第4話 「神の狗」⑥
時は前日の午後に遡る。ホバソの町は町長邸。その広間では、机を挟んで年のバラバラな男性たちが向き合っていた。
客人の男たちが着ているのは揃いの制服だ。詰襟となっている白を基調とした半袖の、裾が長い上着。紺色の長袖と、同色のストールが首にぐるりと巻かれている。腰には上着ごと留めるようにベルトが巻かれ、そこには三者三様の武器や道具が提げされていた。
他に各人で違うのは、上着の左肩に刺繍されている数字と、首から下げているネックレスにつけられたシンボルだ。今いる三人は、大きい方から順に十八、七、六が刺繍されている。
十八が刻まれているのは三人の中で一番小さい――幼い少年で、ミッドナイトブルーの髪を後頭部の高い所でまとめている。髪と同色の双眸には年相応の気力も明るさも感じられない。シンボルは絡み合った蔦と花で、ストールに付けられた鉄の羽が付いたプレートに書いてある名前は、リーヌス・バーリ。
七が刻まれているのは三人の中で一番年上の、20代半ばほどの青年だ。緩く切ったアッシュブロンドの髪はうなじの部分から長くなり、首の後ろでまとめられていた。双眸はアッシュグレイで、その顔立ちは町行く娘が思わず見とれそうなほど整っている。シンボルは重なり合った三本の剣で、プレートの名前はコンラッド・ロル・コールダー。
そして六が刻まれているのは、薄茶色の髪の青年だ。長い髪はうなじより少し上で布を巻いてまとめられていた。双眸は緑に近い青色をしている。シンボルは太陽で、プレートの名前はユリウス・キルコリーネンだ。
「ご指示の通り、罪人たちは教会に閉じ込めておきました。その……この度はお手間をおかけしまして誠に申し訳ございません。何分、子供のすることで、予測がつきませんで……」
しわがれた両手を机の上で組み眉を垂れさせたのはホバソの町長だ。その左右には補佐の男と教会の司祭が複雑そうな顔をしていた。
「よく反省することだな。魔女を取り逃がし、それを助けた者たちに我々が来るまで気付かないとは愚かしいにもほどがある」
コンラッドは尊大な態度で腕を組み椅子に背中を預ける。恐縮する町長たちだが、彼の隣のユリウスは彼を小馬鹿にした笑いをこぼした。
「気付けたっつーか、見つけられたのは俺の神器のおかげだろ。何もしてねーんだからでかい顔すんなよ。ああ、それともお貴族様は人の功績分捕るのが得意だから、今更気になんねぇのかな?」
くっくっと喉を鳴らすユリウスをコンラッドは厳しい目で睨みつけ、すぐに鼻で笑い返す。
「そういうお前は随分卑屈じゃないか。孤児の坊主は功績にも卑しいな」
「おお、おかげさまでお前より上位だしな」
にっこりと笑って返すユリウスのあからさまな嫌味に、コンラッドの口の端がぴくりと引きつった。一触即発の空気が流れる中、町長たちははらはらとし、二人の間に座っているリーヌスは生気のない声で「人を挟んで喧嘩するのやめてくださーい」と言うだけで他人事だ。
ちなみに、本来真ん中には一番上位のユリウスが座るべきだったのだが、年上二人が隣同士に座るのを嫌がったのでこの形になった。
ややあって、ユリウスが先に喧嘩の雰囲気を引っ込める。
「さて、じゃあ俺たちは例の魔女が消えたっていう森でも見に行くか。町長、馬貸してください」
立ち上がったユリウスはその流れで隣のリーヌスの椅子を引きひょいと小脇に抱えた。
「あのー、ユリウスさん。僕荷物じゃないんでそうお気軽に持ち運ばないんで欲しいんですけどー」
一応反論はするが抵抗はしないリーヌスに「おお、そうか」とだけ返し、ユリウスは町長に言いつけられた補佐の男に連れられ部屋を出て行く。一顧だにされなかったコンラッドは遅れて立ち上がった。
「では私は、例の罪人たちの元に行ってこよう」
場所はすでに分かっているので、コンラッドは特に案内を頼むことなく歩き出す。その背中を祭司が慌てて引きとめた。
「コンラッド殿、一体何を――あの子達の取調べはユリウス殿が行うのでは?」
昨日、執行部隊としてユリウスたちがやって来たとき、町長をはじめとした町の者たちは恐々としていた。
それというのも、執行部隊とは対魔女を想定して組織された団体であり、その誰もが武器を所持しているため。神の教えを守るための騎士たち、といえば聞こえはいいが、彼らは全ての男が太陽神より与えられた力――≪太陽の力≫の強さのみが入隊条件となっている。
ゆえに、荒っぽい面々も多分に在籍していた。ひとたび争いが起きれば頼もしい者たちだが、自分たちが標的とあれば恐れざるをえない。
今回も行方をくらました魔女の情報を引き出すことを目的としての派遣だと伝えられ、一体どんな乱暴な手段をとられるのか、とただただ不安だった。
だが、実際にはユリウスの神器により怪我人も出ずに終わった。結果は子供たちが逃亡幇助の実行犯だと判明する、という残念なものだったが、血が流れなかったことだけは町長も司祭も安堵していた。
罪人となった子供たちも、村から逃げ出す手助け以上のことをしていない、と改めて判明すれば、減刑される可能性があると言われている。腕の一本足の一本失うかもしれないが、命を無くすよりはましだ。そう思っていた。
にも関わらず、コンラッドが向かうという。今回やってきた執行人たちの中で、町長たちが最もその神器と人柄を警戒している人物が。
不安そうな司祭と町長の顔を見比べてから、コンラッドは見目麗しい顔に笑みを浮かべる。
「そう心配するな。別に殺しに行くわけではない。話は多方面から聞いた方がいいと思ったまでのことだ」
軽く手を振りコンラッドは再度町長たちに背中を向けた。その瞬間に、その口元はにぃと引き伸ばされ、表情には黒い陰が差す。
「聖務執行だ」
後ろ手に広間の扉が閉められ、町長と司祭は不安げな顔を見合わせた。
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