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魔女は契約を継承す  作者: 若槻風亜
魔女との出会い編
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第4話 「神の狗」②


「そ。ファーラ、紹介して? ああ、ビディの分はいいわ。知ってるから」


 体をそらした魔女は、ハンマーを担いだ状態で仁王立ちしているファーラに視線を投げかける。呆れたため息を吐き出してから、ファーラは面白そうに笑っている魔女に揃えた指先を向けた。


 第一声から愛称で呼ばれたことに少々驚いていたブリジットは、紹介されると気付きすぐさま姿勢を正して座り直す。


「ブリジットさん、こちら『変身の魔女』のイシュルカ・イシュリカ様です。ご覧のとおりイタズラが絶えないので、お名前にちなんで『悪戯の魔女』とも呼ばれてらっしゃいます」


 よろしくね~と手をひらひらさせるイシュルカ。名前にちなんで、との言葉に、ブリジットはその名前の本来の持ち主を思い出す。


 悪戯の女神イシュルカ。神々に悪戯を仕掛け続け、最終的に主神とされる男神を怒らせたことで、自ら動けない岩に姿を変えられた女神だ。


 「遊び相手」である子供たちには幸運を与えることから、子供たちの守り神とも言われている。ホバソの町で、農業の女神と並んで主に信仰されている女神だ。


 それにしても、神の名をちなんでつけることはよくあるとはいえ、神の名をそのまま、しかも、「度が過ぎれば痛い目に遭う」という教訓の象徴である女神の名をつけるとは。


 やや驚いていると、ブリジットははたとあることに気付いた。


「イシュリカ……? それにその髪――」


 何か気付いた様子で軽く目を瞠りブリジットはイシュルカを見つめる。彼女が何に気付いたのか分かった顔をするイシュルカとは真逆に、珍しくファーラがよく分かっていない様子で首を傾げた。


 ブリジットはごくりと喉を鳴らす。


「もしかして、領主様のご息女様ですか……?」


 それは十も行かないほど幼い頃の記憶。視察に来た領主一行を、ブリジットは友人たちと物陰から眺めていた。


 姿を見たのはそれきりだったが、光を浴びて不思議な光彩を放つ髪が印象深かったのは覚えている。その色彩の血脈を遡った先にいる人物が、「神の賜物だ」とかつての王に賞賛されたこともある、と知ったのは、もう少し大きくなってからだった。


「そうよ。髪が特徴的だからすぐ分かるかしらって思ってたけど、そうでもなかったわね」


 くすくすと笑いながら、イシュルカは帽子からこぼれた髪を指先でもてあそぶ。


 そんな彼女を前に、ブリジットはかつて町で流れた噂について思い出していた。


 領主の末の娘が魔女裁判で有罪となり、石棺に閉じ込められた。だが、後日蓋を開けたらその姿を消していた、と。


 本当に魔女だった、領主が子供可愛さに助けた、など様々な憶測が飛んでいたが、どうやら真相は、誰か魔女に助けられた、のようだ。


「あれ? 確かイシュルカ様の魔女裁判って四、五年前……」


 もう魔女に? と驚いていると、ハンマーを片付けたファーラが、脱ぎ散らかされていたイシュルカの底の厚いサンダルをベッド脇に揃えながら説明してくれる。


 曰はく、イシュルカの師匠がもう年であったことと弟子が少なかったこと、そしてイシュルカの魔力の強さが弟子たちの中でも抜きんでていたことから、拾われて二年後にはもう魔女を継いだ、と。


「わたしってば優秀だからね~」


 とぼけた様子で自慢をしながら、イシュルカは揃えて貰ったばかりサンダルを履いた。ひょいと軽い動作で立ち上がれば、その目線はブリジットと同じ程度まで上がる。


「さ、ビディも起きてちょうだい。ニーロに挨拶しなくちゃいけないし、うちの弟子たちもそっちに行かせっぱなしなのよね」


「はっ、はいすぐ――むぐっ!?」


 慌てて起き上がろうとした顔面に温めたタオルが押し付けられた。犯人は当然ながらイシュルカだが、彼女自身の手で行われたものではない。タオルはひとりで浮き上がり、自分の意思があるようにブリジットの顔を拭いていく。


「せっかく魔女の弟子になったんだから、魔法の面白さ体験しときなさいよ。ニーロはこういうのには魔法使わないから楽しいでしょ?」


 声を立てて笑いながらイシュルカは踊るように腕を振り、立て続けに魔法をかけ続けた。


 浮いたブラシは髪を梳いてくる。着ていたパジャマは勝手にブリジットから離れ、ベッドの上にたたまれて置かれた。恥ずかしがる間もなく、絵本に出てくる少年騎士が着ていそうな衣装を一瞬で着させられる。浮き上がった体が床に下ろされる直前には、麻で編まれたショートブーツが履かせられた。


 事柄自体は拍手をしたくなるほど鮮やかだ。対象が自分で、何の許可もなく行われた、という点を除けば。


「うん、似合う似合う。わたしのコレクションよ。貸してあげるわ」


 一体楽しんでいるのは誰なのか。さすがに暑いので即座に脱いだ帽子を胸の前で抱えながら、ブリジットは思わず呆れた顔をしてしまった。


「ブリジットさん。さっきのハンマーはひとつしかないですが、倉庫に魔封じの魔道具ありますから、いい加減にしろと思ったら使ってください」


 さらりと辛辣なファーラに、ブリジットは力なく「分かった」と答える。



お読みいただきありがとうございます!


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