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魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
魔女との出会い編
36/113

第4話 「神の狗」⑦

【注意】

この話の最後には性被害を想起させる描写があります。

苦手な方は最後までスクロールしないようにご注意ください


 教会の裏には、信徒のためにいくつかの部屋が用意されている。そのうちのひとつ、大人三人が泊まれるほどの大きさの部屋には、五人の少年少女が詰め込まれていた。


 一人はオレンジに近い茶色をした髪色で、前髪を左斜めに流している青緑色の目の少年、アーサー・アダムス。


 一人は黒いベリーショートの髪に赤茶色の目、深緑の縁をした眼鏡をかけている少年、ハウエル・バートリー。


 一人は筋肉質な褐色の肌と逆立った銀色の髪が特徴的な、紫色の目の少年、レスター・ボードマン。


 一人は赤色の髪を首元で切り揃え、前髪を中央で開いている、緑色の目の少女、シンディ・マドック。


 一人は薄い青色の髪を伸ばし、前髪を右斜めに流している、浅黄色の目を不安一色に染めている少女、ルーシー・モア。


 皆ブリジットの友人であり、アーサーはブリジットの許婚である。朝から行われていた取り調べでユリウスの神器により隠していたことを口にしてしまったために、揃ってここに閉じ込められていた。


 その誰もが大人との境目の年頃のため、寝具やサイドチェストなどが置かれた部屋はあまりにも窮屈に見える。


「……今何時だろうな。時計もないし窓も閉じられてるから、全然分からない」


 木の板が外から打ち付けられ開けられなくなった窓を拳で叩き、アーサーは眉根を寄せた。


「ブリジットも、こんな気分だったのかな――」


 何もない空白を睨みつける青緑色の双眸が映し出しているのは、ひと月ほど前に魔女と判明してしまった愛しい許婚。お互いに年を取っても隣で生きていくのだと漠然と思っていたのに、あっさりと消えてしまった未来が、今なお悔しくて仕方ない。


「この気分以上でしょ。だってブリジットはひとりだったし、殺されるの待ってる状態だったんだもん」


 ベッドの上で膝を抱えて座っているシンディは、喧嘩を売るような口調でアーサーの独白に答える。ふたりの間にぴりっとした空気が漂いかけるが、その間にレスターが巨躯を差し込んだ。彼に視界を塞がれたら、アーサーにもシンディにも相手は見えない。


「やめろって。不安になるのは分かるけど、ここで喧嘩して空気悪くする必要ねーだろ」


「そうだよ。ほら、ルーシーももう顔上げなって。大丈夫だよ、執行人の人が、村から出るの手伝った以外に何もなければ刑が軽くなるって言ってたでしょ?」


 壁際で蹲るルーシーは、ハウエルの言葉に顔を上げるが、その表情は沈んだままだ。


「言ってたね。『多少』『かもしれない』って不確実にもほどがあること」


 ハウエルが敢えて捨てた部分をルーシーは見逃さない。指摘されたハウエルは「えーと」と視線を泳がせて乾いた笑みを浮かべてしまう。その彼にため息をひとつつき、ルーシーはまた蹲った。


「――ブリジット、助かったのかな?」


 俯いたままルーシーが呟けば、少年少女は「きっと助かったよ」「知らない」「逃げ切ったに決まってる」「どうだろうね」とそれぞれの意見を口にする。その返答にしばらくの間沈黙してから、ルーシーはぼそりと呟いた。


「実は本当に魔女で、私たちのこと助けにきてくれる、ってないかな」


 夢物語だと、ルーシー自身も自覚している。けれどそんな妄想でも口にしていないと心が折れそうだった。そんな幼友達の心情に気付き、アーサー達もそれぞれ力なく笑顔を浮かべる。


「そうだな。ヤバイ! って時に颯爽と現れてくれたりな」


「ブリジットのことだからきっと啖呵切って登場するぜ」


「『私の友達に手を出すな!』とか言ってね」


「……ふふっ、ありそう。それで、群がる執行人の奴らとかを一網打尽にしちゃうのよ、きっと」


「アーサーとレスターが喧嘩した時みたいに?」


 自然と浮かんだ笑みをそのままにルーシーが懐かしいことを口にすると、共通する思い出を持つ残り四人も「そうそう」と同意しながら声を立てて笑った。捕まってから落ちていくばかりだった心は、この時初めて僅かながら上昇する。


 その時、突然部屋のドアがノックもなく乱暴に開かれた。


「やかましいな。罪人風情が耳障りな笑い声を立てるな」


 背後に見張りの大人たちを控えさせているアッシュブロンドの髪の執行人――コンラッドの登場に、アーサー達は水を打たれたように静まり返る。驚いただけとはいえ、素直に沈黙した子供たちにコンラッドは満足げな笑みを浮かべた。


 それから、じろじろとシンディとルーシーを見比べる。値踏みするような視線にシンディは目つきを厳しくし、座ったままのルーシーはすぐ近くにいたハウエルに腕に縋った。


「……ふむ、こちらだな。ついて来い」


 コンラッドの視線が止まったのはシンディだ。大股でベッドに近付くと、乱暴に腕を掴んで立たせる。


「何よ放してよ! 次の取調べは明日のはずでしょ!?」


 抵抗するも、コンラッドの力は強く、シンディが踏ん張ってもそのまま引きずられてしまう。それを引き止めたのはレスターだ。シンディの手を掴むコンラッドの手首を大きな手で握り締めた。


「おい、せめて説明しろよ。あのユリウスって人はちゃんと説明してくれたぞ」


 彼らの身長は、190センチあるレスターの方が五、六センチほど大きく、横幅も筋肉量も見るからにレスターの方が上だ。留めてもらえたことにシンディはほっとするが、掴まれたコンラッドは舌打ちして双眸に残虐な光を灯す。


「罪人風情が」


 言下、空いている右手が腰の神器――幅の広い皮の鞘に納まった剣と思わしきそれに伸びた。背後の見張りたちが慌てて制止しようとするが、遅い。


 コンラッドはさっと神器を引き抜く。それは確かに剣であったが、形状は通常のものとは大きく違った。魚の骨のように刃が左右にいくつもついており、斬撃にも刺突にも向かなそうに見える。


 それでも切られることに躊躇している間に、コンラッドは自分とレスターの間の空間を切り裂いた。


 脅しか、と安堵したのは一瞬。瞬きの後、レスターの全身に切り傷が出来、そこから遅れて血が噴出する。


「私に触れるな、汚らわしい」


 まるでゴミを漁る野良犬を見るような冷たい眼差しを向けるコンラッド。その言葉と被ってレスターは後ろざまに倒れこみ、シンディとルーシーの口からは悲鳴が上がった。


「コールダー執行人! 沙汰のない者に何という仕打ちを――!」


 見張りのひとりが外に医者を呼びに駆け出し、もうひとりは部屋に踏み込みコンラッドを責める。だが、その言葉は突きつけられた剣先によって飲み込まされた。


「罪人が、私に狼藉を働こうとしたので鎮圧したまでだ。何か問題があるか?」


 それ以外の回答は許さない。言外と剣先に込められた命令に見張りは悔しげに口を引き結ぶ。


 コンラッドはふっと小馬鹿にした笑みを浮かべると、倒れたレスターに駆け寄りたくても掴まれたままで叶わずにいるシンディの腕を引き直した。シンディが涙の浮かんだ目できつく睨みつけるが、コンラッドは余裕な顔をしている。


「来い、と言っている。それとも、狼藉者を増やしたいか?」


 剣先をレスターと彼に駆け寄ったアーサー達に向けられ、シンディは抵抗をやめざるを得なかった。最初からそうすればいい、と言うや、コンラッドはシンディを連れて部屋を出て行く。


 引き止めたくても引き止められなかった者たちは、それぞれ悔しさを、あるいは絶望を胸に抱き、充満する血の臭いに喘いだ。


 その少し後、教会の別室に連れて行かれたシンディは、乱暴にベッドの上に投げ出される。誰もいない部屋。そして現状。何を目論まれているのか気付いたシンディは咄嗟に逃げ出そうとするが、大股で近付いて来たコンラッドに呆気なく押し倒されてしまった。


「光栄に思え。神に唾したその行為を、神に仕えるこの身で禊いでやるのだからな」


 にぃと唇を引き伸ばし欲に汚れた双眸を細めるコンラッド。神の名を借る獣のおぞましさに、シンディは全身に鳥肌を立てる。身の内から溢れるように込みあがってくる恐怖と嫌悪感を、堪えきれようはずもない。


「いやあああああああああああっ!!」


 全身から放たれたような悲鳴に、救いの手を伸ばせる者はいなかった。



お読みいただきありがとうございます!


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