかに、しかしこの上なく頑固に、ニーロは宥めてくる言葉全てを否定した。


 自分も何か言いたいが、何と言えば通じるだろう。ブリジットが考えていると、突然ファーラ、イグナシア、ウィルマが揃って静かになった。


 何かと思い視線を上げ、ブリジットは顔を青くする。そこには同じ表情が三つ並んでいた。いい加減にしろ、と背後に浮かべた、怒りの笑顔が。


「お父さん」


「「ニーロ」」


 ずいと踏み出し三方を囲む三人の女性。その異様な雰囲気には、流石に今のニーロでも気付いたようだ。少し表情を強ばらせる。


「魔道具で眠るか」


「攻撃魔法で眠るか」


「眠りの魔法で眠るか」


 差し出される選択肢に応じて、ファーラの手には禁止された直後の魔道具(ハンマー)が、イグナシアの掌には圧縮された空気の塊が、ウィルマの指先には紫色の光が、それぞれ構えられた。


「「「好きな方法を選(んでください/びなさい/んでちょうだい)」」」


 同時に放たれた言葉に、笑っていない目に、慌てたのはブリジットとローレンスだ。


「寝ましょうお師匠様! 今すぐ! 迅速に! 身の安全のためにも!」


「寝てくださいニーロ様、この魔女たち全員本気です!」


 ニーロを囲む魔女たちと娘の向こうから必死に懇願(こんがん)する弟子と青年の言葉に、長い溜息を吐いてニーロはついに折れる。


 魔女たちの強制眠らせ手段が引っ込められたのは、「分かった、寝よう」という言葉が明確に口にされてからだった。


 その後、客人を送ってからという順序はすっかり狂い、まずニーロが寝室に押し込められ、それを見送ってからファーラとブリジットによって魔女たちとローレンスが見送られる。


 そこまでの流れを椅子に座りながら眺めていた騒動の元凶(ユリウス)は、「変なところ来ちまったな」と勝手に入れた紅茶をすすりながら(ひと)()ちていた。



お読みいただきありがとうございます!


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