表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
魔女との出会い編
42/114

第5話 「救出作戦、始動」④


 嗚咽の合間に聞こえてきた声が聞き取れず、ブリジットが聞き返すと、シンディは小さな声で打ち明ける。抱いてしまった思いを。


「ごめん、ブリジット。私自分で、ブリジットを助けようってアーサーの意見に乗ったのに。自分で、助けたいって思ったのに……今、凄く、後悔しちゃって、る」


 滂沱たる涙の中、シンディは掌を返す自分への恥ずかしさと情けなさで息苦しさすら覚えていた。けれど、溢れ出る思いは止められない。


「ブリジットの、せいじゃないって、分かってる。分かってるの。魔力があるのは、ブリジットのせいじゃないし、見つかった時だって、あんなのどうしようもないもん」


 ブリジットの魔力が判明したのは、教会に集められた町人全員に配られた飲み物を飲んだ時だった。体の中心が熱く燃えるような感覚に囚われ気を失い、目が覚めた時にはもう魔女裁判の席に座らされていた。


「でも、でもっ、ブリジットがいなければ、ブリジットを助けなければ、私もレスターも、こんな思い、しなくてよかったのにって、思っちゃったの……っ。ごめんねブリジット、ごめん、私、汚い……っ!」


 しゃくりあげるシンディに一瞬言葉を失ったブリジットは、耐え切れず彼女を上から抱きしめる。


「謝るのは私の方だよシンディ! 私を助けてくれたせいで、こんなことになっちゃって本当にごめん……っ! シンディはさ、シンディは村の女の子の中で一番年上だから、いつも色々我慢して、みんなのために頑張ってくれてたよね。でも、今はいいんだよ」


 込みあがる悔しさに、ブリジットの目からも涙がこぼれた。ブリジットを頭から責めて詰ってもおかしくないような状況だろうに、シンディはそれすら自分に許そうとしない。幼い頃からずっと強くて優しい友達は、今でも変わらない心でブリジットに接してくれている。そんな彼女を恨んでいたこのひと月近くが、ただただ、情けなくて仕方ない。


「恨んでいい、怒っていい、蔑んでいい、嫌っていい。お願いだから無理しないで。これ以上、私を守るためにシンディが傷付かないで――っ!」


 二人揃って泣き出す中、そーっと誰かが近付いた。


「わっ!」


「「きゃあっ!?」」


 突然大声を出されそれぞれ背中を押され、ブリジットとシンディは悲鳴を上げる。守るようにシンディを抱きしめ直したブリジットだが、声の主に気付くと安堵の息を吐いて彼女を解放した。


「レスター、よかった目が覚めたんだね」


 二人の傍らに立っていたのは包帯まみれのレスター。だが、血の気が引いていたつい先ほどまでとは明らかに血色が違く、全身に怪我をしているとは思えないほど動きは軽やかだ。


 何が起こっているのか、と開いた口が塞がらないシンディに、歯を見せて笑ったレスターは指先で奥を示す。体をそらしてその大柄の体の向こう側を見やったシンディは、初めて見る男性を見てびくりと体を跳ねさせた。


「えっ、だ、誰?」


「私のお師匠様」


「俺の命の恩人」


 回答が前後からされ、シンディは訳が分からない様子で二人の顔を何度か見比べる。それから、改めて男性に目をやった。ラズベリー色の首元までの髪と、同色の落ち着いた双眸の中年男性――ニーロは、シンディが怯えているのを分かっているのか近付かずに挨拶をしてきた。


「はじめまして、シンディ。ブリジットの師である空間の魔女、ニーロ・リッドソンだ。詳しい話は後でしよう。今は逃げるぞ」


 くるりと背中を向け、ニーロが一歩踏み出す。すると、先ほどまで室内だったはずのそこに緑が溢れ、奥に見慣れぬ家が現れた。ついて行けずに固まっているシンディを、同じく驚いているがいっそ笑いがこみあげているレスターが抱え上げ、その空間の中に踏み込んだ。彼らの後にハンマーを回収したブリジットも中に入り、そこで空間は掻き消える。


 入れ替わるように廊下の向こうから騒がしい足音が響いてきた。ややあって、ユリウスと無事だった司祭たちが揃ってレスターが寝ていた部屋の前までやってくる。


「コンラッド!? ってことは」


 壁際で座った状態で倒れているコンラッドを見つけると、ユリウスは彼の心配をするより早くドアが壊れた室内を確認した。そして、予想通りもぬけの殻になっている部屋を見て壁を殴りつける。


「くそやっぱりか! 結局全員逃げられてるじゃねぇか」


 教会に戻ったユリウスがすぐさま確認したのは、アーサーたちを残してきた取調室だ。だがそこには寝ている見張りがふたりいただけで、罪人たちは姿を消していた。ならばとここまで来てみれば、やはり残っていたのは気絶しているらしいコンラッドだけ。ぎりと歯噛みすると、ユリウスは倒れているコンラッドを蹴りつける。


「起きろ間抜け野郎! 魔女と相対したのにやられてるってのはどういう了見だ!? テメェ『戦闘こそ我が華』とかぬかしてただろうが!」


 自分が魔女の作戦にいいように動かされた事実が認めがたく、ユリウスは感情任せに怒鳴りつけた。蹴られた衝撃と怒鳴られた声量で呻きながら起きたコンラッドは、起き抜けに突きつけられた責める言葉にユリウスを睨みつける。


「……魔女と相対も出来ないほど転がされていた頭の足らない孤児が、よくもまぁ言えたものだ」


 ふらふらしながら立ち上がったコンラッドはその場に背中を預けた。途端に走る体の痛みに顔を歪めるが、ユリウスは鼻で笑うばかりだ。


「女相手にその様か。強気でいられるのは戦う術がない奴らにだけみたいだな」


 言い捨て、ユリウスは踵を返す。


「リーヌスが追跡成功してるかもしれねぇから、俺はもう一度町に戻ります。何かあったら連絡ください」


 後ろではらはらと様子を見守っていた司祭は、言いつけられた内容に是を返し、その背中を見送った。それから、再度振り返り、コンラッドと向き直る。


「コールダー執行人、怪我の治療をいたしましょう。歩けますかな? それともこちらに医者を呼びますか?」


 優しい問いかけが気遣いと憐れみに聞こえ、コンラッドは司祭を睨みながらよろよろと歩き出す。自分で歩ける、という意思表示と判断し、司祭はその背後にゆっくりと続いた。その間に別の者に指示を出し、医者に準備しておくようにと伝言を持たせる。


 言葉もなく廊下を歩く中、前を行くコンラッドの表情は徐々に徐々に歪んでいった。胸の内にふつふつと湧き上がってくるのは、魔女ではなくユリウスに対する怒り。


 その怒りが間も無く暴発することは、今は天に坐す神々以外知る由もない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ