第6話 「裏切りと約束」⑬
「それでも人に使うとは……しかし」
ちらりとニーロの視線はユリウスに向かう。
「事情もあったのだろうが、あれだけ魔女を嫌悪していた男が、その世話にならざるをえない選択をするとはな」
相当切迫していたのか、とニーロは予測するが、当のユリウスは肩を竦めて笑った。
「別にお前らに世話になるつもりはねーぞ。まあこのちびっ子には従うっつー約束はしたが、ずっとと言った覚えはないからな」
復活した者勝ちだ、と言わんばかりの態度に、しかし魔女たちは憤慨するどころか哀れなものを見る視線をユリウスに注ぐ。ニーロは怒りを灯して娘を呼びかけるが、ファーラはそ知らぬ顔でそっぽを向いた。
「は? 何だよこの空気……」
ようやく自分の知らない何かがあることに気付き、ユリウスは戸惑った様子を見せる。あちこちを見回す彼に、ウィルマが小さく息をついた。
「残念だけどね、使い捨てさん。ファーラちゃんがあなたに使うことを提案して、あなたが使うことを選んだのは、そうせざるを得ないだけの道具なのよ」
ぴしゃりと言い捨てられ、ユリウスは言葉を失う。そんな彼を心配そうに見上げてから、リーヌスは恐る恐る尋ねた。
「あの、それはどういう……?」
イグナシアの炎の視線がリーヌスに向く。びくりとすると、涙目でカタカタ小刻みに震えるリーヌス。小動物のような反応に抱いていた警戒心が解けたのか、イグナシアは目元の力を緩めた。
「……その魔道具、昔の魔女が飼っていたペットと別れるのが辛くて作り出した『魔法人形の心臓』っていう物で、対象の生物を魔法人形に作り変える効果があるのよ。確かに怪我も病気もなくなるわ? でも、生きていくには継続的に魔力を補給してもらう必要があるのよ。もちろん、その男もね」
顎で示され、ユリウスはまだ近くにいるファーラの頭を鷲掴む。
「おいチビ、聞いてねぇぞ!」
「そこまで余裕なかったじゃねーですか。つーかそもそも僕に従う=僕の下僕になる=お父さんの空間に入る=魔女にお世話になるぐらい頭回せですよ鳥頭」
「テメェ……! それ魔力ないと俺どうなんだよ?」
「意識があるまま体が動かない状態になるな。かつて飼い主が死んだ後そのままひと月ほど忘れられていた鳥がいたが、魔力を注がれて復活した途端気が狂ったように鳴いて飛び回った後死んだそうだ」
心底疲れたようにニーロが答えた内容に、ユリウスはぞっとして顔を引きつらせた。また何かしたらそれでお仕置きすればいいわね、と笑い合う女性の魔女二人がまた怖い。
「そんな大事なことを言わずに使うとは……ファーラ、お前は一週間魔道具の使用と外出は禁止だ。反省しなさい」
腕を組んだニーロに睨まれ、ファーラは素直に「はい」と返事をし、直後ユリウスを指差す。
「ユリウスは魔道具に含まれますか?」
「含まれるわけないだろ……う」
即座に返答する言下、ニーロはその問いかけの意味を理解した。しかし時すでに遅し。ファーラはにまーといたずらっ子の笑みを浮かべる。
「じゃあ魔道具使えない内はユリウスをこき使うですよ」
この娘は、と疲れたようにニーロは目を手で覆った。
「……早まったか俺」
「……どうでしょう」
力なく立ち尽くすユリウスの腕を、リーヌスはぽんと叩く。そんな彼らの元に、大きめの剣を腰に差したローレンスが近付いて来た。
「ユリウスは俺と同じで魔女様に世話になるお仲間になるみたいだが、そっちのちっこいのはどうすんだ?」
世話焼きオーラの出ているローレンスからは親切心だけが伝わってくるが、リーヌスは神器を抱き締め視線を下げる。
「……お気遣いありがとうございます。でも、僕は帰ります。あなた方が教会の言うような絶対悪でないのは分かりましたが、僕が姿を消したら僕が育った孤児院がどうなるか分からないので」
本当は、許されるならこのまま逃げてしまいたい。コンラッドに言われるまま虚偽の報告をしたが、リーヌスは本部がそれを信じるとは思っていなかった。
けれど蓋を開ければ、教会は確証もなくユリウスを裏切り者と断定して処分にかかった。明日は我が身、と思わざるをえないほど堂々とした使い捨て思考が、ただただ恐ろしい。
「よければ君の孤児院の者たちも連れてくるが」
怯えが顔に出ていたのか、ニーロが優しい口調で提案してくれる。リーヌスはそれに緩く微笑み、首を振った。
「人数が多いですし、卒院して外で働いている上の兄弟たちがいるので。何より、僕の孤児院は副都にあります。副都で魔法を使ったら、多分すぐ捕まりますよ」
それは間違いない、とニーロは顎に手を当てる。




