第3話 「師匠は凄い」⑫
【注意】
この話には不同意の性描写が含まれます。
苦手な方は以下の概要だけ確認してこの話は飛ばしてください。
【新規登場人物】
■ユリウス・キルコリーネン=教会執行人。第五執行部隊第六位
■壮年の男=第五執行部隊の隊長
【新規用語】
■聖務=悪行を神に仕える身で禊ぐ、という名目で行われる性加害。拷問に耐える相手の心を折るために男女問わず行われる。今回の被害者は女性
【概要】
副都レイレンブルグの教会の地下で、指示を受けたユリウスは情報を隠す女性を聖務の対象として扱う。
聖務を終えたユリウスに、隊長は告げる。ホバソの町へ迎え、と。
時は一週間ほど遡る。
時刻は下弦の月が輝く深夜、場所はフォルセラート王国の副都レイレンブルグにあるとある教会。
その地下に続く隠し階段を、壮年の男性がひとり靴音を響かせ歩いていた。手にしたランプで照らされる視界は限られているが、男の歩みに迷いはない。
しばらく歩いていると、遠くから何か声が聞こえてくる。それは段々とはっきりとしていき、階段を降り切った頃には、女性の嬌声だと分かった。男は特に気にした様子もなく通路を進み、暗い灯りが漏れる扉を押し開ける。
まるでそれを見計らったように、ひと際大きな声が聞こえてきた。見れば、室内にある檻の向こうで女性が裸で横たわっているのが目に入った。体を大きく上下させ荒れた息を繰り返す女性の焦点は合っておらず、入って来た男にも気付いていない様子だ。
その女性の髪を、彼女の上に乗っていた、服を着たままの男がゆるりとかき上げる。露わになった耳に、彼はそっと唇を寄せた。
「愚かな神の手下には屈しないんじゃなかったか?」
まるで睦言を交わすような甘い声。応じて、床石の隙間に突き立てられていたサーベルから発せられていた光が収まっていく。
すると、正気を無くしていた女性の双眸に徐々に理性が戻りはじめた。しかし、戻らぬ方が幸せであっただろう。自分の身に起こったことを理解した女性は、双眸を見開き、唇を震わせた。
目元を細めると、彼女の上にいた男は上半身を起こし彼女の中に入ったままの自身を引き抜く。残る快感と不快感に耐え切れず身をよじる女性を見て、男はおかしそうに笑った。
「自分から求めた上に、随分気持ちよさそうだったじゃないか」
頬を撫でれば、女性は小刻みに首を振る。嘘、嫌、そんな単語が聞こえてくれば、男は再度彼女の耳元に唇を寄せた。
「浅ましいな、雌犬」
短く告げられた見下す一言は、折角戻った女性の理性を崩壊させた。押し寄せる嫌悪に耐え切れず悲鳴を上げる彼女からどくと、男性は下げていたズボンを上げて檻の中から声をかける。
「おい、もういいぞ。これでもう隠してる魔女たちのことも喋るだろ」
呼びかけに答えて二人の男が続きの間になっている隣の部屋からやってきた。檻が開けられると、中にいた男は長い薄茶色の髪を払い、床に刺していた剣を抜いて檻から出る。その後、やってきた二人の男たちは中で悶えている女性を乱暴に座らせた。
取り調べが行われる背後への興味など微塵も示さず、薄茶髪の男はやって来ていた壮年の男と向き直る。
「何か用ですか隊長」
乱れた髪をまとめ直し、うなじの少し上で縛り直しながら男が問うと、隊長と呼ばれた壮年の男は質問に答える代りに檻に目をやった。
「聖務ご苦労。だが、心を折るだけならわざわざ快楽に浸らせる必要もないのではないか?」
純粋に疑問を口にすれば、薄茶髪の男は「分かってない」と笑みを浮かべる。
「俺の所に寄越されるのは普通の拷問に耐えるような連中ばかりでしょう? そういう奴らはね、男でも女でも、力任せにしたところで『自分の意思は汚されていない』と心を保つんですよ。でも、自分で快楽に身を任せてしまえばその言い訳ももう使えませんよね? 心を折るならそっちの方が早い。幸い、俺の神器はそういうのに向いている」
にぃと唇を引き延ばす笑みの嗜虐的な様子は、普通であれば心を冷やすところであるだろう。だが、向かい合う壮年の男は「なるほど合理的だ」と頷いて見せた。
「ああ、用件だったな。ひと月ほど前にここから西にあるホバソの町で魔女狩りがあったのは知っているか?」
問われ、薄茶髪の男は少し考えてから「ああ」と思い出すように声を上げる。
「対象の女が逃げ出したやつでしたっけ? あれまだ捕まってないんですか?」
「ああ。それで、上から指令が出た。コンラッドとリーヌスを引き連れて、ホバソに向かってくれ。最近逃げられることが多くて、いい加減しびれを切らしているようだ」
上司に指示され、薄茶髪の男は軽く肩を竦めた。地方の教会が起こした失態の尻拭いに行くことになるとは。面倒な気持ちも沸いていたが、命令とあっては逆らえない。一緒に行く内の一人は嫌いな相手だが、それもまあ仕方あるまい。
「分かりました。……にしても、最近やけに魔女を捕まえるのに躍起になってますね? あちこちで裁判起こして魔女と断定されたやつらを捕えて。執行部隊が確認するまで殺さないようにって通知も出てましたけど、何かあるんですか? ――たとえば、大教会の地下の〝アレ〟に関係ある何か、とか」
それでも、気になることを訊かない理由にはならない。薄茶髪の男が見上げる位置にある壮年の男の顔を探るように見やれば、まるで動じない上司はさらりとこう返す。
「神の名の元に下された命に疑問を持つな。知りたいならば副隊長以上になれ」
取り付く島のない壮年の男に緩い返事をしてから、薄茶髪の男は改めてその前に跪いた。壮年の男はその部下に掌を向ける。
「汝、ユリウス・キルコリーネン。第五執行部隊第六位の身にかけ、神ご意思を遂行せよ」
正式な指令。それを受けて、男――ユリウスは楽しむように笑った。
「神の御心のままに」
月の光も届かぬ地下で、思惑がまた一つ、動き出す。
お読みいただきありがとうございます!
もし物語を追ってもいいと思っていただけましたら、★評価やリアクションで応援していただけるととても励みになります




