第5話 「救出作戦、始動」⑤
ニーロたちも彼らの家がある空間に戻ってくると、先に戻ってきた面々がわっと出迎えてくる。
「ブリジット、シンディ、レスター!」
まずアーサーが、続けてハウエルとルーシーが駆け出した。ブリジットはアーサーに抱きしめられ、レスターと彼に抱えられているシンディは左右からハウエルとルーシーに抱きしめられる。
「ごめんブリジット、あの日、ちゃんと助けてあげられなくて――っ!」
顔が埋められた頭に熱い雫がぽつぽつと落ちてきた。懐かしい匂いに、感触に、ぬくもりに、ハンマーを取り落したブリジットも双眸に涙を浮かべてアーサーを抱きしめ返す。
「私も、ごめんね。こんな騒ぎに巻き込んじゃって……」
「いいんだ! 君のために何かしたかったのは俺たちだ。それに、おかげでまた会えた。――それにしてもびっくりしたよ。ブリジット、本当に魔女の弟子になったんだって?」
体を離して目元を拭うと、アーサーは「彼女たちに聞いた」、と後ろで待機しているイシュルカ、アマリア、バステ姉妹に視線を向けた。
「お弟子入りした後のことはわたくしの方でお話させていただきました」
軽く手を上げたのはアマリアだ。記録の魔女たる彼女の説明なら、おかしなことは言われていないだろう、とブリジットはおかしな安堵を抱く。
「ビディ、待っている間にこの子たちには話したんだけど、この子たち一旦わたしの所で預かるわ。ここじゃ狭いから五人も増やすの無理でしょう? まあ、落ち着いたらそれぞれ別の魔女の所に行って働いてもらうことになるけどね」
働かざる者食うべからずよ、とからかうように笑ったイシュルカに、ブリジットは驚いた顔をしてしまった。
「え……アーサーたちずっとここに――魔女様の所にいるの?」
「魔女様って言うのがルール? じゃあ気を付けるよ。居づらくなったら困るからさ」
質問の明確な答えは返って来なかったが、あからさまなYESの回答。言葉を失っているブリジットに、背後から抱き付いてきたルーシーが補足する。
「今回結構大きい騒ぎにしちゃったから、国を出るくらいしないと逃げきれないだろう、って言われたの。でも、ブリジットにいつでも会えるし、ちゃんとした暮らしをさせてくれるって言うから、いさせてくださいってお願いしたんだ」
「勝手に決めちゃったけどいいかな、レスター、シンディ?」
ハウエルが問いかけると、レスターは快活な笑みを浮かべて「もちろん」と答えた。シンディは少し迷った様子を見せたが、外に出たいとも思わなかったのか、遅れて静かに頷く。
「じゃあ決まりね。今日の夜ご飯食べたらわたしの空間戻るから、それまでに話したいことは話してちょうだい。それからビディ、アミー、ニーロ。忘れちゃわないうちに用件済ませちゃうからこっち来て」
呼ばれて、反射のように返事をしたブリジットは素直にイシュルカに駆け寄った。が、用件が何なのか見当もつかない。
一方で、何事か察したらしいアマリアはイシュルカの頬を軽く抓る。
「どうしてわたくしだったのかと思えば、二度手間を省くためですね?」
「だって結局あんたに報告しなくちゃいけないんでしょ? ならこっちの方が効率的じゃない? あいたた、ごめんアミー、謝るからやめて」
反省しない様子を叱るように抓る力を強くされ、さすがにイシュルカは身をよじった。まったくもう、とアマリアはやや怒った様子で腰に両こぶしを当てる。それでも双眸は閉じられたような細目なので、怒りの色も分からない。
「あのお師匠様、一体何を……?」
隣に来たニーロを見上げブリジットが疑問をぶつけると、ニーロは軽く頭を抱えた。
「イシュルカもお前の後見人になりたいそうだ」
「ロージーが一番目はなったし、もう私が宣言してもいいでしょ?」
待ってたのよね~とイシュルカはどこか楽しげだ。
「え? 後見人って何人もなっていただけるんですか?」
てっきり一人だと思っていたのだが、ただの思い込みだったらしい。ニーロはこくりと頷き、制限はない、と教えてくれる。
納得を示してから、ブリジットはイシュルカの前に跪いた。流石分かってる、と満足げに笑ったイシュルカは、その額に手を当てる。
「『変身の魔女』イシュルカ・イシュリカはここに、ブリジット・ベルの後見人となることを宣言します」
決まった文言のためなのだが、珍しいイシュルカの敬語に対する違和感は、ニーロ、アマリア、ブリジット全員が共通して抱いてしまった。彼女の弟子たちも同じようで、「お師匠様いつもと喋り方違うねー」などと言い合っている。
「『空間の魔女』ニーロ・リッドソン、ブリジット・ベルの師としてこれを受け入れ感謝します」
「『記録の魔女』アマリア・ターラント、後見人の儀式の立会人としてこれを認めたことを宣言します」
ニーロ、アマリアが順に片手を上げた。それから、三人の魔女はそれぞれの手を高く天にかざす。
「「「若き魔女に祝福を」」」
以前経験したものと同じように、光と変わった祈りの言葉が降り注いできた。光が収まってから指示を待って立ち上がる。すると、見物していた面々から感心の声と拍手が送られた。
「凄いブリジット、本当に本当に、魔女の弟子なんだ」
「将来魔女になるんだね。凄いなぁ」
「こんなことあるんだなぁ」
「ああもう、まだ頭が追いつかないわ……」
「まさか自分の恋人が魔女になるとはなー」
「ラリーたちはね、ラリーが魔女になるんだよ」
「パニーだよ!」
「マニーがなるんだもん」
仲良し三つ子が「自分が自分が」と喧嘩を始め、その微笑ましさにずっと緊張していた空気がようやく融解する。自然と笑い声が溢れる中、家の玄関が開かれた。
「みなさん、お茶入りましたからこちらにどうぞですよー」
中からティーカートを押しながら出てきたのは、家で待機していたファーラだ。玄関前の机と椅子は、待っている間に増やしたのかいつもより多い。
一同がニーロに促されるまま移動し、それぞれが席に着きファーラのハーブティーで一息つく。ファーラも席に着いたところで、ブリジットはハンマーを彼女に差し出した。
「ファーラちゃん、これありがとう。凄く役に立った」
「ふっふー、そうでしょうそうでしょう。僕のお気に入りですよ」
「わたしをぶっ飛ばすハンマーが? わたしそこまであんたのこと怒らせることしたかしら?」
背後にいたイシュルカは、面白がるような口調でファーラの背中に寄りかかる。ファーラも笑いながら「記憶がなくなるほど強くぶっ叩きましたっけー?」と軽口を返した。この二人はどうやら気が合うようで、その会話はほとんど同い年の友人同士の会話だ。
「……ブリジット、それ何? あの執行人吹き飛ばしてたけど、そんなに力強かったっけ?」
近くに座っているシンディが控えめに問いかける。先の暴露が引っかかっているようだが、普通に話しかけようとしてくれている彼女の優しさが嬉しく、また悲しい。
そんな思いから回答が遅れるが、そこは安定のファーラがいるので問題なかった。




