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魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
魔女との出会い編
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第5話 「救出作戦、始動」②


 女性の声。女性の口調。見張りたちが声を上げかけるが、その人物が掌にある物を吹くような動作をするとぐらりと揺らいだ。後ろざまに倒れそうになる彼らをアーサーが慌てて支えようとしたが、それより早く見張りたちが倒れる速度は遅くなり、ゆっくりと床に横たえられた。


 ぽかんとして言葉を無くすアーサーたちは、固い動作で振り向く。そして、そこに先ほどまでの男性ではない、小柄な女性がいたことに再び衝撃を受けた。


「はぁい。ビディのお友達よね? そっちの彼は恋人。ビディに頼まれて助けに来たわよ」


 手をひらひらさせウィンクをひとつ投げ、不思議な光彩を放つ髪の女性――イシュルカは軽い調子で一同に声をかける。言葉を無くしていた面々は、ブリジットの名前を聞き驚き、次いで安堵の表情を浮かべた。


「ブリジット……! 生きてたんだ……良かった……っ」


 目元を手で覆い、アーサーは歓喜に震える。涙ぐむ声に、ルーシーは良かったねと満面の笑みを彼に向けた。


「あ、あの、あなたは魔女ですか?」


 一方、ハウエルは軽く見開いた目にイシュルカを写す。そうよ、とイシュルカが微笑むと、ごくりと喉を鳴らした。


「りょ、領主様の末のお嬢様ですか? リリアーナ・イシュリカ様」


 領主、娘、という単語にアーサーは顔を跳ね上げ、ルーシーは「えっ!?」と大声を出す。再度集まる視線の中、イシュルカはくすりと笑った。


「ビディよりお勉強してるわね。でも、その名前の女の子は石棺の中で死んだわ。わたしはイシュルカ・イシュリカよ。いいわね?」


 念を押され、三人は戸惑いながらも頷く。現状について行けないからこそ、頷く以外の選択肢が彼らには残されていなかった。


「ん、いい子。じゃあいらっしゃい。逃がしてあげる」


 指先で招かれ、アーサーたちは立ち上がって小走りにイシュルカに近付く。


「あ、あのリリ――イシュルカ様。友達がまだ二人別の部屋に」


 近付いたアーサーは、見下ろす位置にあるイシュルカの後頭部に向けて恐る恐る声をかけた。くいと首だけ上向け、イシュルカは「大丈夫よ」と平然として笑う。


「今、三手に分かれて行動してるところだから」




 ホバソの町は、日常とは乖離した状況に置かれていた。その原因となる少女たちは、うきうきとした様子でそれぞれが手にしている杖を振り回している。


「ねっむれー」


「まっよえー」


「まっどえー」


 発動の呪文を唱えるたびに、杖の先から黄色、青、紫の光の粒子が放たれていた。それを浴びた町人たちは、あるいは眠り地面に転がり、あるいは混乱し様々なことを口走り、あるいは幻覚を見て逃げ惑う。そんな異様な結果に、バステ姉妹は楽しげに笑っていた。


 彼女たちが持っている杖は、ラリーが眠りの杖、パニーが迷いの杖、マニーが惑いの杖という魔道具で、それぞれ眠り・混乱・幻覚の効果がある。


 人の状態を左右する道具で、本来は身を守るために使用する物だが、彼女たちの師はイタズラの道具ぐらいの気持ちで渡していたようだ。ニーロが出力を制限してから返したようだが、それでも町人たちは次々に杖の効果に負けていく。


 そんな様子を見守り、紫陽花色の髪をした女性――記録の魔女アマリアは頬に手を当ててため息をついた。


「師匠に似てしまってもう……」


 先行きが不安な少女たちに視線を向けながら、アマリアは自分と彼女たちの姿を隠す魔法をかけ直す。


 アマリアが急遽呼び出されたのは今朝のこと。呼び出し主は魔女になった時期が同じ、ということから親交が深いイシュルカだった。


「ブリジットさんのためとはいえ、記憶の魔女を前線に出すなんて前代未聞です」


 倒れる人々の間を申し訳なさそうに歩きながら、アマリアはかの魔女が名前を頂いた女神を象徴するシンボルを掲げる教会に目を向ける。それから、先行するバステ姉妹に少し大きな声で呼びかけた。


「ラリーさん、パニーさん、マニーさん。教会を出た執行人がそろそろ来そうですから一旦下がりますよ」


「えーっ、もうおしまい?」


「つまんなーい」


「駄目だよふたりともー。執行人って怖いんだよ。アマリア様の言うこと聞きなさいって言われたでしょ?」


 文句を言うラリーとパニーだったが、怖い思いはしたくないようで、マニーに諌められると慌ててアマリアの元に戻ってくる。三人をしっかり確認すると、アマリアは腕を振り、元の空間へと戻った。


 ユリウスが到着したのは、それから少ししてからのことだ。


「ここもか……ホントにほとんど町中じゃねぇか」


 周囲を見回し、異様な光景に辟易したように呟く。教会につながっている大通りだけをざっくり見てきたが、ほとんどがここと同じような状態だった。驚いている間に、息を切らせたリーヌスが到着する。


「ここで、魔力、途切れて、ますね。何、しにきた、ん、でしょう?」


 使用状態のまま駆けてきたリーヌスが神器をかざすが、反応はそこで途切れてしまっていた。目的が分からない、何で走らされたんだ自分は。そんな恨み言に近い意見に、ユリウスははっとして教会を見る。


「やべぇ陽動か! リーヌス、お前はここで魔力の相手を追いかけろ。サンプルはあちこち転がってるの使え。俺は教会に戻る!」


 言うが早いか、ユリウスは来た時以上の速さで駆け出した。聞こえないだろう返事をしてから、リーヌスはとりあえず息を整え始める。



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